Side.乃亜⑥
約1ヶ月の夏休みが始まって、りぃちゃんと一緒にいる時間が増えて前より随分気軽に接してくれるようになってきている気がする。
何よりほぼ毎日会えるのが嬉しい。りぃちゃん早く来ないかな。
「りぃちゃん、おはよ」
少し待つとりぃちゃんが来たのでいつも通り抱きつきに行くと、慣れたのか抵抗せず受け止めてくれた。
「乃亜先輩、おはようございます。今日も元気ですね?」
「もちろん! りぃちゃんに会えたからね」
本心なんだけれど、はいはい、って流されてる気がするんだよな……
「2人ともほんと仲良しだね?」
「もうこの光景が当たり前になったよね。眼福……」
他の部員たちも慣れた光景で一部には需要がありそうな感じかな?
「乃亜、おはよ。この前話してたカメラ持ってきたけど見にくる?」
しばらくりぃちゃんを堪能していたけれど、バド部のクラスメイトがカメラを見せてくれるらしい。りぃちゃんといっぱい写真撮りたいなって思ってるんだよね。
「りぃちゃん、ちょっと行ってくるね。寂しい?」
「……早く行ってください」
ちょっとは寂しがってくれてもいいのになー
バド部のコートに入るとなんか注目されている気がする。別の部活の先輩が来たらそうなるか。
「これって最新のやつなの?」
「うん。親のやつなんだけどね。かなり綺麗に撮れるよ」
機能を見せてもらったけれど、操作は簡単そうだった。
「せっかくだから写真撮る? 後でスマホに送るからさ」
「いいの? 撮ってー!」
「あ、うちの後輩たちと一緒に撮ってもらってもいいかな?」
「もちろん! 私でよければ喜んで」
後輩たちってさっきこっちを見てた子達かな?
「初めまして。バスケ部の夏目乃亜です。よろしくね」
周りにバド部の1年生が集まってきてくれたので自己紹介をしてみるとそれぞれ自己紹介をし返してくれた。
「全員一緒に撮る? 個別がいい? 私はどっちでも大丈夫だけれど」
「「「個別がいいです」」」
満場一致で個別希望だったので、1人ずつ撮ってもらうことになった。
「あの、肩を抱いて貰ってもいいですか?」
最初の子が控えめに希望を言ってくるけれど、緊張してるのかちょっと表情がかたいかな?
「お、いいよいいよ! こんな感じ?」
「きゃー!!」
「お、いい笑顔!」
やっぱり女の子は笑ってた方が可愛いよね。
「乃亜先輩、抱きしめて貰えますか?」
「いいけど、私でいいのかな……」
「……」
「あれ、大丈夫??」
なんか固まっちゃったけど……覗き込んでみたら真っ赤になっちゃったからちょっと心配。
まだりぃちゃんとのツーショットって撮ったことないな。……言っても撮らせてくれなさそう。
ちょっとは気にしてくれるかなとバスケ部の方を見ても、背中を向けていて表情が見えなかった。
みんなと写真を撮り終わり、後で送って貰うことを約束してバスケ部のコートに戻った。
「練習始めるよー」
藍ちゃんの号令で練習が始まったけれど、ものすごく暑い。汗でベタベタするし水被りたいくらい。前髪が張り付いて邪魔だし。ピンで留めとこ。
シュート練習を始めると、さっき写真を撮ったバド部の子達が防球ネット際から応援してくれていた。休憩かな?
あ、りぃちゃんがボール拾いに行ってる。後ろからもボール転がってるけどりぃちゃん気づいてないっぽいな。
「りぃちゃん、後ろにボールあるから気をつけて」
追いかけて声をかけると、振り向いたりぃちゃんが止まった。ん? なんか凄く見られてるような??
「……? りぃちゃんどうかした?」
「先輩、髪……」
髪?? さっきピンで留めた前髪のこと?
「ん? ああ、前髪が邪魔だからオールバックにしてみたんだけど似合ってるかな?」
「……似合ってます」
どう? って聞いてみたら小さい声だったけど似合ってるって言ってくれた。え、可愛いんですけど?! たまにデレると破壊力が凄いんだよね!
「ん? なんて?」
「もう、知りませんっ!」
「ちゃんと聞こえてた。可愛くてつい。」
もう一回言ってくれないかなって聞き返したら怒った口調で戻ろうとしたから咄嗟に抱きしめちゃったけれど、今汗だくだったわ……
「あ、ごめん汗臭いよね。……ってりぃちゃん?」
離れようとしたらシャツを掴まれたんだけれど、どういうこと?! 今日はデレ率高くない?! 咄嗟に掴んじゃってどうしようってなってるりぃちゃんがもう……!!
「おーい。そこのバカップル早く戻っておいでー」
「カップルじゃないですっ! すぐ戻りますー!!」
いい所で藍ちゃんから声がかかって、りぃちゃんはパッと手を離してコートに戻ってしまった。なんなの?? 無意識なの?? 顔あつっ……
「はー、もうりぃちゃんが好きすぎてつらい。可愛い。……ん?」
ちょうど座った目線の先にボールがあって、その先にはバド部の子達。
この感じは一部始終見てたよね? 恥ず…… ちょっと距離があるけど聞こえてたかな?
「今の聞こえちゃった? 内緒ね?」
みんな全力で頷いてくれてるけど、否定されないってことは聞こえてたか……りぃちゃんしか見えてなかったわ。
ボールを2つ拾ってコートに戻ってからは避けられすぎて全然目を合わせて貰えなかった。