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第72話 多感肌

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スキル:光魔法C

 MPを消費して、光を操る魔法の使用が可能となる技能。Cランクであれば類稀な技能を持ち、環境が整えば大魔法の詠唱も可能となる。


スキル:多感肌A

 周囲の感情に敏感な性質。Aランクであれば感度が高くなり過ぎてしまい、防御面や感情の起伏に悪影響を及ぼす事も。ただし敵意や殺意といったネガティブな感情には特に鋭く作用する為、いち早く危険を察知できる。

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 アークが追撃を繰り出す前に、ジェーンのスキルの詳細をオープンにしておく。


「あら、『光魔法』があるじゃない。これって凄く便利よ!」


 思惑通り、アークの興味対象はスキルへと移ってくれた。フゥ…… 命からがら、どうやら俺は助かったようだ。


「クリスも『炎魔法』を持ってるけど、それとは違うのか?」

「どっちも希少という点では同じだけど、用途が全然違うのよ。炎魔法は周囲を明るくしたり、クリスみたいに料理に使ったりもできるけど、主流の使い方は圧倒的な火力を活かした攻撃なの。炎魔法を使える高位の魔法使いは、どの国でも戦闘における奥の手として重宝されるのが常識ね」

「へえ、文字通り火力重視の魔法って訳か。なら、光魔法はどうなんだ?」

「光魔法はその真逆よ。攻撃魔法もない事はないけど、傷を癒したり解毒したり、治療を行うものがほとんどって感じ。それこそCクラスの光魔法があれば、大都市とかにあるおっきな教会にも余裕で勤められるわ。ただ本当に数が少ないから、病院とかだと薬草を煎じる薬師を生業にしてる人が大半ね。ほら、だからグレゴールも薬師でしょ?」

「ああ、なるほど」


 となると、我が海賊団は薬と回復魔法、その二つの使い手を同時に得る事ができたという訳か。あ、でもジェーンがどれくらい使い慣れているかにもよるかな? ……いや、そもそも幽霊の体に使って良いものなのか、光魔法? 何か浄化されてしまうイメージがあるぞ。


「あー…… ジェーンは生前から光魔法を覚えていたのかい?」

「いえ、使えるようになったのは、この体になってからになります。あ、でもご安心ください。時間だけは沢山ありましたので、それなりには使えるようにはなったと思います。あと、幽霊同士だとお互いに触れ合えるので、子供達が喧嘩をして擦りむいた時など、よく駆り出されていました」

「おお、それだけ魔法を使えるんだとしたら、グレゴールさんも鼻が高いだろうなぁ」

「ふふっ。鼻が高くなり過ぎまして、一時期それしか話題にしなかった時があったほどです。あまりに酷かったので、私も少し反抗期になってしまいました。直後に止めてくださったので、ほんの一瞬の反抗期だったんですけれどね」


 うん、容易に想像できてしまう。


「ちなみになんだけど、幽霊にも光魔法って効くのかな? 俺の勝手な印象ではさ、光魔法での治療ってアンデッド系にダメージが通りそうなイメージなんだけど」

「え? ええっと、そうなのですか? 申し訳ありません、私はそういった現象は考えた事がなく……」

「何で治療する魔法なのに、怪我を負うような逆の事が起こるのよ。浄化魔法ならまだしも、吸血鬼やゾンビだって普通に回復するでしょうが。これ、常識よ?」

「なるほどなるほど。オーケー、この世界での常識理解。さっきの言葉は忘れてくれ」

「「?」」


 俺のイメージは真っ向から否定された。だが、俺は素直に受け入れよう。だって現にそうなるって決まっているのなら、反論したって仕方がないもの。幽霊でも回復魔法は普通に効く、浄化魔法は普通にやばい、と。ウィルはまた一つ賢くなった。


「三つ目のスキルは『多感肌』、しかもAクラスか…… 良い面悪い面の両方が備わった、変わったスキルと言うか、その───」

「───このスキルがあるから、ジェーンって人見知りなんじゃないの?」


 アークさん、相変わらず俺が言い辛いところをズバズバ言ってくださる。


「た、多少なりの影響は受けているかも、ですね…… ただ、このスキルは悪い感情に特に強く作用するものです。ウィル様とアーク様は良くしてくださいますし、他の皆様からも悪意のようなものは感じられないので、普通に過ごす分には問題ないかと……」

