なろうでランキング1位にならないと出られない部屋に閉じ込められた。ド底辺作家の俺に未来はありますか? 読者に支えられ、なろう世界で下克上!
タイトルがすべて。
書き手や読み手の参考になるかもしれないしならないかもしれない。
多分ならない。
部屋に閉じ込められた。
いや待てどういう状況なんだ?
それなりの広さがある真っ白な部屋。中央に俺の使ってる机、PC、椅子……布団。あと部屋の隅にトイレ。
なんだこれは。
俺は昨日の夜黙々と小説を更新していたはずだ。
今度こそは最高傑作になってランキングに乗ってブクマ数も評価ポイントもうなぎのぼりで天下を取って出版社からバンバン書籍化打診がきて累計1000万部突破してアニメ化されて映画化されて実写ドラマが社会現象になって令和を代表する作家として君臨するはずだったのに。
なんで突然こんな部屋に閉じ込められているんだ??
『君さ、少しは現実見ようよ……』
「な、なんだ!? 誰だ貴様! お前が俺をここに閉じ込めたのか!?」
どこからともなく声だけが聞こえる。
『私の事はどうでもいいから。ちなみに、この部屋は君が小説家になろうでランキング1位になるまで出られないからよろしくね』
「待て、それならすぐに達成できるぞ。今回は最高傑作だからな!」
『じゃあ昨日君が更新した小説がどのくらい伸びてるか確認してみてよ』
「言われなくても!」
こいつが誰かなどどうでもいい! 今日にでも俺は開放される。間違いない! 間違い……ない。
「こんなの間違いだ! 何かの間違いに決まってる!」
『残念だけどそれが現実だよ?』
俺の最高傑作。昨夜3話まで更新した。ガツンと伸びててもおかしくない頃合いだ。
「おい、今何時だ!?」
『今は朝の9時だよ。君が投稿を終えてから12時間は経ってるね』
「ば、馬鹿な……」
アクセス数を確認してみたところ、そこに表示されたのは無情な9という数字。
俺の最高傑作が9PV……だと……?
『それが君の最高傑作とやらの正当な評価だよ』
「ふざけるな! そんなわけあるか! 序盤から伏線を張りまくって独特な世界観をきっちり表現できていたはずだ!」
『残念。君の小説は独りよがりなんだよ。まさに作者のオ○ニーってやつだね』
その言葉に俺は顔が赤くなるのを感じた。そして、何かを言い返そうとして、やめた。
『気が付いたかな? 読者は君の最高傑作【漆黒の探求者】には全く興味がないんだ』
「違う」
『何が違うんだい? 数字がそれを証明……』
「ディープブラック」
『なんだって?』
「【しっこくのたんきゅうしゃ】じゃない。【ディープブラックエクスプローラー】だ」
『……あ、あぁ、そうなんだ?』
「確かに少し難しすぎる内容だったかもしれない。反省点はあるだろう。しかし話数が進めば伏線も回収され重厚な世界観にのめり込むはずだ! 俺の小説は50話からが本番なんだよ!」
そう、そこまで読めば必ず引き込まれるはず。誰もが絶賛するだろう。
『君さ、何か勘違いしてない?』
男とも女とも判別できないその声は、俺の心を突き刺すような冷たい声で言い放つ。
『その小説を50話までとか誰が読んでくれるの?』
「そ、それは……」
読まれれば評価されるはずなんだ。
読まれさえすれば……。
『誰も読んでくれないよ。タイトルは謎だしあらすじも抽象的だし本編はつまらないし』
「や、やめろ……」
『設定を細かく決めるのはいいけどそれを難しい言葉で一気に書き連ねても読者は置いてけぼりだよね』
「やめてくれ……」
『それを50話まで読めばだって? 仮に本当にそこまで読んだら面白くなるとして、誰も読まないし本にしたら1冊分だよ? 丸々1巻分つまらない作品を誰が読むの? 誰が買うの?』
「やめてくださいお願いします」
俺は泣いていた。子供みたいに顔中ぐしゃぐしゃになって泣いた。
俺が間違ってたのか?
全部独りよがりのオ○ニーだったのか?
