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約1ヶ月の夏休みが始まり、部活に歌の練習にとそれなりに忙しく過ごしている。
夏休みに入ってから、乃亜先輩と一緒にいる時間が長くなった。一緒にいると居心地が良くて、そんな感情に戸惑っている。
「りぃちゃん、おはよ」
体育館に着くと、もう来ていた乃亜先輩が抱きついてくる。まだドキドキするけれど、前に比べると慣れたと思う。
「乃亜先輩、おはようございます。今日も元気ですね?」
「もちろん! りぃちゃんに会えたからね」
またにこにこ笑いながらそんなことを言ってくる……ほんと、勘違いしそうで困る。
「2人ともほんと仲良しだね?」
「もうこの光景が当たり前になったよね。眼福……」
周りに冷やかさせるのも前ほど嫌じゃなくなった。しばらく抱きしめられたままだったけれど、同じ体育館で活動しているバド部の先輩に呼ばれて行ってしまった。
バド部と練習が同じ日だと窓が開けられないから辛いんだよね。今日の練習はキツそうだな、と憂鬱になった。
「莉子、おはよう。ね、彼氏が浮気してるけど?」
「響華おはよー、彼氏なんていません」
響華があれ、とバド部の方を指していいの?という風に聞いてくる。バド部を見ると、乃亜先輩が頬を寄せあって写真を撮っているところだった。あ、今度の子には抱きしめてる。
「あー、あの子乃亜先輩に落ちたな」
「天然タラシ……」
ボソッと言うと、響華がツボに入ったのか爆笑した。その後も乃亜先輩は楽しそうにしていたけれど、見ていられなくて視線を外した。
「練習始めるよー」
藍先輩の号令で練習が始まった。蒸し風呂状態の体育館は少し動いただけでも滝のように汗が流れ落ちてくる。乃亜先輩をみると、汗をかいていても爽やかだった。
シュート練習になり、乃亜先輩がシュートを決める度に歓声が上がる。バド部が休憩中らしく、防球ネットを挟んでキャーキャー黄色い声援が飛び交っている。
ネット際に転がったボールを拾いに行くと、後ろから乃亜先輩の声がした。
「りぃちゃん、後ろにボールあるから気をつけて」
振り向くと、汗で濡れた髪をオールバックにした先輩の姿があった。え、色気がやばいんですけど……?!
乃亜先輩もボールを拾いに来たみたいで、私のすぐ後ろにボールが転がってきていたけれど、ボールなんて目に入らないくらい、乃亜先輩に釘付けだった。
「……? りぃちゃんどうかした?」
不思議そうに首を傾げているけれど、分かっててやってる?! あざとかわいいってやつ?!
「先輩、髪……」
「ん? ああ、前髪が邪魔だからオールバックにしてみたんだけど似合ってるかな?」
どう? なんて無邪気に笑っているけれど、似合ってるの分かってますよね?!
「……似合ってます」
「ん? なんて?」
明らかにニヤニヤしてるし、絶対聞こえてたよね?!
「もう、知りませんっ!」
乃亜先輩の横をすり抜けると、腕を掴まれて抱き寄せられた。
ネット越しに、誰かがはっと息を呑んだ気配がした。
「ちゃんと聞こえてた。可愛くてつい。あ、ごめん汗臭いよね。……ってりぃちゃん?」
乃亜先輩が慌てて離れようとしたので、咄嗟にシャツを掴んでしまった。全然臭くないしむしろいい匂いでした……ってこれじゃ変態っぽい?!
「おーい。そこのバカップル早く戻っておいでー」
この後どうしようと赤面していると、藍先輩の呆れたような声が聞こえた。藍先輩、ナイスタイミングです!
「カップルじゃないですっ! すぐ戻りますー!!」
慌てて戻ったので、後ろで乃亜先輩が何か言った気がしたけれどよく聞こえなかった。




