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Side.乃亜⑨

楽しかった夏休みが終わり、また学校が始まった。りぃちゃんと会う時間が減っちゃって残念。もっと休みが長かったらいいのに。


文化祭に向けて色々な準備が必要で、学年全体がバタバタしている気がする。私のクラスは男装喫茶になってしまい、残念ながらライブ時間以外の自由時間は期待できなさそう。りぃちゃんと色々見て回りたかったのにな。


「乃亜、色々調達してきたけどどれが着たい?」


藍ちゃんとクラスメイトが衣装を持ってくると、よく集めたなって数の衣装が並んだ。

中には男装と言うより仮装ってくらいのものまで含まれている。ハロウィンだっけ??


「乃亜ちゃんはこれがいいんじゃない?」

「いや、こっちでしょ!」


本人そっちのけで盛り上がっているから、もう自由に決めて欲しい。執事服と学ランが、人気っぽい。とりあえず変な衣装じゃなくて良かった。



あっという間に文化祭当日になり、今はライブのためにステージ袖に待機している。ありがたいことに男装喫茶が好評で、気づけばライブの時間になっていた。終わってからもすぐに戻ってってお願いされているから、着替える時間もなく、多数決で決まった学ランのままライブに出ることになった。


私を見た時のりぃちゃん、ポカーンってしてたな。制服に着替えて来ると思ってたよね? ステージ袖に集まっている可愛い女の子たちに男が1人混ざってるみたいで場違い感が凄い。


りぃちゃんは緊張しているのか、落ち着きなくウロウロしている。


「りぃちゃん、大丈夫?」

「大丈夫じゃないです……まさかのトップバッターだなんて! 乃亜先輩はなんでそんなに落ち着いてるんですか?!」


緊張していない訳じゃないけれど、落ち着いて見えるみたい。りぃちゃんに何がしてあげられるかな……


「緊張してるけど、落ち着きがないりぃちゃん見てると落ち着いてくる。そうだな……」

「っ!!」


少し考えて、りぃちゃんを抱き寄せた。人肌って安心するからどうかな、って思ったけどどうだろう?

最近は私が抱きついても受け止めてくれるし、またか、ってなるだけかな?


私の服装が違うせいなのか、待機している参加者たちのテンションが物凄い。騒がしすぎて司会の人と目が合ったのでなんでもない、という意味を込めて手をひらひら振っておいた。


「少しは落ち着いた?」


りぃちゃんを離さずに聞いてみるけれど、まだ強ばってる感じだな……


「沢山の人が見てるけど、隣にいるからさ。私だけ見てたらいいよ」

「っ?!」


客席見ちゃうと人が多くて緊張するかもしれないけれど、私の方を見ていてくれたら普段の練習通りじゃない?


『大変お待たせいたしました。これより第××回、××高校文化祭ライブを開催致します!』


お、始まりそう。少しでもりぃちゃんが楽になったならいいんだけど……


『それではトップバッターのペアに登場してもらいましょう。曲は××の代表曲で、××です』


イントロが流れ出して、2人並んでステージに出る。おー、凄い歓声。外部の方も結構多いけど、大半は生徒で知っている顔が見えて安心する。手を振ったら振り返してくれた。


歌い出しは私からで、続くりぃちゃんのパートの時に大丈夫かな、と見ていると気づいてくれた。良かった。少しは余裕ありそう。


あっという間に曲が終わってしまった。楽しかったし、振り付けってことで手も繋げて、見つめ合って、何よりこんなにたくさんの人の前でりぃちゃんと歌えたってことが嬉しい。

その嬉しさのままりぃちゃんに飛びつくように抱きつくと、何してるの?! と言わんばかりの表情をされた。

予定にはなかったけれど、ちょっと抑えきれなかった。


「楽しかったね!!」

「……ふー。そうですね」


ステージ袖に戻ると何か言いたげにしたりぃちゃんだけれど、結局は仕方がないな、というように笑ってくれた。何だかんだ甘やかしてくれるりぃちゃんが大好き。


他の参加者のライブを見る頃にはりぃちゃんの緊張は解けていて、横で楽しそうに歓声を上げている。ちゃんと聞いてるので、つい横ばっかり見ちゃうのは許して欲しい。

ライブに参加することが決まってから、幸せな時間だったな。こうして自然に隣にいられる時間が何より大切だった。


「乃亜、莉子ちゃんちょっといい?」


クラスに戻る前に、りぃちゃんと話したいな、と思っていると藍ちゃんに呼び止められた。どこで呼び止めようかな、と思ってたから正直助かる。


「藍ちゃん、どうしたの?」

「今日のライブの様子、SNSに載せても大丈夫かな?」


あー、なんか昨年もそんなこと聞かれた気がするな……結局載せたんだったかな?