今までに投稿し、完結させた作品は30を超え、その全てがPV400未満。いや、600話を超えた超大作が390PVだっただけで他は軒並み100程度だ。
俺が間違ってるのはその数字が証明している。
そもそも600話超えてるのに400PVの時点でどうかしてる。
分かってた。分かってたんだ。でも、いつか誰かが分かってくれると信じて、俺は……。
『はぁ、自分の状況は理解した? きちんと理解したなら次は読まれる作品を書けばいい』
「簡単に言うなよ! できるならとっくにやってる! 何をどうやったら読んでもらえるんだ!」
『……その答えはもう出てるんしゃない? じゃあ一週間後に様子見に来るから。あ、食事とかはちゃんと出てくるから心配しないでね。それじゃよろしくー。がんばれー』
「お、おい! 待て、待ってくれ!」
返事は無い。
俺は本当にこんな何もない部屋で小説を書き続けるしかないのか?
万年ド底辺の俺が……ランキング1位?
無理に決まってる。
やめだ。やめやめ! もういい。俺はここで一生を終えるんだ。
……やめるならケジメをつけないとな。
俺はPCを開き、最高傑作だと思い込んでいた漆黒の探求者を削除した。
それの一つ前に書いた作品も。
その前の作品も。
消した。削除した。
俺の、俺が生み出した物語が、消えていく。
「あ、あれ……?」
気が付けば前がよく見えない。
涙が目いっぱいに広がり、やがてこぼれ落ちる。
「ごめん……ごめんなぁ……」
全ての作品を削除した頃になって気付いた。
こんな面倒な事をしなくても退会すればよかったんだ。
布団に潜って泣きじゃくった翌日、俺の心は後悔でいっぱいになった。
未練がましく開いたマイページに表示された赤い文字。
誰かからメッセージが来ていた。
──────────────
最近作者様の小説を読み始めた者です。突然のメッセージすいません(^_^;)
実は、読んでいた【闇の断罪者】がどこにも見当たらないのですがもしかして消してしまったのでしょうか?
小説家になろうから引退してしまうのですか?
もし他のサイトで公開しているようなら教えてほしいです。
──────────────
馬鹿だ。
俺なんかの小説を読んでわざわざメッセージを送ってきたこいつもそうだが、こんな読者がいてくれた事も気付かずに削除した俺はもっと馬鹿だ。
俺は返事を書いた。
──────────────
自分なんかの作品を読んでくれてありがとう。そして、ごめんなさい。
──────────────
その日はそれ以降ずっと布団の中で過ごした。
自分の愚かさを悔い、嘆いていたはずなのに俺はいつの間にか新しい作品について妄想していた。そんな資格ないのに。
数少ない読者を失望させてしまった。消した作品のバックアップは取っていない。
永遠に失われてしまった。
俺が勝手に生み出して、勝手に殺した。
そんな俺にもう何かを生み出す資格なんてない。
翌日、また同じユーザーからメッセージが来ていた。
──────────────
どうしても続きが読みたくていろいろ調べて、キャッシュから復元していまいました(;´Д`)
勝手にこんな事してすいません。
作品を一通り復元したのでゆっくり読ませてもらおうと思います。
自身で削除されたのなら迷惑でしかないのは分かっていたのですが、どうしてもそれだけ伝えたくて。
応援しています。いつかまた新しい作品を書いてくれる日を待ってますね♫
──────────────
え、キャッシュ?
復元??
どういう事なのか俺には全くわからなかったけれど、どうやら俺が削除した物語は全てこのユーザーの手元にあるらしい。
「そっか……俺の小説は、この人の元でまだ生きてるんだな」
この人の中ではまだ生きている。
俺が見捨てた子供たちを、必死に蘇生してくれた人がいる。
嬉しくて、嬉しくて嬉しくて嬉しくてまた涙が出た。
俺ってこんなに涙もろかったっけ?
俺はすぐに返事を書く事にした。
──────────────
自分の作品たちを見捨てないでくれてありがとうございます。
必ず、新しい作品を投稿しますので待っていてくださると嬉しいです。
──────────────
最初は、復元した小説のデータをどうにかして送って貰おうとも考えたけれど、それはやめた。
この人の中で生きていてくれればそれでいい。
俺は今日、また始めよう。1から……いや、0から。
その日はずっと新作についてどうすべきかを考えていた。
勿論メッセージをくれた読者に届けるため、という名目はあるが、やはり俺は上を目指したいしランキング1位にならなければここから出られない。
あの謎の声の言葉を思い出せ。
まずタイトルだ。読んでもらえなければ始まらない。
今まで馬鹿にしてきた長文タイトル……自分もそれを試してみる事にした。
ランキング上位はだいたいそれで埋まっている。やはり読まれるだけの理由があるはずだ。
あらすじもできる限り簡潔に、それでいて具体的に書いてしまう。
これはネタバレなのでは? と思うくらいのやつを。
大丈夫、更に上を行く展開を仕込めばいい。
次に第1話だ。ここが一番重要。せっかく覗きに来てくれた人に意味のわからないポエムを見せて誰が次の頁を開く?
