決着
決着です。
ついに来ましたね.....
目の前には怒りを眼に浮かばせる吸血鬼と主の出現に驚くメイドがいた。
こちらの出す数多の弾幕を物ともしないような風貌で佇んでいた吸血鬼の名はレミリア。
この魑魅魍魎の集まる幻想郷でも屈指の強さを持つ妖怪だ。
そして、メイドの名は咲夜。
時を操る能力を持つ人間最強格のメイドだ。
この二人が協力すれば鬼に金棒、吸血鬼に血、まさに最強。
....だけど残念ね。ここは私のフィールドよ。
咲夜の能力は『時を止める』だけ。
時を止めても逃げれない空間を作れば能力は意味をなさない。
その為に私のスペルカード【遡るは-24】でここ一体の今までに出した数多の弾幕を再現しそれを壁にすることで咲夜の逃げられる範囲を縮めた。
吸血鬼もどうせここから逃げれない。何故なら『あの人』の能力で外からの侵入はできても内から外へは出られなくしてますからね....
万に一つも抜け道はないわ....
やはり勝てる。
この日のために私は闘ってきたんだ。
あの時の屈辱を。
あの時の裏切りを。
あの時の怒りを!
全てを貴女に返すためにね!
さぁ、二人が集まったところで全くもって無意味なことを教えてあげましょう。
これが、私の能力の真骨頂!
何かに気づいたレミリアが紅い槍を手に握り高速で咲夜モドキに迫る。
しかしそれが彼女に届く前に手には桃色の幾何学的な模様の描かれた紙が出現していた。
そして、ゆっくりと、唱えた。
「...では、従者揃って消えてもらいます。...さようなら。【冬桜春雪】」
そう言い、手に持っていた紙が消滅し、白銀と薄紅色で染まった空間が出現した。
それはまるで光に満ちたこの空間に彩りを加えるような弾幕。
雪の上に桜が咲くような、春に雪が降るような。
美しく、場違いな弾幕。
そんな時間が滅茶苦茶になったような弾幕は大きく広がり、迫っていたレミリアも、呆然としていた咲夜も、視界を覆う光の弾幕も。
全てを飲み込み。
消えた。
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な、何が起きたんだ?
え? 大丈夫って言うルーミアたんを信じてルーミアたんと談笑してたらいきなり目の前の光の搭が消えたんだけど。
あー、咲夜さん勝ったのかな?
元凶を倒したらそいつの出してた弾幕も消えるでしょ。
いや、倒すの意外と速かったな。もうちょいかかるのかと思ってたわ。
...あ、咲夜さん出てきた。
「おーい! 咲夜さ...」
...いや、違う。
あれは....
後ろに担がれたあの大剣は。
赤く輝くあの眼は。
空中で闊歩するその姿は。
この夜に何回も見てきた、何回も対峙して、何回も地を舐めた。
見間違える訳がない。
あいつは...
「次は貴方です」
咲夜さん『モドキ』だ。
それを理解したと同時に多くの弾幕が俺達を襲う。
その範囲は到底避けきれないほどの広さ。
近くにいたルーミアたんも諦めたような表情で佇んでいる。
...これは...無理だ。
今まで必死に生きようともがいてきたがこれはどうしようもない。
流石に今回ばかしは....
本当に?
え?
いや、そうだろ。
こんなんどうしようもないだろ。
まだ死んでないのにどうしてそんなことが分かるんだ?
...うるせえな。
死んでなかろうが分かるだろうが!
俺だって諦めたくて諦めてんじゃねえ!
無理だから、どうしようもないから諦めてんだろうが!
誰だか知らねえが、知ったような口きいてんじゃねえ!
...お前は幻想郷で『足掻く』んじゃなかったのか?
...あ。
幻想郷で『生きる』んじゃなかったのか?
...そうだ。
...幻想郷で、『邁進』するんじゃないのか?
...何で忘れたんだ?
俺はここで...『幻想郷』で、生きるんじゃ...
