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第50話 帰還

 無人島の探索を終えた俺達はボートでマイホームへと戻り、甲板から一番近くに椅子のある食堂へと移動した。移動して、即座に椅子へと腰掛ける。そしてテーブルに上半身を預けるようにして倒れる。


「キャプテン、大丈夫かい?」


 船に乗ってから俺に肩を貸していたトマが、心配そうに聞いてくれた。


「だ、大丈夫じゃない…… 疲れた、とても疲れた…… 調子に乗って、一日中歩き回るもんじゃないな、本当に……」


 そう、久方振りの、というよりもこの世界に来てから初となる長丁場の探索活動に、俺の両足は悲鳴を上げ続けていたのだ。椅子に座ると我慢していた疲労が一気に爆発。うん、これはもう立ち上がれないなと確信した。うう、これ絶対足のどっかに豆ができてるよ……


「ウィルってば軟弱~。これくらいで音を上げるなんてね」

「よ、予定ではこんな時間まで探索しないつもりだったんだ。まったく、久しぶりの陸地だからってはしゃぎやがって」


 ここは行った、次はあそこ、今度はあっちに行こうと、アークのやる気に感化されてしまい、俺達は今日だけで島の大半を踏破した。アークの手綱をしっかり持っていたら、体ごと引き摺られていたとも言い換えられる気がするが…… いや、深くは考えないでおこう。何はともあれ、探索は順調過ぎるほどに進んだんだ。暗闇が広がる洞窟など、所々で調査し切れていない場所もありはするが、俺の想定を遥かに超えた成果と言えるだろう。


「だって~、獲物が私を呼んでいたんだもの~。それでも結局は、ウィルが私を止めてくれたじゃない。体を張って、最後には夕食をちらつかせる事で私の興奮状態を収めるなんてね。ウィルってば私のコントロールの仕方、よく分かっているじゃない!」

「お褒めに預かり嬉しいような、苦労が絶えない未来が見えるような…… クリスは疲れてないか?」

「途中から翼で飛んだりもしていたので、そこまで疲労は溜まっていませんね。むしろ島の様々な食材を目にして、創作意欲が湧いているところです!」


 むんっ! と、力を篭めるポーズを取って見せるクリス。フッ、何それ可愛い……! しっかし、ゴブリン達やスカルさんは船に帰ってすぐ通常業務へ戻っていたし、スタミナ切れを起こしたのは俺だけだったのか。男として自信なくすなぁ…… もしかして、HPとスタミナって別物で換算されてる?


「そう言えば、リンはどうしたんだ?」

「リンなら護衛のゴブさんと一緒に、牢屋の奴らに飯を運びに行ったよ。俺はそんな事する必要ないって言ったんだけど、すっかり日課になっちゃったみたいなんだよな~」

「あー、なるほど。護衛をゴブイチにお願いしていたから、まあ大丈夫だとは思うけど……」


 クラーサ達の食事をリンが運ぶようになったのは、何も最近の事ではない。クリスの手伝い、農園の着手と、リンは見た目以上に色々な事に挑戦しようというチャレンジャー精神に溢れている。リンの安全を確保した上で、その精神を尊重したつもりなんだが…… うーん、まだまだ心配なのが正直なところだ。護衛ゴブ、もう一体増やそうかな?


「おっと、噂をすれば何とやら」


 食堂に併設された階段から鳴る足音を聞きつけ、それがリンとゴブイチのものであると予測。そしてそれは見事的中したようで、栗毛色の獣耳を先頭に、リンの可愛らしい顔がひょっこりと現れる。俺の疲れ切った心もついでに洗われる。


