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13 地味女、名を上げる

「え、あ、あの、私」

「全く!やっと、公爵様のコレクションを目にしたというのに……ああ」

老婦人は、フラフラとその場に崩れ落ちそうになり、さっ、と、タウンゼントが受け止めました。


ザワザワとする客人をそのままには出来ませんので、私は


「どなたも、お怪我はなかった?

良かったわ。

大丈夫です、お義母様。

東の国に、『金継ぎ』という技法がございますの。

この縁を溶かした金泥でつないで頂きますわ」

と、周りに聞こえるように、穏やかに告げ、それから、老婦人に、


「奥様、どうか、お気を落とさずに。古い物を新たに蘇らせる方法はございますから。

品が品だけに、より存在感を増した味わい深いものとなるでしょう」

と、慰めました。


老婦人は、

「ビアンカさん。

貴女は、

素晴らしいわ……」

と、涙を落としてお褒めになりました。


騒動に、庭から戻ったエスメ夫人は、目を剥いて、


「ロックフォード夫人

小娘も貴女も、宝石なら夜会でひけらかせばよいものを……

嫁の足を引っ張るのは、もうおよしなさいな」

と、険しい表情で、仰いました。


いかな公爵と侯爵でも、サロンの女王、流行の牽引者と称されるエスメ夫人です。

彼女が否、と言えば、それがルールとなるのです。


『一点豪華で競うの!』

と、私に教授した姑は、今は、羞恥で真っ赤です。


空気が読めない小姑は、

「ビアンカよっ!

あの女のブレスレットよっ!

あいつが、つ、付けろって」

と、おツムの弱い責任転嫁を喚きました。


私は

(キター)

と、心でガッツポーズ。


再び、ほう、と、わざとらしーく、ため息を付き、


「……だから、お止めしたのに。

私が説明しようとしても、お義母様が遮るから……」

「何よっ!今更、

アンタのでしょ?アンタがっ」


私は鼻眼鏡をつい、と、上げて、

ギャーギャー喚いているイライザに、宣告しました。


「昨日も、再三申し上げようとして聞き入れなかったのは、あなた方です。

そのルビーは、イミテーションです」


「え」「は」


エスメ夫人が、フリーズしている二人に近づいて、イライザの腕からブレスレットを外しました。


そして、しげしげと透かして見て、


「あら。

よく出来た品ね。

ガラスと金メッキ?」


姑は顎をがくーっと落として、

「イ、イミテ……」

と、青ざめてます。おほほほ。



私は、真顔で頷いて、

「はい。

本物は、修理中ですの。

それは、職人が修行の為に作ったそうですわ。

あまりに上手く出来すぎて、間違って売らないよう、本物の持ち主の私に下さったのですわ。

……昨日から、事あるごとに、それをお伝えしようとしてましたのに、

勝手にお使いになるから……」


この言葉で、

(価値もわからず兄嫁の持参の品をぶんどった姑小姑)

と、言うことがバレてしまいました。


へっへー。


「あ、あなたね、まるでイライザが盗人のように言わないで頂戴!

あなたが譲ってくれたのでしょう!」


いや、娘のせいにすんなよな。

アンタがむしり取ったんだろが。


「……本物が存在するのに、イミテーションを人に貸す悪趣味は、持ち合わせておりません」


そう告げると、姑は更に真っ赤になり、イライザは、わあっと泣きだしました。


さっ

と、タウンゼントが二人に

(奥様、お嬢様、こちらに)

と、侍女の手を借りて、二人を退室させました。


あーあ


しばらく社交界には、出てこないんじゃないでしょうかね。引きこもりですね。

オマケにイライザは、友達無くしましたからね。


「皆様、申し訳ございません。

お口汚しにと、言っては何ですが、ワインセラーに保管してありました逸品も、ご覧いただけますか?」


私は、エマに合図を出しました。


「あら」

「まあ!」


傍系老婦人は、明るい声を上げました。


「お爺様のヴァイオリンね!」


私はボウと楽器を受け取りました。


「はい。

セラーで保管なさる公爵様の愛情を感じました。この名器のお銘は、確か」

「〈将軍〉よ。

貴女、お弾きになれる?」


「少々」


そうお伝えして、私は〈将軍〉を顎に乗せ、小曲を奏でました。

お銘に相応しい、重厚な倍鳴りです。

私のような地味な風貌に相応しいですね!


その音色は、一気に部屋を包んで、貴婦人たちは、ほう、と、柔らかな微笑みをたたえました。


私にとっては三代前の公爵様は、この名器を温度管理の優れたワインセラーに保管なさっていたのです。


見つけた時には、状態の良さに驚きました。


それより、地味女が、陶磁器にも庭作りにも、更に楽器演奏にも長けている事に、皆様驚きを隠せない様子でした。


(侯爵家は、私への教育に糸目はつけなかったもの)


そうなんです。

蝶よ花よ、と父と兄たちで寵愛した私は、

蝶や花に相応しい淑女たれ!との、彼らの理想を叶えんと、英才教育を叩き込まれておりましたもの!


領地教育も功を奏しました。

貿易の港を有するため、様々な取引の品々を勉強しましたからね。


人の下賎な噂話する暇あったら、勉強レッスン勉強!でしたのよ、イライザ!


弾き終わった後の拍手と微笑みは、私、ビアンカを既婚の夫人達社会が認めた証となりました。


お帰りの際には、エスメ侯爵夫人から

「私の茶会には、貴女を必ず招きますわね。サロンにも顔を出して頂戴。紹介したい方々が大勢いますからね」


と、最高の賛辞を頂きました。


〈社交界の女王のお気に入り〉の称号を頂いた瞬間です。


老婦人は

「またお爺様の遺品に会いに来てよろしいかしら」

とのご要望を仰いましたので、

「奥様でしたら、何時でも。

お話も是非伺いたいですわ」

と、お伝えして、再度涙を流されました。


例の三夫人は、すごすごとお帰りになりました。

家で、娘たちへの説教は必須でしょうね。


この日を持って、ロックフォードの新妻は、

〈エスメ夫人お気に入りの賢夫人〉

となり、姑は

〈真贋も分からない公爵夫人〉

と、なりました。


それより、未婚のイライザが、

(あれは、婚期が遠いわね。

エスメ夫人に睨まれた下品な令嬢)

と、ヒソヒソと囁かれたのは、言うまでもありません。


お義母様、イライザ。

地味は既婚にとって、決してマイナスではないのですよ。

必要なのは、教養。


そして……


「今日は大成功だったそうだね。

タウンゼントが感激していたよ」


うふ。気にかけて下さったのですね。まあ、逃げたのは、大目に見ましょう。


私は夫に、マッサージを施しました。

「ああ、気持ちがいい……

ビアンカ、後で、貴女を気持ちよくさせてあげるね。違うイミで」


まあ♡旦那様ったら!


うふふ。イライザ。

奔放な振る舞いは、人前なら下品。

夫の前だけなら、

愛され妻になれるのですよ。

お分かり?






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