...ああ、そうだ。
平凡でも不格好でも惨めでも情けなくても泥水を啜ってでも...。
俺はこの場所で生活していくと決めたんだ...!
結果死んでもいい。
負けてもいい。
それでも俺は...
今を打開するために邁進するんだ!
「うおぉおおおおおおおおらぁあああああああああ!」
集中しろ!
前を向け!
この弾幕は今まで俺に撃ってきたものと同じもの!
さっきまでルーミアたんたちはあの弾幕を自分の弾幕で打ち消したりしてきた。
なら、打ち消すための弱点は必ずあるはず!
観察しろ。
見抜け。
判断しろ。
必ず打開策はあるはずだ!
極度の集中で眼は紅く充血し、頭の高速回転により周りの時間は遅く感じていた。
更に極限まで追い込まれた状況で生存本能が働き、全身の筋肉が膨張し強化されていた。
視力は上昇し、感覚は研ぎ澄まされ、心拍数は優に150を越えていた。
極限状態で追い込まれた精神を無理矢理鼓舞しながら弾幕を見つめる。
.....見えた
大妖精の造った樹の枝を地面から拾い、目の前まで迫ってきた弾幕に向かって振る。
この弾幕は今までの経験則で行くと地面や木のような自然物を破壊していない。
つまりこいつは壊せる物質と壊せない物質があるはず。
そしてこいつは壊せない物質に当たると同時に消滅していた。
なら、必ず、壊せる。
その瞬間に見えたのは見えるはずのない、弾幕の『中心』だけ。
右手に握りしめた枝を振りかぶり、弾幕に向かって全力で振る。
ミシミシと音が腕から鳴り、肩が外れるかのような圧力をかける。
この土壇場、生への執念が、未来への希望が、少し前の記憶が。
絶対の壁を、今、破壊した。
「はあっ!?」
「やってください咲夜さん!」
コイツは俺の言葉に驚いて振り向いたようだがもう遅い。
言ってやろうぜ、ここは私のバトルフィールドだってな。
「言われなくても分かってますよ。奇術『エターナルミーク』」
奇術『エターナルミーク』。
東方紅魔郷のstage6で咲夜さんの放つスペルカード。
その弾幕のランダム性から「やけくそで撃っているのでは?」と言われてきたそのスペルカードはやけくそ、というより『怒り』。
咲夜さんのスペルカードにしてはナイフも能力も使わない純粋な弾幕。
小手先に頼らない純粋で愚直な弾幕は時に何よりも勝る。
雨粒のように上空から大量に降り注ぐ青色の弾幕。
それを『下から見ながら』俺は思った。
あれ? これ死ぬな....
何せ状況は地面に俺、その上に咲夜さんもどき、そのさらに上に咲夜さんという構図。
そして弾幕は一番上から降り注いでいる。
...ここで問題です、咲夜さんもどきに向かって撃ったランダム性の高い大量の弾幕の大半はどこへ落ちるでしょうか?
答えは俺のいる地上だよ! 畜生!
東方紅魔郷ルナティックレベルの濃度の弾幕、それを幻想郷に来て少ししか経ってない俺がよけきれるわけがない。
流石に死を覚悟して瞬きをした瞬間、情景が一変した。
「え?」
地面に立っていたという感覚がなくなり身体が空中で横になっているような感覚に襲われる。
それどころかなんか優しい包容力というか温かく抱きしめられているような感じになる。
まさか...ここは...
「天国!?」
「...変なこと言ってると落とすわよ」
...!? なんだこの声は!?
心の奥まで透き通るような美声。
ここが天国とすればまさかここにいるのは天使なのか?
そのお顔をぜひ拝見してみたい...
声がした方に静かに振り向くとそこには薄い紫の髪を靡かせ、紅の眼を爛々と輝かせる吸血鬼がいた。
...少なくとも天使ではなかった。
「レミリアさん?」
「はい? 何?」
「なんでここに?」
「...私はどうでもよかったけどルーミアがめちゃくちゃ睨んできたからしょうがなく助けてやったのよ」
助けてくれた?
