出会い
調査員となって1年が過ぎA級国民担当になる時期が近づいてきた。
週に10件の案件をこなしてトータル500人以上の人生を報告してきた。
死亡案件が発生したら数時間以内に現場に行き情報を集める。病院がほとんどだが警察も少なくは無い。
病院の場合は担当医師と親族が揃っていることが多く情報には困らないので、翌日の提出までには余裕で間に合うが、警察だとそうはいかない。
事件性があることがほとんどなので捜査が介入する。そうだとこちらに情報を素直に教えてくれないことが稀にある。担当警察官の気分や人間性によるのかもしれないが、彼らも新人時代に調査員を経験していたはずだから僕を困らせようとしているのかもしれない。
ある時警察署で担当者と面会を終えた後の廊下で声を掛けられた。
僕より年上のような男性で、ジャケットにノーネクタイ、首に社員証のような顔写真入りのカードを掛けている。
「どうもこんにちは、たまに見かけるけど国家調査員さんですか。
僕も昔はそうだったんですけど今は民間で同じようなことをやっているんですよ」
そう言いながら掛けていたカードを差し出して僕に見せた。
「ここに書いてある通りNXテレビのディレクターをしている喜多といいます」
喜多未来 第9制作局ディレクター 写真の顔は短髪だが目の前の人はロン毛の浅黒く、いかにも業界人な風貌をしている。いつの写真を貼っているのだろうか。
カードを凝視していると
「まあ写真はパッと見雰囲気は違うけど間違いないから。疑うならその辺の警察官に聞いてみてよ。たぶんココでは僕のほうが顔パスがきくはずだから」
「はあ、そうですか。それでご用件は何でしょうか」
「実はうちの会社で人材を探しているところでさ、特に調査員経験者を。僕が担当している番組は知っているかな『嗚呼人生物語ーあなたも主役』って。けっこう人気がある看板番組なんだけどね」
知っている。有名な人気番組だ。僕のような調査員が調べるような内容を基にしてドラマ仕立てにしているものだ。
A級国民は経験した調査員の仕事に直結しているし、C級国民にしてみれば死後に自分が映像作品として残るもの。もっとも死んでいるのだから観ることは叶わないが。
しかも既存の創作された作品より、無名の個人の人生が語られる。最後は死ぬことで終わるので毎回バッドエンドではあるが、自分の人生を否定することなく日々を過ごせると哲学的な宗教的な深い意味も隠れている。
でも疑問に思うことはある。公務員には秘守義務があり簡単に調査の情報は漏れない。しかも毎週放送されるほどの事案をどうやって集めているのか不思議だった。僕は作家が想像で書いているのではと思っている。