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12 地味女のざまぁ

「凄いですわよねえ〜〜っ。

こんな真面目そうなフリして、ねえっ、叔母様方もそう思われたでしょ?

ビックリよねえ。

あ・ん・な・事、兄に言わせるんだからぁ」


それを聞いた三人のご夫人は、ソワソワ致しました。


そりゃ、そうでしょう。


娘と、人様の(ねや)の事を詮索してたなんて、人前でひけらかすはずがございません。


ね、ね?

と、何かを促すイライザに、


私は2杯目のポットを持ったまま、

「まあ、イライザさん。

親しき仲にも、ですわよ?

ご夫人方から、お声がかかりまして?」

と、やんわり小声で(でも、聞こえるように)言いました。


「貴女の出る幕じゃないわ」

「いいえ、大事なことです」

私は更に、言葉を重ねました。


「もう17でしょう?

この場では、あなたが1番年少なのですよ?

皆様からお声かけがあって、会話なさるのが常識ですわ」


んぐっ、とイライザは、喉を鳴らしましたが、矢張りイライザ。

今までしおらしくしていた義姉の正論に、かっと、頭に来たようです。


「……叔母さま方とは、周知の仲よ!ねえ、叔母さま方」

「え、ええ」

ハンケチで口元を覆いながら、御三方は互いの目を見遣りながら、頷きました。


「ほらっ、聞いたでしょ?

全く、オトコを誑かして咥えるのだけが得意なくせに、ご注文付けられる立場かしらっ!」


勝った、と、思ったイライザは、少しばかり声高になっておりました。


ザワザワとお喋りしていた皆様が、一瞬、しん、と、なりました。


しーらないっと。


『オトコを誑かして咥える』なんて言葉、

傍系の老婦人が耳にしたら、

……あー、怒ってます。

めっちゃ般若です。


私は、やや俯いて、鼻眼鏡を直していました。

泣いているように、見えたでしょうか。めっちゃ笑いを堪えてたんですが。


「まあ、イライザ。学校のお芝居の台詞かしらっ?

さあさ、こちらにお座りなさいな」


姑は、自分の隣にドナドナしたいようですが、イライザは、テンパったらしく、

「あ!の!

ビアンカはっ!」

と、アワアワして立ち尽くすので、


「嫌ですわ、イライザさん。

夫のエイブラハムを慕っているからって。

そんな風に、『嘘』を吹聴しては、お兄様に叱られますわよ?」

と、優しく声をかけました。


「だって!あのっ!」

「そうですわね。私も兄様達が居ますから、気持ちは分かりますわ。

あることないこと、義理の姉の悪口を言って回りたい気持ちは。

でも、嘘はいけません」


「嘘じゃ、ないっ!

聞いたの!私!」


ほう、と、私はわざとらしく、ため息をついて、


「難しい年頃ですわね……。

まだ、皆様と会をもつには、早かったかしら……」

と、呟きました。


「イライザっ!

こちらにお座りなさいっ」

ほおら、お義母様がお怒りですよ。


馬鹿娘。

お取り巻きの好奇心を満たす程度なら、それで良かったんでしょうけど、オフィシャルな茶会で、出していい話題のわけないじゃない。


大体茶会は、家族の生活などの話題は禁句。

茶器を褒め、調度を愛で、茶葉を楽しむ。それがセオリー。

ましてや、はしたない話題など、ご婦人方が、良しとする訳ないじゃなーい。


ぐっ、と、泣くのを堪えたイライザは、バサバサとドレスを鳴らして、姑の横に座りました。


私は、柔らかい声で、

「ご不快な事を申し訳ありません。セカンドは如何ですか?

ミルクになさいますか?」

と、三夫人に言いました。


そして、茶を注ぎカップを置く際に、

(あの子の巫山戯た戯言を二度と聞かない事です。娘さんの婚期が遠のきますわよ)

と、耳元で、言っておきました。


ふふん。


イライザ、あんた、明日から、

ぼっちだよーん。


「お庭は、土が新しいようだけど」

エスメ夫人が、サーブの際に話題をふって下さいました。

流石。


「はい。

夫では、気が回らなかったようですので、植栽を替えております」


「あの一角は、つるバラね

その足元にラベンダー?」

「はい。防虫にもなりますから」

「ああ、そう。

変わった品種のラベンダーね。

テラコッタの敷石も、気がきいてるわ。

東屋をあの向こうに据えると宜しいんじゃなくて?」

「まあ、仰る通りですわ!

ありがとうございます」


エスメ夫人は、得意満面。

調査通り、この頃庭作りが流行だと、このご夫人は興味を持っていたのよね。

だから、この茶会は、温室(コンサバトリー)をメインにしたのです。


何人かは、お庭の席で、楽しんで下さっています。


私は、女主人として、茶をサーブしたり、菓子が不足ないよう気を配ったりしました。


部屋の方に戻ると、姑が、周りの方々に何やら話しております。


「……で、ね、この石に合わせて、本日は濃い緋色のドレスにしましたの!」


……あー。

私の、アメジストですね。


「素晴らしい石ですわ」

「これほどの大きさは、中々」

「流石は、ロックフォード様」


口々に褒めて同調なさる方々のおかげで、姑は鼻高々。先程の娘の醜態は、帳消しになったかのように思ってるようです。


褒められてるのは、石。

アンタのドレスの色とは、真逆の石。

目がチカチカするんだけど。


「矢張り公爵家ともなれば、この位はね!

そうそ、娘のも、見て頂きたいわあ〜

素晴らしいルビーよ!

ねっ、イライザ」


「え、あ、はい!」


と、イライザが名誉回復とばかりに、その左腕の手首のブレスレットを皆さんに、

見せようとして、勢いよく手を差し出して、


ガチッ!


と、音をさせました。


「え」「あ」「まっ」


その手首から、垂れたルビーが、イライザの前の茶器に当たって、

縁が、欠けて


「……あ、取れた」


と、思わず私の口から、言葉が転び出てしまいました。


「……えっ」

「その、砂糖壺は、大お爺様の」


それを聞きつけた老婦人が

「……ま、あ、あ、あっ!

いっ、一点物の……

イライザさんっ!

どうして茶会にブレスレットなんかしてくるのっ!」

と、激昂なさいました。


あ〜あ 笑笑





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