まだ状況の読み込めないままふと下を見ると咲夜さんを見下ろせるレベルの高度にいた。
高所恐怖症なら失神してるんじゃないかなと思うぐらいの高さだった。実際失神しかけた。
「それにしても...貴方よくあの状況で咲夜が生きてるって思えたわね」
「え? まあ、ルーミアたんが咲夜さんは強いって言ってましたから」
「...それだけ?」
「...? まあ、それだけですが」
「...貴方、あそこで咲夜が死んでいたら貴方も死んでたのよ? もう少し冷静に判断できなかったのかしら?」
「まぁでもルーミアたんが強いって言ってましたしね」
俺はルーミアたんに絶対の信頼を置いてるからな。
あんなに強いって言われてる咲夜さんがあれくらいの弾幕で死ぬわけないでしょ。
ルーミア is GOD
「ふっ...あはははは!」
「え、なんすか」
「貴方面白いわね。名は?」
「『霊君 僚』です。今後もよしなに」
「私は『レミリア・スカーレット』よ。助けてあげた報酬に血を頂こうとしたけどやめてあげるわ。感謝しなさい」
この会話が実は吸血鬼に置いて異例の『名の交換』を行ったということになっていたとはこの時の俺は一切知らなかった....
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久々に出会ったわ、こんなに面白い子。
上空に浮かぶ吸血鬼、レミリア・スカーレットは久々に面白い相手が現れて喜んでいた。
この子、人間の子供でしょ?
しかも、外の人間。
正直ルーミア達が戦ってた時からこの人間はすぐに死ぬと思ってたわ。
けど、違った。
やり方は拙いけど咲夜と私を戦いに巻き込んで形勢を逆転させた。
自力で弾幕を破壊して、生き残った。
しかもあの状況でルーミアの言った不確実な情報に自分の生死をかけることができていた。
これから、面白くなるわね。
最近のつまらない幻想郷を色づけてくれると確信したレミリアはこれからの運命を見つめてほほ笑むのだった。
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あれ?
てかもしかしてこれってお姫様抱っこ?
自分の空中にいるメカニズムが分からないので辺りを見渡してみると俺は空中で横になり背中をレミリアさんの腕で支えられていた。
そう、俗に言う『お姫様抱っこ』である。
もしかして今ってめちゃんこラッキーな位置と言うか、すげえことになってる?
今までは画面のなかでいくら近づこうとも触れられなかった存在に実際に会っている、しかも空中で抱っこされているのだ。
長時間の戦闘で脳の思考能力が低下していたがよくよく考えてみると夢にまで見たような状況になっているのだ。
いやいや、まてまて。
落ち着け、俺にはルーミアたんという絶対で完璧な存在がいる。
いくらここの寝心地が素晴らしくて最高な場所だとしてもここで負けるわけにはいかない...!
...駄目だ。
こんなん耐えられるわけないだろ!
な、何か気を紛れさせられるものはないのか...?