「あっ、船長さんにクリスさん、それにアークさんも! おかえりなさい、じゃなくて、ええと─── おかえりなさいませ?」

「ハハハッ、おかえりなさいで良いよ。リン、ただいまっ。トマもただいまだー!」

「あっ…… わふー」

「わわっ、ちょ、ちょっとキャプテン!? 恥ずかしいって~!」


 リンとトマの頭を撫でり撫でり。こうして俺の精神疲労は完璧に消し飛んだのであった。


「二人とも、お留守番ご苦労様でした。ご褒美にデザートを、これから拵えますね!」

「魚も良いけど、獣人といったらやっぱり肉が好きよね、肉! 安心なさい、いっぱい肉を狩って来たから!」

「デザートに肉だって!?」

「お、お兄ちゃん、凄い反応の速さ…… でも、とっても美味しそうです!」

「その様子だと、二人も夕飯はまだみたいだな。じゃ、仲良く食卓を囲むとしようか」


 食事の準備は滞りなく進み、クリスが予め作っておいてくれた料理を温め直し、島で手に入れたフルーツでちゃちゃっとデザートを作ってくれた。その手捌きは華麗であり、リンの瞳を輝かせるに値する職人そのものだ。本当にちゃちゃっとできあがってしまったので、俺は手品かと目を疑ったよ。


「「「「「いただきまーす!」」」」」


 今日は最も肉体を酷使した日だった。けど、その分口にするものが何でも美味しく感じられる。クリスの料理はいっつも美味しいけど、なおさら絶品というか、感動さえ覚える領域だ。リンとトマで精神を癒し、クリスの料理で肉体を潤す─── うん、控え目に言って極楽だろ、これ。


「キャプテンキャプテン! それでさ、あの島はどうだったんだい!? やっぱり、凶暴なモンスターがわんさかいたとか!?」


 俺が舌鼓を打っていると、向かいに座っていたトマが興味津々な様子で島の事を聞いてきた。探索の結果を早く聞きたくてしょうがないんだろう。トマの隣に座るリンも、言葉にはしないが耳をピンと立てているので、同じ気持ちなのが丸分かりだ。


「やべぇ微笑ましい」


 つい本音がポロリと出てしまう。


「え?」

「あ、いや、何でもない。えーっと、島のモンスターについてだったっけ? わんさかいたよ凶悪なモンスター、いっぱいいた。集団で襲いかかるでっかい狼に、手にしたもんを何でも投げつけてくる猿、丈夫な糸で俺達を捕まえようとする大蜘蛛や、やたらと突進を仕掛けてくる猪とか。他にも色々種族があって、かなり豊かな生態系を築いているみたいだ」

「そ、それじゃあ上陸するには、あまり適していなかったんですか?」

「いやー、それが───」

「───そう判断するのは早計というものよ! 襲いかかる猛獣猛禽猛虫の尽くを撃退していたら、いつの間にかモンスターが私達の近くに寄らなくなったの! なぜかは知らないけど、対面した瞬間に向こうから尻尾を巻いて逃げてく感じなのよね。よって今なら安心安全! うーん、力の差を思い知ったからかしら?」


 俺の台詞がアークに盗られてしまった。まあ、モンスターが怖れを成した理由はその通りだと思う。特にこの島の主っぽい巨大猪を倒してから、あからさまにモンスター達の様子に変化が生じていた。野生に生きる者達にとって、強さこそが全てだ。言葉こそ話せなくとも、島中で連勝を重ね暴れに暴れた俺達を、彼らはそう認めてくれたのかもしれない。


「ま、そういう事。島のモンスターは俺達をグループとしてやばい奴らだと認識してるみたいだから、トマやリンが上陸してももう問題ないと思う。実は今回の探索だけで大体の場所は見回る事ができてさ。島の外周をぐるりと囲う天然の防壁はここならではだし、豊富な資源はこれ以上ないほどに魅力的。安全さえ確保できれば、ここの島は拠点にするのに最適な場所だったよ」

「拠点、ですか?」

「んーっと…… つまりどういう事だい、キャプテン?」


 揃って首を傾げる二人に、今日最高の笑顔を向けてやる。


「あの無人の島に、俺達の拠点を作ろう! 第2のダンジョンは、俺達の陸の住処だ!」

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