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21 地味女とビアンカ・スタッフ

フローラ・ロスベル 23歳


フラジオ男爵家の末娘。

美しく成長した娘を見込んで、中等部から王都の学校に入学させられる。


内部進学の女生徒は、彼女とは、距離を置き、フローラはしばらくの間、孤独だったらしい。

社交に明るい訳でもなく、勉学に秀でる訳でもない。

箱入り娘だった彼女に、学校は、辛い場所だった。


ただ。

フローラは美しかった。

既に、一年生にして、その美貌で中等部の男子に注目された。

女子か敬遠したのは、それも一因だったのだろう。


彼女の父は、良家の子息の目に止まれば、それで良かった。

学校生活に夢を膨らませていた彼女も、いつしか、男を陥落させ女を影で泣かせることに、快感を覚えるようになる。


そして。


エイブと出会った。


エイブは、名門公爵家の嫡男として、重い期待がかかっていた。

武道も学問も、エイブは〈中庸〉。

程々の成績に、母親の叱咤激励が辛かった。


エイブは、絵が得意で、ひょんなことから、フローラをスケッチしたのが、きっかけだった。


良家の子息を狙うフローラ。

現実逃避し、自分を認めてくれる存在に飢えていた、エイブラハム。


エイブは夢中になり、

フレジア家は、エイブを離すな、と命じた。


公爵家は引き離そうと尽力したが、逆に二人を燃え上がらせて、幼い恋は、神殿での誓いにまで、行き着かせた。


フローラは、退学し花嫁修業。

フレジア家は、彼女にエイブ以外の虫がつかないよう、再び箱入り娘とした。


それが、唐突な破局。

だが、その美貌はすでに紳士倶楽部でも、話題となっていた。


金づるが欲しいフレジアは、ロズベル男爵の熱心さに、飛びついた。


そして、18歳の輝くばかりのフローラは、20歳も歳上の男爵と結婚した。


「凄いわね。

美人だってだけで、世の中渡ろうとして、それを達成させるなんて」


「ビアンカ様も、やろうと思えばできますよ」


「ゴメンよ。男に媚びて生きるなんて……

で、結婚後の生活は?」


書斎で書類をバサバサとめくっては閉じ、めくっては閉じ、を繰り返しながらも、私はエマの報告をしっかり焼き付けておりました。


「夫婦仲は、良いようですね。

結婚して5年ですが、子宝には、まだ恵まれていません。

男爵が、子ができて、そちらに妻の関心が移るのが嫌なのでは、と言われています」


そんな男もいるのね〜。

お義母様みたいな姑がいないからよね!


「男爵は、領地経営と貿易会社経営で、財をなした人ですから、各地を飛び回っているようです。

はじめのころは、フローラも同行していましたが、次第に王都に専住するようになったとか。

ですから、年の半分は男爵と、半分は独り身で館にいるそうです」


「きな臭いわね」


「おっしゃる通り。

大人しく既婚夫人との社交や、家の管理をしていればよいものを」

「やっぱり?」


フローラは、派手な生活に慣れていった。


夜会で次々と男性と踊り、語らい。

買い物三昧を楽しみ。

遊び仲間を作って、悪い遊びにも手を染めた、らしい。



「その辺になると、使用人も口を閉ざしますからね。裏を取るには、専任の者が必要でしょう」


「そうね。

カードは多ければ多い方がいいものね……それに、今は、エイブとどうなっているか、が欲しい」


「ビアンカ様。専任の者、とは?」

タウンゼントが尋ねてきます。


「……私の武器は情報。

だから、様々な調査を引き受けてくれる人がいるの。

エマ。

……イーヴォを呼んで」


「ビアンカ・スタッフを……」

「ええ。

今動かさなくて、いつ動くの。

ビアンカ・スタッフ発動よ」


エマは、にっこり頷いて、

「直ちに」

と、退室しました。


ハテナハテナ、のタウンゼントに、私は苦笑いしつつ、


「私が配領された暁には、経営や問題解決に参画するスタッフなの。

でも、今回の事は、それらに勝るとも劣らない私の危機ですからね」





小一時間程して、黒髪赤目の若者が書斎に来ました。


「タウンゼント。紹介するわ。

こちらイーヴォ

彼は情報収集の専門家。

どんな状況でも、調査してくれるわ」


会釈するタウンゼントに、

ニヤニヤと、イーヴォは、


「コンラート・タウンゼント42歳。大タウンゼントの甥。

独身。

天文学に長け、子供時代は学者を目指していた。

今も星の観測を趣味とする。

執事としてのスキルは優秀。

マナー、語学、文化芸術の知識に富み、どんな客人の要求にも対応する才覚から、様々な家から、引きがある。

本人はロックフォード一筋。

好きな色は青。

嫌いな言葉は『怠惰』」


「……参りましたな」



「……下らない詮索まで、ペラペラと。このお喋り男!」


エマの手刀がイーヴォに炸裂し、

辛うじてイーヴォは腕で防ぎました。


「いてて……それで、ビアンカ。

調査依頼って?」


私は真顔で言いました。

「夫の浮気調査」


「はあ?結婚してまだ、間もないのに?」

「フローラ・ロスベル男爵夫人の素行もね」

「それって、浮気相手?

うへー、ビアンカを娶っても、つまみ食いする男って、なんなのさー」


私は、ダム!と、両手で机を叩いて、

「間諜の資質は、寡黙な事よ!

黙って行く!」

と、睨みました。


「へいへい。期限は?」

「一応、明後日、報告を入れて」


リョーかいっ!

と、軽い返事で、イーヴォはエマに投げキッスをして、出ていきました。


「ったく!あの馬鹿!」

エマの激高に、私は苦笑しながら、


「アルとウザークも、来るわね」

と言うなり、


バタバタバタ!(困ります!)

という下女の声がして、


「うおーい、ビアンカ!」

「お前から、来いって、珍しいねー」


という声と共に、扉が開きました。




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