「レ、レミリアさん! 丁度咲夜さんの戦闘が終わったみたいですよ!」
「...なによ、そんなに焦って。貴方に言われなくても分かってるわよ」
霧の湖で起きた死闘。
眼下に広がる大量の弾幕の中で最後に立っていたのは――――
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ずっと覚えていた。
思い出していないふりをして。
思い出せない演技をして。
ずっと頭の奥底に眠らせていた。
「...」
「...」
自分で自分を騙して。
自分の重要なものを隠して。
家族を見ずに過ごした。
「...」
「...」
いつからそんな考えになったのか。
自分の能力で自分の時間を停めてから何年経った頃に隠すようになったのか。
あの時蘇生を願った自分はどこへ消えたのか。
「...」
「...」
分かる。
自分と同じように数多くの弾幕の中で停まっているあの子が家族だということが。
分かる。
あの子が怒っている理由が。
「...」
「...」
...楽しかった。
お嬢様と居たときはお母さんと居たときより多くのことを学べたし多くのことを知れた。
いつしか理由としたいことが逆転して過去から目をそらし続けた。
「...」
「...」
でも、もうやめるわ。
過去から目をそらすのも、お嬢様を理由にして盲信するのも。
...そして、人の蘇生は無理だということも。
全てを受け止め前へ進むわ。
「...私の名は『十六夜咲夜』ほかの誰でもない、レミリアお嬢様の従者よ」
「...」
「...いくわよ」
もうその弾幕はあの時のナイフではない。
あの時放ったやけくその弾幕でもない。
そこにあるのは確固たる自信と時間を操る自分だけ。
――――もう過ぎた時間はもう二度と、元には戻らない。...だから、後ろを振り向くだけ無駄よ。
「私は過去より、未来へ進むわ。時符【不可逆的時間】」
繰り出されるのはさっきと変わらないランダムな弾幕。
...だが、その弾幕は止まらない。
一度避けた弾も意思を持ったかのように再び敵を追い続ける。
一つ一つの弾が知能を持ったように追い込み、二手に分かれ、挟み撃ちをする。
死角から忍び寄り時にはフェイントを使い、その命が尽きるまで決して止まることはない。
「くっ...!」
逃げて逃げて、逃げさまよった先は...
敵の目の前だ。
「...さようなら」
手に持ったナイフが咲夜もどきの胸に標準を合わせ放たれる。
放たれたそのナイフはいつものまがい物ではない、あの時妹の胸に刺さっていたナイフの実物。
過去を捨て、未来を見るかのように。
昔のナイフは、満月の光を受けながら、その胸へ、突き刺さった。
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霧の湖で起きた死闘。
眼下に広がる大量の弾幕の中で最後に立っていたのは――――
まぎれもない、咲夜さんだった。
「勝ったんだ...!」
「まあ、そうね。私の一番の従者がまがい物に負けるわけないでしょ?」
ああ、勝ったんだ。
たかだ数時間の戦いだったけど、体感的には何日も戦ってたみたいだ。
ホントに体感時間って変わるんだな....漫画の世界だけだと思ってたわ。
1人で勝利の味をかみしめつつ、レミリアさんの腕に抱かれ、地面に降り立つ。
「...勝ったんだ!」
「勝ったんだね! 僚!」
...!? その声は!
耳の奥までスッと響くその御声は!?
「ルーミアたん!」
「やったね!」
天真爛漫な屈託ない笑顔を見ながら改めて勝利を実感する。
勝った、勝った! 勝ったんだ!
そしてその安堵感からか今まで蓄積されてきた疲れや倦怠感がどっと押し寄せる。
重力に負け自然と閉まろうとする瞼に抵抗するが脳はそれを拒否し、眠りへ誘う。
筋肉痛で激痛を訴える足に力が入らなくなる。
視界が狭窄してきて、体が動かなくなり、
そしてそのまま地面へ倒れた。
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僚が疲れて、地面に倒れこんだのを筆頭に、全員が地面へ座る。
話す会話もない中ルーミアは安堵、レミリアは楽勝ね、といった顔つき。
咲夜は勝者の顔とは思えない神妙な顔つきで座り込んでいた。
十分ほどそのまま座り込み、その後ルーミアが僚を担ぎ、帰ろうとしていた時、信じられないようなことが起きた。
バンッ
誰かが勢いよく起き上がるような音が響くと一瞬にして場に緊張が訪れた。
全員が見た場所は同じ。
それは、さっきまで倒れていた咲夜モドキの場所。
そしてそこにはそこにあるべきものが消えていて、それを確認したと同時に上空から声が響く。
「.....次は殺すわよ」
全身が泥と血で塗れながらそう言い放つと瞬きの間にその姿を消した。
そして全員が顔を見合わせ、驚愕の表情を浮かべる中、僚の寝顔だけが月の光に照らされていた。
次回から本格的に異変が始まっていきます。




