会わせてはならない二人 中編
なげぇ!
ここら辺の話から本格的に原作からの相違点が出てきますが、二次創作なので許してください。
うるさいわね。
少しは静かにならないのかしら?
隣の部屋で彼女が能力を覚醒して、姉を抱きながら泣いていた時、吸血鬼....「レミリア・スカーレット」はため息を吐き、文句を垂れていた。
理由は当然、豚の如く泣き喚く彼らにいい加減嫌気が差してきたからであった。
「うるさいわね! そろそろ黙りなさい!」
数多く引き連れた蝙蝠の内の一匹が特に五月蝿い男の喉を引きちぎる。
顔色一つ変えずそれを実行した吸血鬼に男達は恐怖をその目に宿す。
それに相反するようにレミリアの目にはしまったという思いが浮かんでいた。
「やっば~...死んだ人の血液って美味しくないのよね~」
そう言うとレミリアは指を死体に向け、その瞬間自分の回りに群がる蝙蝠の群れがその死体に集り、あっという間に骨だけになってしまった。
その光景に泣き喚く彼らも絶句し、声も出なくなってしまった。
レミリアは彼らを見ながらもう飽きたという顔をしながらふと思い出したように喋り出す。
「そう言えばあの子はもう死んじゃったかしら。とっても美味しそうだから食べたいのよね.... ああ、あとそういえばあいつの分も取ってかないといけないのか、はぁ、面倒臭いわね。こういうときに直ぐ取ってきてくれるメイドか執事かいればいいんだけど...」
ぶつぶつと独り言を喋りながら無造作に地面をトンと蹴ると地面に座り込む男たちの真下からいきなり紅く光輝く槍が出現しこの場にいる全員を貫き消えていく。
声も出せないまま死んでいった彼らの血を瓶に詰めながら意識はとなりの部屋に向いていた。
途中で逃げた女の子って多分隣の部屋にいったのよね。なのに何で声がしないのかしら? 確か隣にも結構人数がいたと思うのだけど。
...確かあの子って私の眼が間違ってなければ能力持ちだったはず。それを使って倒したのかしら?
ま、見てみれば分かるわ。それに....
能力持ちは血が濃くて美味しいのよね~。
それは、今まで自分より上を見なかったがゆえの油断。
最凶と恐れられ数十年、自分が一番上だと信じて疑わなかったのも無理はないがしかし、あってはならぬ油断だった。
そして、ここからようやく世界の決められた歯車が....狂い出す。
-------------------------------
お姉ちゃん....
紅く描かれた朱色の空間の中央に死体と一緒に寄り添う一人の少女。
小さく響くそのすすり声がそこでの悲劇を物語っていた。
しかしそれとは相反するように回りに転がる死体の山。
数十人が横たわり物言わなくなっている光景は誰しもが絶句するだろう。
お姉ちゃん....
再度伝わらない気持ちが心に募る。
もう二度と告げられないその感情がいつまでも心に重くのし掛かる。
小さく幼い少女には受け入れ難い真実だった。
憎悪、悲壮、殺意、絶望....
何にも例えられない黒い感情が脳内を迸る。
だが、もうそれすらも少女にはどうでもよかった。
...帰ろう
母のもとへ
そしたら全てを伝えて一緒に地の果てまで逃げよう。
何もかも忘れて。
唯一の肉親の下へ戻るのが少女の望みだった。
そして同じ悲しみを分かち合って泣きたかったのだ。
この苦しみを他人にも伝えたかったのだ。
酷い状況を共に嘆きたかったのだ。
...もう戻ることのない命を一緒に送りたかったのだ。
もう何もかも諦めたような表情で、彼女は願った。
帰りたい。と。
しかし現実は残酷で、そんな願いを斬って棄てるようにドアがバンッと開かれ蝙蝠が入ってくる。
そこに佇むは明らかな殺意を持った吸血鬼だった。
彼女は先程も見ていたその吸血鬼に戦慄の表情を浮かべる。
「...なに?」
「...貴方、これ貴方がやったの?」
「私の質問に答えて」
強い口調でそう言う。
久々に言われた命令語に戸惑うが動揺を表情に出さないようにして喋る。
「...貴方の血を頂きに来たわ。姉妹もろとも私の糧になりなさい」
「....私と...お姉ちゃんの時間を、邪魔、するなァ!」
今ここに最強と謳われる能力同士の勝負が、始まった。
-------------------------------
能力持ちだとは知ってたけどなかなかね、これは...
この部屋に入ってきたときのレミリアの感想はこれだった。
山のような死体、無傷の少女、綺麗に刺さった銀製のナイフ、中央に佇む一人の幻想的な死体。
明らかな上位能力。
明らかな戦闘力。
幼い少女がやったとは思えない所業に思わず戦慄する。
本当に一人でやったの? だとしたら厄介ねぇ...