ここはいきなりクライマックスから始めて、勢いとノリで駆け抜ける。
そして必要な説明はそれからでいい。
人気ジャンルを見極めろ。
ラブコメ? ファンタジー? 追放系? ざまぁ? もう遅い?
わからん。絞り込めないから全部突っ込んでやる。
道筋が決まれば俺は筆が早い。
簡単にイベントを書き出し、それに至る流れを考える。
翌日。大体のプロットを完成させた。我ながら仕事が早い。
この日はキャラの設定を必要なだけ作る。
翌日。タイトルを考えてついに本編に取り掛かる。
翌日。今までの俺なら絶対に書かなかったような作品を、とりあえず10話まで書いた。
このペースなら50〜60話で完結しそうだ。
ちょうど小説1冊分。今回は実験なのだからこのくらいでいいだろう。
翌日。書き溜めをしつつ、20話まで書き上げたのでついに投稿を始める。この日は時間をずらして3話分投稿し眠りについた。
翌日。謎の声に起こされる。
『はろはろー。その後の進展はどうかな?』
「……俺なりにできる事はやってる。昨日から新作を投稿した」
『おっ、いいねー。じゃあ早速PVとか見てみようか』
声に促されPCを起動させる。起動が終わるまでの僅かな時間がとても長く感じた。
昨日寝る前は3話投稿後40PVだった。俺にしてはいい滑り出しだが、やはりそんなにうまくはいかない。
たいして期待もせず小説情報をクリックし、アクセス解析へと進む。
『おー、すごいじゃん』
「1900PV……? 1日で今までの最高PVの4倍以上だと……!?」
目を疑った。今まで30作品投稿してきてこんな数字は見た事が無かった。
『ほらほら、畳み掛けなきゃ。次を更新して』
「あ、あぁ……分かった」
最新話を投稿し、しばらく書き溜め作業に移る。
1900PV。1日でそんな数字を出せた事が嘘のようだ。
でもまだランキングにすら乗らないだろう。
……そういえば評価のポイント見てなかった。PVにばかり気を取られて忘れていた。
今までポイントなんか入らなかったからチェックする習慣がないのだ。
もう一話投稿するついでにポイントを覗いてみることにした。
128。
……は?
小説家になろうはブックマークで2ポイント。最高評価の☆5で10ポイント入る仕組みで、ジャンルによって日間ランキングに入れるポイント数が全然違う。
あまり賑わっていないジャンルならば誰かが満点とブクマの12ポイント入れてくれれば日間100位までに入れるが、ファンタジーなどの人気ジャンルならば100ポイントくらい取らないとランキング100までに入れない。
つまり。
「ら、ランキングに乗った……? 俺の小説が!?」
慌てて日間ランキングを調べる。
100位が98ポイントだったのでもう少し上か。どこだ?
スクロールする手が震える。
いた。
……72位。
「嘘だろ……ほんとに入ってる。夢じゃないよな?」
『ひとまずは日間ランキング入りおめでとう♫ これからもどんどん頑張って上を目指してね。じゃあまた様子見に来るからよろしくー』
声が消えた事なんて全く気づかないほどに俺は放心していた。
ぴ、PVはどうなってる!?
アクセス解析画面を開くと、毎時間100〜140前後のアクセス。
今日だけで12000PV。
思わず椅子から転げ落ちた。
その日はもう何も手に付かず、布団に入ってもなかなか寝付けなかった。
翌日、ランキングが52位まで上がっていた。
PVもこのまま推移すれば15000を超えるだろう。
「ふ、ふははは! 俺の時代が来た!!」
俺は有頂天でこの日も3話更新した。
翌日は42位に上がっていた。
PVは1日で20000を超えた。
そして、この日からだんだんとランキングが落ち始め、次に謎の声が様子を見に来た頃、俺はランキングから姿を消した。
毎日3話更新は変わらない。PVも平均10000を超えているのに。
どうして……?
『何へこんでるの? あらら、ランキングから消えちゃったんだ?』
「……少し、ほっといてくれ」
『あっそ、じゃあ頑張ってねー』
その後もランキングに浮上する事はなく、俺の小説は完結を迎えた。
完結ブーストというものがあり、一時的にPVもポイントもかなり伸びたがランキングに乗るほどではなかった。
何がいけなかったのだろう。
ランキングに乗れた時にもっともっとやれる事があったんじゃないか?
