調査員として
僕こと幾度孝が調査員となったのは別に希望したわけではなかった。親がA級国民で子供の頃から順調に学歴を経て大学を出て公務員を受けて合格したに過ぎない。しかも受験生全員が合格するからなんのことない。
そもそもA級は職業選択の自由がある上に適正を正しく判断されて子供の頃から進路が決まっている。例えば運動能力が優れているのであればプロやオリンピック選手となるようなもの。
A級はほとんどが公務員か企業の管理職候補となる。ちなみにスポーツ選手のほとんどはC級国民であり国民の憧れの職業になる。芸能やタレントなども容姿や技能に特化しているのでC級でも可能性があるのだが、幼少期からの習い事や家庭環境でどうしてもA級に占められている。
僕は両親ともこれといった特殊な能力も無い公務員の遺伝子を受け継ぎ、容姿も運動神経も中の下。親に敷かれたレールを期待通りにこなすことには苦労しなかった。それも能力の1つなのだろうが、クラスメイトとか親戚など周囲の人間は皆そんな感じなので、就職するまで理解していなかった。
調査員というのは日本国籍の国内居住者が死亡した時点から過去をさかのぼり、出生から死亡に至までの人生を簡潔に調べ報告書にすることになる。
何故そんな死んだ人のことを今更細かく人生遍歴などなど調べて保存してまで国が管理するのか。
発案者によれば(個人名は50年間は非公表になっている)人口が激変して経済が破綻し国民の生活を国が徹底的に管理する上で結果どういった人生になったか今後の政策に反映させたり、人材育成のモデル作成のヒントにしたいというのだ。
後付ではあるが、そんな面倒な任を新人公務員にさせたら良い研修効果があったそうで。国家組織の下部に組み込まれた次第である。
基本情報である死因、年齢、性別(LGBTなどは報告書内で詳細)、職業を元に人間関係や性格、周囲の評判などを調査員の判断で書類にまとめる。
仕事は新人が必ずやる研修のような業務になるので、特に最初の1年はC級国民を調査対象に任に着く。そして多くの経験を積んでからA級国民を対象とするのだが、彼らは上級意識が強いので周囲の情報が操作されている場合が多く(見栄やプライドの死守のためだろうが)真実を確認するにはそれなりの熟練された調査力が必要となるからでもある。
2年ほど調査員をしたあとは実務と試験の評価しだいで国家公務員か地方公務員へと配属される。
職種は官庁から警察などの現場まで多岐にあるが、給与は年齢給と役職手当は同じになっている。希望はある程度参考にはされるが公務員なので組織の都合で辞令がでる。
それでもC級国民に比べればまだましかもしれない。彼らは基本肉体労働がほとんどで職業選択の自由はない。例外は怪我などで身体的に困難になった場合くらいだ。
でも逆に羨ましいと思うこともある。自然に接し新鮮な空気と食べ物、対人相手の仕事の僕らとすればレジャーのようなものだ。僕らはわざわざストレス解消に自然を求めてお金と時間をかけて得ようとするのに、彼らは一律の最低限の給付しかない生活にもかかわらずなのに豊かな生活に見えることがある。