....こいつらに刺さっているナイフは見た感じ全部同じよね。
だとしたら複製系能力か増殖系能力か.... いや、全部弾幕で生み出せるのよねぇ、この程度のナイフなら。
今まで見たことない能力。
予測もつかない謎の能力に警戒しながらもそれはいきなり起きた。
「時符【殺人ドール】」
ボソッっと呟くような小声だが明確な殺意が含まれる声。
そしてその声が響いてから一秒、いやあるいはもっと速く自分を取り囲む死の空間が生まれていた。
「んなっ!?」
動揺を口に出しつつも瞬時に頭では冷静に対処を考えていた。
いきなり大量のナイフが出てきた!?
しかし、これは...
避けきれない!
瞬時に前方に炎の壁を作り出し後方は蝙蝠で飛んでくるナイフを一つ一つ噛み壊していく。
しかし、そんなことをしながらも次々とナイフは彼女の手によって増やされ続けている。
その速度はかなり速く、ナイフの数は削っても削っても総量は減っているのか分からないほどだ。
チッ、私としたことが....
.....おそらくあの子の能力は『次元操作系』...
『次元操作系』、それは、一次元の「横座標」二次元の「縦座標」三次元の「立体的空間」四次元の「時間」五次元の「別時間軸、別世界」この五つの「次元」を意のままに、自分の考えるがままに、動かし、止め、作り、壊し、操る。
レミリアですら文献でしか知らない、いわば空想の能力だったのだ。
私の『運命を操る能力』も最上位系の能力だけどあの子とは違って完璧に使いこなせてる訳じゃないわ。
上位の能力程扱いづらく、自覚しにくい。
私ですら使えるようになったのは産まれてから約100歳位経ってからよ。
それなのに、もう自覚し、使いこなせてるなんて....
明らかに異常だわ。
レミリアの想像通り少女は戦闘のセンスに関しては天才中の天才で、圧倒的な才能は百年に一度どころか歴史上で最高峰と謳っても文句は言えないだろう。
この『次元操作系能力』は扱いが極端に難しく、通常の人間ならば永遠に理解できず、レミリアが仮に持っていたとしても少女ほど器用に扱うにはそれこそ1000年単位で時間が必要なほどだ。
それを「少女」が、それも「人間」が扱うなんて異常にも程がある。
しかし、相手はこの世を生きる伝説、紅き吸血鬼。
その才能の溝を「経験」で埋めていく。
「余り舐めないで頂戴! 『霧』っ!」
そう唱えた瞬間狭い部屋は濃霧にみたされ、居るべき場所からレミリアの姿が消えた。
これはレミリアの持つ第二の能力『霧状に変化する能力』。
密閉された空間なら、自身を霧へと変化させ、あらゆる物理的影響を受けなくなる能力だ。
しかし、霧に変化すると逆に此方からでも相手に物理的干渉を行えなくなり、攻撃は配下の蝙蝠しか行えなくなる。
更に配下への命令は届かなくなり蝙蝠たちは個々が判断しなければならず、大抵全滅する。
余り戦闘向きとは言えない能力である。
しかしその感想は能力の全容を知るレミリアが持つ感想であり、まだ相手の能力も分からず、どんな攻撃方法なのかが不明な少女にとっては不気味で不思議な能力にしか見えない。
そして人間である以上、どんなに強くとも『恐怖』は感じたくない感情であることは間違いない。
ならば人間はその感情を受けなくなるならば持っているすべてを使いその感情を無くそうとするだろう。
レミリアはその心理を突き少女の持つ「能力」を「逃げ道」に変えたのだ。
レミリアはここまで永き時を生き、大抵の人間の心ならば読める様になっていたのだ。
持って生まれたカリスマ性と天性の才能と数百年の経験。
少女にはない知識で、少女にはない考えで、少女にはない感覚で追い詰める。
レミリアの狙いは『相手に能力を使わせる』こと。
レミリアは分かっていた。少女の能力はついさっき覚醒したことを。
そして、まだ魔力が成長しきってないことを。
そして、次元操作系能力は使うごとに膨大な『魔力』を消費することを。
さあ、チェックメイトよ。
何も知らない少女は唱えて、しまった。
「時符『殺人...』っ!?」
少女はその能力から逃れようとし、時を止めようし、詠唱の最中で呻き声を上げ、頭を抑えしゃがみこんでしまった。
原因は『魔力不足』。
幼く、知識のない少女には『魔力』等と言う存在は、ましてや能力に使う魔力の消費量など知る訳が無かったのだ。
「う、うぅぅぅ....」
呻く彼女に対し、能力を解除し作り出した炎の槍を少女の首もとに突きつけ宣言した。
「....私の、勝ちよ」
ここにひとつの戦いの終末が告げられた。
-------------------------------
ガンガンと響く頭痛。
ビリビリと叫ぶ耳鳴り。
ジンジンと痛む心の傷。
体が限界だと訴え、目の焦点がぶれ、マトモに前を見ることが出来ない。
だがその視線はじっと目の前に立つ吸血鬼に向けられていた。
「...殺しなよ」
まず口から出たのはこれだった。