俺はこの日から、爆発力のあるファンタジージャンルに的を絞って同時に複数作品を投稿し続けた。
全く伸びないもの、ランキング70位程度までいったもの、そして、気が付けば半年近くこの部屋で過ごしている。
やはり俺はもうここから出る事はないのかもしれない。
あの日メッセージをくれた読者はすべての作品を読み、毎回たくさん感想をくれた。
その言葉が俺を奮い立たせる。
諦めてなるものか。
そのユーザーだけじゃない。
今の俺はランキングに乗るほどの作品をいくつも完結させ、新作を投稿すればすぐに読みに来てくれるような読者が増えた。
俺はこの応援に応えなければ。
次だ。
次こそランキング1位を取る。
そうすること2週間、練りに練った最新作を投稿した。
俺のすべてを注ぎ込んだ作品だ。
これでだめなら、俺は……。
翌日、ランキング44位。
翌日、ランキング31位。
翌日、ランキング15位。
そしてその夜。
『凄い! もう少しだよ!』
俺はランキング4位になっていた。
とうとう5位以内に入った。
ランキングページは各ジャンル1〜5位までが表示されており、それ以降の作品はもっと見るというボタンを押さないと表示されない。
つまりは、ランキングを見たら必然的に目に入る場所まで到達したのだ。
PVは飛躍的に上がった。
ポイント評価もガンガン入った。
祈るような気持ちでその推移を見守っていたが、どうということはない。
俺より上位の作品たちは、俺よりも毎日ポイントを取り続けた。
そして、それらにはいつのまにかタイトルの後ろにこの文字が追加されているのだ。
書籍化決定!
……勿論俺にそんな打診は無い。
そして、俺の渾身の作品はとても人気のある作品にはなったのだが、常にランキング20位前後をうろうろするところで停滞した。
諦めてはいない。ただ、この作品が1位を取ることは無いんだろうなという妙な確信があった。
勿論プロットは最後までできているし、きっちり完結させる。
完結ブーストでワンチャンあるかもしれない。
でも、俺はもうどうしたらいいのかわからなかった。
気まぐれに、息抜きで全5話くらいの作品を書きなぐる。
我ながらひどい作品に仕上がった。
タイトルは
パーティー追放された腹いせに洗脳スキルを磨いて俺を馬鹿にした女どものおっぱいぷるんぷるん祭り。
あらすじはこうだ。
おっぱいぷるんぷるん!!
はは、俺疲れてるわ。
それでも書き上げてしまったのだから投稿はする。
今まで俺の作品を読んでくれていたみんなも引くかもしれないけど、もう疲れたんだ。
もう寝よう。おやすみ……。
『日間ランキング1位達成おめでとーっ!』
「……ばかな」
『でも数字は嘘をつかないわよ?』
「いや、何かの間違いだ。そうに決まってる」
何度見直してもファンタジーランキングの1位はぷるんぷるん祭りだった。
「……狂ってる。読者も、この世界も、狂ってる!!」
『はいはい、いいじゃん結果出せたんだから』
「こんな作品で、俺はここから出る事になるのか……」
出られるのは嬉しい。
だけど、なんか、なんかさぁ、もうちょっと、ほかにあるんじゃねぇの……?
『えっと……? 何言ってるの?』
「は?」
『は?』
「えっと……1位取れたんだから出してくれるんだろ?」
『うん、月間1位取ったらね♫』
……騙された。
いや、確かにこいつは日間ランキングで1位取ったら、とは言ってなかったか。
出られない切なさと、この作品で出る事になったわけじゃない安堵とでとても複雑な気持ち。
『でもこのままならこの作品今月1位狙えるんじゃない?』
「ま、待て! 俺は別の、もっとまともな作品で1位を取ってみせる!」
次こそ、次こそは……!!
俺は慌ててぷるんぷるん祭りのあとがきに一文を追加した。
読者の皆様! 頼む! 俺の次回作をよろしくね!!!
Q:謎の部屋と謎の声はいったいなんだったん?
A:考えるな、感じて。
Q:この作品結局何が言いたかったん?
A:筆者の新作よろしくね!!!(´;ω;`)
小説書いてる人には多少刺さる部分もあったのではないでしょうか。
筆者はこんな部屋に閉じ込められたら絶対出られそうにありません。
なろうで小説を読んでいる人のおかげで書き手は存在しておりますので、どうぞ皆様も読んでいる小説はブクマしたり評価したり感想書いたりしてあげてくださいね( ◜◡◝ )
勿論筆者の小説もぜひぜひよしなに……! 下の方にあるバナーをクリックすると最新作に飛びますのでなにとぞよろしくお願いします☆彡
最後に一言。
おっぱいぷるんぷるん!!