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白地図の夢〜Blank Dream〜

作者: 無名人


 空は青く、何処までも続いている。目の前には、川が流れ、畑や木々を潤してくれる。

 H県N市日向丘町、僕が好きな町だ。僕は此処で生まれ育ち、大学までを過ごした。大学を出てから一人暮らしを始める為に此処を出たが、今も時々遊びに来ている。



 日向丘を横切るように流れる日向川、その河川敷には桜並木があって、季節の流れを伝えてくれる。大学生の時、僕はそこである少年に出会った。


 その少年は、小学生で夏休みの宿題の為に絵を描いていた。僕も昔同じように絵を描いていたから、懐かしくなってそれを見守っていた。僕は昔から絵を描くのが好きで、見るのも好きだったから、その少年がどういう絵を描くのか気になった。


 ところが、絵を描く少年の様子がどうもおかしかった。少年は、絵を描いている時ずっと顔をしかめている。

 それも、何かを考えながら真剣に描いているというものではなく、苦しみながら、仕方なく描いているような気がしてならないのだ。



 僕は、絵が完成したのを見計らって、その少年に声を掛けてみた。

「どうしたんだ、少年」

その少年は僕に気づいてはっとなり、絵を隠しながらこう答えた。

「お兄さん?!見てたのですか…?」

立ち上がるとその少年は僕の腹に来るほどの身長だった。小学生でも低学年程だろうか。その少年からすれば僕は、見上げなければ顔を合わせられない程大きく見えているだろう。



 僕はその少年と目線を合わせ、こう言った。

「どんな絵を描いていたのかな?」

すると少年はその絵を裏返して見せた。小学生らしい大胆な絵で、川を見ながら描いたらしい。

「夏休みの宿題で、仕方なく描いたんだ。でも俺、絵を描くのがどうしても苦手で…」

確かにその絵はコンクールで賞を取る程の出来とは程遠い。だが、一生懸命頑張って描いた事は僕にも伝わってきた。

  

 そこで僕はカバンからスケッチブックを取り出して、昔描いた川の絵を見せた。それはその少年と同じように学校の課題で描いたものだった。その少年は、スケッチブックを両手に持って、目を輝かせて見る。

「うわぁ…、きれい!」

「僕は大学で絵を習ってるんだ」

「だから上手なんだ…、じゃあ、お兄さんは画家さんになるの?」

僕は絵だけで生活出来るのは極わずかだという現実を知っていたが、少年の夢を壊さないようにうん、と頷いた。


 

 そして、少年は自分の絵と道具を片付けて、僕に一度礼をして、帰って行った。僕の絵をこれだけ目を輝かせて見てくれた事は、大学の先生に褒められた以上に嬉しかった。

 だが、あの少年は僕に、どうやったら上手くなるの、とは聞かなかった。それ程あの少年にとって、絵を描くのは苦手で、苦痛な事なのだろうか。


 僕みたいに絵が好きな人も居れば、あの少年のように苦手な人も居る。僕が好きなものが必ずしも他の人が好きとは限らない。そういう当たり前な事を改めて気付かされたような気がした。

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