姉を失い、指を失い、自暴自棄になったが故の発言。
負けてしまい、全てがどうでもよくなってしまったのだ。
「.....ねえ、あなたにひとつ質問があるんだけど、いいかしら?」
こちらからの発言をスルーし、放たれた言葉。
スルーされたことに若干の不満はあるがそれを喋る気力はなく、ただ力無く頷くことしか出来なかった。
「貴女、私と一緒に付いてかない?」
「...ふざけてるの?」
少女にとってはふざけてるとしか言いようがない質問に思わず口調が強くなる。
「負けて、心から死にたいと思ってる相手に、そんな侮辱する様な事を言って、何が楽しいのよ!」
さっきから感じていた痛みを忘れる程の怒りが心を占める。
失礼で、傲慢で、敗者を侮辱する様な発言に腸が煮えくり返る。
「あなたに付いていって生きるなら、私は母と一緒に姉を死なせたという業を背負って生きてくわ!」
吐き捨てるように言ったその言葉に対し、レミリアは静かに答える。
「....辛い話になるでしょうけどよく聞いてちょうだい」
「...まだ何かあるの?」
少し躊躇った様子で話すレミリアに少し動揺を覚える少女だったが次の言葉にそんな動揺を忘れる程の衝動が襲う。
「...私は、実は多分でしょうけど貴方の母の死体に会ってるわ」
「..........え? な、なんですって?」
まるでその台詞を耳が拒否するように聞き取れない。
それほどこの言葉は信じがたかったのだ。
「私は丁度さっき、ここに来る前に教会の地下牢に行ったのだけど一番奥の牢にある女性の死体が転がってたわ」
「...やめて」
「ひどい暴行をされてたみたいで顔は判別できなかったわ」
「やめて」
「だけど綺麗な銀髪で貴方たち姉妹の面影もあったし、私の能力が視た感じ貴方たち姉妹の運命と母親の運命はとても似ていたわ」
「やめて!」
「それに......」
「もうやめてよ!!!」
事実が受け入れないとばかりに無意識にナイフを生成し、投げつける。
ただ、投げる力は弱く目の前のレミリアに当たる前にカランという音を立てながら落ちてしまった。
「....」
「...殺しなよ」
無言で佇むレミリアに対し先ほどとまったく同じ言葉を放つ。
ただし、そこに含まれる感情は先程とは非にならなかった。
「殺してよ! ...なんで、なんで!?」
非日常で非現実的な出来事。
平凡な日常からわずか2日で残酷で残忍で無残な世界に連れてかれる少女はこの世界で最も不幸だろう。
いくら最強でこの世界の理を操ろうともまだ20にも満たない齢である少女ではその『不幸』に対する解決策は見つからない。
「ねえ」
「...何よ! もう、もう....放って、置いてよ.....」
「.....もしかしたら貴方の母親や姉が生き返るって言ったら、どうする?」
「....え?」
それは少女にとっては自分の命も、魂も支払いたくなるような言葉だった。
悪魔からの質問。
いや、吸血鬼からの質問。
その吸血鬼はニヤリと笑いながら言った。
「あるのよ。私についていけばね。.......どうする?」
それは、吸血鬼との契約。
一度契りを交わせばもう『平凡』には戻れなくなる『非日常』への片道切符。
どれだけ確率が低くとも、どれだけ危険でも、少女は止まれなかった。
それが出来れば自分の命もどうなっても良かった。
「...分かりました。この命、貴方と、『家族』に」
「.....そう。じゃあ、来なさい。だけど....」
そう言いながらレミリアは座っている少女に向かって手を差し伸べた。
「この手を取った瞬間から貴方はもうこの『平和』には戻れないし、この先には『死』しか蠢いてはないわ。それでも?」
少女はもう『魂』を捨てていた。
「はい」
またここで歴史がひとつ進んだ。
-------------------------------
「...きれい」
久々に出た外は夜で、しかし、美しいとも残酷とも見て取れるような紅い満月が登っていた。
涼しく、冷たい風が吹いていて、その風を吸い込むと『外』の感じられる味がした。
「何してるの? 早く行くわよ」
「はい。分かりました」
「...あ、そういえば貴方って名前は?」
「....私の名前...いや、もう捨てました。お嬢様が付けてください」
少女はもう過去を捨てていた。
また、家族に会うまでは。
「えぇ...別にいいのに。うーん、そうねぇ...今日は綺麗な夜だし『十六夜 咲夜』なんてどうかしら?」
「いざ...?」
「これから行く国の言葉よ。嫌ならいいわ」
「いえ、大丈夫です。それに綺麗な言葉ですね。私は、気に入りましたよ」
「フッ、それならいいわ。じゃあ行くわよ『咲夜』」
「はい。どこまでも」
ここからメイドとしての才能を開花したり、暴君な姫様と会ったり、自分の能力で館ごと遠くまで転移させろとむちゃ振りさせられたりするのだが、それはまた別のお話。
過去編はこれで終了です。
後編から現代に戻ります。




