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エッセイ

カツ丼は肉抜きで

作者: 仲山凜太郎

 カツ丼。私にとって、とんかつの一番美味しい食べ方である。とんかつ屋に行っても、私はとんかつ定食には目もくれずカツ丼一択だ。さすがに年のせいか、学生時代ほど頻繁に食べなくなったが、それでも時々無性に食べたくなる。

 たっぷりの白飯につゆと溶き卵で煮立てたカツをのせる。他に具はタマネギと仕上げにぱらりとのせた刻み海苔。海苔ではなく三つ葉を好む人もいるが、私は断然海苔派である。

 中には「なんで揚げたてのカツを汁でびしょびしょに煮るんだ?! あれはとんかつに対する侮辱だ」という意見もある。しかし、サクサクの衣よりもだし汁と溶き卵がよく染みた衣のカツと一緒にごはんをかっ込み、口の中でもひゃもひゃこね回し飲み込むのは正に快感、生きてて良かったと感じる時である。

 これは普通のとんかつでは味わえない。私がとんかつ定食よりもカツ丼を愛する2番目の理由である。

 では一番は何か?

 ずばり。衣の美味さである。


 我が家ではカツ丼は冷めたカツの再利用だった。作り方だって、あの丼物専用のような小さな片手鍋(親子鍋と言うらしい)で一人前ずつ作るようなことはしない。

 大きめの鍋に冷めたとんかつをざくざくと切って入れ、やはりざく切りにしたタマネギをぶっ込み、めんつゆで煮て溶き卵をかけ回す。焦げないよう、煮ながらお玉でかき回す。だから出来た時は衣が剥がれ、バラバラになったカツがつゆと卵に絡まった、見た目だけなら残飯のようなシロモノだ。

 それを家族皆がお玉ですくって丼飯にかけて食べる。最初は肉が残っているが、出遅れると肉がなく、剥がれた衣だけしかないなんてことも珍しくなかった。

 だが、私はそれが良かった。私は肉よりもこの味の染みた衣が好きだった。我が家ではとんかつは、いつも近所の肉屋で出来合いのものを買ってくるのだが、そのとんかつは肉も厚いが衣も厚い。その衣がつゆなどを吸ってさらに一回り大きくなっている。これをごはんにのせて食べる。

 うまいぞお~っ!

 某アニメでは、料理のあまりの美味さに感動・巨大化して大阪城を破壊するという演出を見せていたが、私も思わず巨大化して東京スカイツリーを根本から折り取ってぶん回したいほどだ。

 何しろカツ丼の衣は、具材の美味さを全て吸収している。外側にはタマネギの甘みと出し汁のコク、そして内側には肉の旨みがたっぷりと吸い込まれている。まずいわけがない。

 できればこの衣だけの丼。「ころも丼」が食べたいと私が考えても不思議ではあるまい。

 しかし、いざそれを実現するとなると、これがえらく難易度の高いのだ。

 パン粉とタマネギ、溶き卵でかき揚げのようなものを作り、それを出し汁で煮てごはんにのせればいいと最初は思ったが、それではあの肉の旨みを吸った内側部分が再現されない。

 となると、とんかつを揚げ、ざく切りにした後に中の豚肉を取り出し、衣部分だけを煮てごはんにのせれば。うん、これならば思ったころも丼に近いものが出来そうだ。でも、取り出した後の豚肉をどうする?

 豚肉は豚肉で、ソースなどをかけて食べるか? いや、それは豚肉に対して失礼だ。というか、それでは豚肉がまるで出し殻みたいじゃないか。実際、衣から取り出した豚肉を単独で食べると実に味気ない。物足りない。

 ころも丼は食べたいが、そのために豚肉を切り捨てていいのか?

「特上カツ丼、肉抜きで!」

 ……いいような気がする。いや、やはり駄目だ。実際にこんな注文をしたら、間違いなく嫌がらせと思われる。

 方法としては、2人以上でカツ丼を注文し

「私の肉をあげるから、君の衣をくれないか」

 と提案、交換するのが一番いいのだろうが、実際に試したことはない。何というか、恥ずかしい。相手もドン引きしそうだ。

 それにもうひとつこの方法には大きな問題がある。店によっては、カツの衣が薄い。というか、衣を肉にのりで貼り付けたのではないかと思うほどこびりついて、衣をはがすというより、こそぎ落とす感じになってしまう。交換以前の問題だ。そんなカツ丼に出会うと、私は損をしたような気分になる。

 どうも世の中には、カツ丼の衣と鯛焼きの皮は薄い方がいいと思っている人がいるようだ。だが違う。カツ丼の衣と鯛焼きの皮と人の情は厚い方がいいのだ。もちろん限度はあるが。

 なんで衣を厚くしないんだ。みみっちい衣しかないカツ丼など、海原雄山のごとくカツ丼を掲げて厨房に入り

「このカツ丼を作ったのは誰だ~っ!」

 と怒鳴りたい気分になる。


 カツ丼と並んで「(カツの)ころも丼」がメニューにあればいいのに。

 切実にそう思う。

 かつやもコーンフレークで衣を作るばかりでなく、肉抜きのカツ丼を販売すべきなのだ。



 カツ丼の衣が一番って、私だけなのだろうかと少し寂しく思っていたが、先日、東海林さだおがエッセイ「カツ丼、その魅力」の中で「カツ丼の味は、実はコロモの味だといってもいいくらいだ」と語るのを読んで、

 私だけではなかった。私はひとりぼっちじゃなかったと安心した。

 うん、やっぱりカツ丼は衣だよね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰もが知っている食べ物だからこそ 色々な意見とかがあるのでしょうね~♪ 意外と食べ物に対する『譲れない部分』って みんな何かありそうですねっ♪ とりあえず♪ 仲山凜太郎さんの譲れない部…
[一言] なんとなく他人に言い難い好みの恥ずかしさとか、王道から外れているけど自分にとっては極上、という感覚が面白く、微笑みつつ頷きつつ読ませて頂きました。 衣への熱い(厚い?)思いがひしひしと伝わり…
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