「いいけど、著作権とかって大丈夫なやつだっけ?」

「うん。乃亜達の曲は確認済みだから大丈夫。他の組のはダメだったのもあって、全部は載せられないんだけど。大丈夫な曲をやった人達には載せていいか実行委員が確認とってるところ」

「それなら私は問題なし。りぃちゃんは??」


りぃちゃんが問題ないなら、今回のやつは絶対に見たい。


「私も大丈夫です」

「良かった! ありがとう。楽しみにしててね」


少し考えて了承したりぃちゃんの返事を聞くと、藍ちゃんはパタパタと他の参加者の所へ走っていった。


「りぃちゃん、この後の予定は?」

「当番なのでクラスに戻ります。といっても座ってるだけですけど。乃亜先輩は喫茶に戻るんですよね?」

「うん。すぐ戻るように言われてるから行かないと」


すぐに戻って、とは言われているけれど、ここでちゃんとりぃちゃんと話しておきたいから、やきもきして待っているだろうクラスメイトには悪いけどちょっとまっててね。


これからも一緒にいてって伝えたいけど、なんて切り出そうかな、と思っているとりぃちゃんがドアを開けて歩き出した。え、もう行くの? まだ纏まってないのに……


「クラスに戻りますね。では、また部活で。……??」


咄嗟に腕を掴んでしまったけれど、りぃちゃんは不思議そうで、特に寂しいとか思ってないのかな、ってちょっと不安になる。


「……あー、その、ライブは終わっちゃったけど、部活以外でも会ってくれる?」


結局こんなことしか言えなくて、チラッとりぃちゃんを見ると笑顔で頷いてくれた。


「もちろんです! むしろこちらからお願いしたいくらいです」

「良かった! りぃちゃん、好きっ」


いつも通り、抱きついて告白まがいのことを言ってみる。こんな風にしか言えないからヘタレって言われるのは分かってるけど。


「あはは、私もですよー。ほら、早く戻らないと。みんな待ってますよ?」


私も?! うわ、やばい。不意のデレはダメだって。私と同じ意味の好きじゃないだろうけれど、最初の頃に比べたらかなりの進歩だよね。


「わ、今私もって言った?! りぃちゃんがデレた……!!」

「はいはい。好きなんて軽く言うと勘違いする子出てきますから言っちゃダメですよ?」


りぃちゃんには勘違いして欲しいんだけど。いつもみたいに冗談だと思ってるんでしょ?


「りぃちゃんにしか言わないよ?」

「どうだか」


何を言っても冗談だと思われてる気がする。誰にでも言ってるわけじゃないって信じてもらわないとって思ってたら電話が鳴った。多分クラスメイトだろうけど、今それどころじゃないから。


「本当だから信じて?! そんなにチャラいやつだと思ってる?」

「それはまあ……電話鳴ってますけど出なくていいんですか?」

「思ってるんだ?! ふーん……」


りぃちゃんの中で私はどれだけチャラいやつなんだろ……りぃちゃんへの態度は分かりやすいくらい他の子と違ってたと思うのにそれでも全く伝わってなかったってことだもんね。


もっと分かりやすく態度にしないとりぃちゃんには伝わらないってことか……さっさと告白しろって言う声が聞こえてきそうだけど、見込みが無さすぎてちょっとまだ早いと思ってる。

鳴り続けている電話を切ってりぃちゃんを見ると、悪い顔をしていたのかちょっと怯えられた。


「乃亜先輩、電話……っ?!」


電話を気にするりぃちゃんを壁際まで追い詰めて逃げ道を無くすと、驚きつつも様子を伺うように上目遣いで見上げられた。


目が合うと慌てて下を向いちゃって顔が見えないけれど、何この可愛い子??


「もう遠慮はやめる。りぃちゃん、覚悟しておいてね?」


りぃちゃんの顎に手を添えて顔を上に向けるとぎゅっと目をつぶった。そんなことするとキスするよ? 警戒心が無さすぎて心配になる。

さすがに付き合ってもないのに唇には触れられないから頬で我慢。またね、と声をかけて先に体育館を出た。


本当はりぃちゃんが復活するまで待ちたかったけど、あの状態のりぃちゃんと一緒にいるのはちょっと色々危険かなって。主に私の理性が。


クラスに戻ると行列ができていて、クラスメイト達が忙しそうに動き回っていた。遅れたことを謝って接客に回る。

いつになく機嫌のいい私に不思議そうにしているクラスメイト達だったけれど、忙しすぎてゆっくり話す暇もなかった。


私目当てで来てくれたお客さん達がライブの感想を話してくれて、りぃちゃんの事も沢山聞かれた。可愛い後輩って答えておいたけれど、彼女ですって言える日が来たらいいな。


時間はまだまだあるし、少しずつ関係が変えられるように頑張ろう。こんなにも自分が変わるとは思わなかったけれど、今の自分は前よりも嫌いじゃない。

振り向いて貰えるように頑張るからよろしくね、りぃちゃん。

乃亜視点までお付き合い下さりありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。

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