「でも初めて難破船で会った時さ、アークからビビッと来なかったか?」

「え、えと…… 正直に明かしますと、その時はかなりビビッと……」


 難破船でジェーンが姿を見せなかった理由はそれか。


「ま、まあ良いじゃないの。誤解は解けたんだし、終わり良ければ何とやらよ!」

「また調子の良い事を…… ん? という事はさ、今の今まで怖がっていたアークの居場所とか、拠点にいる最中もずっと分かっていたりする?」

「えっ、そこまで高性能!? もしかして、私の行動筒抜けだった!?」

「い、いえいえ! そ、そこまで正確に読み取るのは、ちょっと難しいですね…… 何かしらの情報を感じ取ったとしても、それが誰のものなのかは分かりませんし…… 私が把握できるのは、発生している負の感情がどういった種類のものなのか、どの方向から発せられているのか、後は大よその距離くらいなものです」

「ホッ……」

「……ただ、極端に怖がっている感情が一つだけありまして、おそらくそれがアーク様ではないかなぁ~と、思っていたりは、その……」

「やっぱり筒抜けだった!」


 昨日の宴で怖がっているとすれば、そりゃアークしかいないもんな。消去法で分かってしまうってもんだ。でもそれって、ジェーンに俺の寝室がどこにあるのか知られていたら、昨夜はかなり危ない橋を渡っていた事になるんじゃ…… い、いや、アークは瞬間的に眠っていたし、それはセーフか。


 それよりも気になるのは、もし破廉恥な事を考えたら、それをも感知してしまうのか? という事だ。昨夜の俺は正にそれ、場合によっては俺のなけなしの名誉が失墜する。しかし、そんな事をジェーンに聞くなんて愚かな行為はできない。聞いた瞬間、俺は社会的に死んでしまうだろう。


「すすすす、すみません……! で、ですが普段は、この察知できる範囲を狭めているんです。その、その、この部屋程度の広さ程度にまで、何とか……」

「あっ、別に怒ってる訳じゃないからね、私!」


 泣きそうなジェーンに、アークが慌てて弁明。アークの声量は基本大きめだから、余計に驚いてしまったんだろうか。まあまあと間に入り、二人を落ち着かせる。あと俺の心も落ち着いてもらいたい。大丈夫大丈夫、きっと大丈夫……!


「話を戻すけどさ、ジェーンは多感肌の効果範囲を、自分の意志で狭めたり広げたりできるって認識で良いのかな?」

「そ、そうなります。今の私がコントロールできる範囲では、頑張って狭めてもこの部屋サイズが限界なんですが…… 周りの方々のプライベートにも関わる事ですので、基本はいつもこのスタイルです。ただ、何かの拍子で驚いたりしてしまうと、この範囲が刹那に拡大してしまいまして。昨日は家の中でお母様とぶつかりそうになって、わっと尻餅をついてしまって……」

「その拍子にスキルが発動しちゃって、アークと思わしき怖がってる感情を発見してしまったと」

「その通りです……」

「よし、無罪よジェーン。私が許す! ってか、そもそも何とも思ってないし!」


 うん、無罪である。尻餅をついてしまった場面を想像してみろ。故意でもないし、無罪でしかない。むしろ心が洗われる!


「それよりも、私が気になるのは最大範囲ね! 広さによっては外敵をいち早く発見できるじゃない! で、私がそれを倒す! 完璧なコンビプレイね!」

「ソナーみたいな感じだな、それ。 ……む、それもアリか? でも───」

「まーたウィルが変な事を考えてるー。ジェーン、今絶対変な事を考えてるでしょ、ウィルの奴!」

「い、いえ、至極真面目に考えているのかと。邪な感じは全くしませんよ」

「ちぇー、つまらないの。あ、そんな事はどうでも良かったんだ! それでそれで、最大はどれくらい!?」

「そ、そうですね…… 私も全力で範囲を広げた事がないので、具体的な距離までは分かりかねますが…… この島全域は楽に納まるかな、と……」

「うえっ!? そ、それ凄くないっ!? 私も勘は良い方だけど、流石にそれは無理よ? 全力を出したら一体どれくらいなのかしらねぇってひゃ──────!?」

「「っ!?」」


 声量の大きなアークの悲鳴に、俺とジェーンはむしろそちらに驚いてしまう。猛スピードで部屋の隅にまで移動したアークは、窓に指をさして「そこ、そこ!」と、俺達に何かを訴えているようだった。


「お、お父様にお母様……?」


 アークの示す窓の奥には、こちらを覗くグレゴールさんと奥さんが、微妙に隠れた形でいらっしゃった。しかも窓への映り具合が絶妙で、心霊写真みたいな感じになっている。これはビックリするわ。

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