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第33話 砲弾の正体

 謎の幽霊船との海戦は混迷を極めた。モルクの私設艦隊がいくら大砲の弾をばら撒こうとも、霧奥からの正確無比な攻撃は一向に止まず、恐らくは幽霊船よりも一回りも二回りも大きいであろうガレオン船に、次々と大打撃が与えられていく。沈没までとはいかないものの、今や十三の船の中で無傷なのは、旗艦でありモルクとサズが乗る戦艦のみとなっていた。


「クッソがぁ! 当たれ、当たれってんだよ!」

「砲弾はあるか!? 敵はまだ健在だぞっ! さっき別の船が爆破されてたっ!」

「生憎それだけは潤沢だよ! モルク様が大金はたいて、『保管』機能のある倉庫を付けてくださったからな! それに関しちゃ心配する必要もねぇし、砲弾がなくなる事もねぇ!」

「なら、敵の攻撃が爆発する心配をするだけだなっ! 何で爆発するんだよっ!?」

「んな事俺が知るかっ! たまに爆発しない時もあるんだ! 運悪く火元か大砲の火薬にぶつかったんだろ!」


 十番艦であるこの船でもまた、幽霊船の砲撃による恐怖は伝染していた。辺り一帯は絶えず大砲の砲撃音が鳴り響き、或いは船の何れかが爆発する、そんな状態が続いている。いかに勇敢な船員達といえど、いつまでもこのような状況下にいては理性が麻痺してしまうというものだ。


「んあっ? おいおい、こんな時に何やってやがるんだ、あの船は!?」

「どうした!?」

「あれだよ、あの十一番艦! 艦隊陣形を崩して、こっちに寄って来やがる! つか、寄り過ぎだ! ぶつかるぞ!」

「うお、マジかよっ!?」

「おーい、邪魔だ馬鹿野郎! 大砲の射線まで遮ってやがる!」


 船体に十一の文字を刻んだガレオン船が、船員達の乗る船へと迫る。必死の叫びも空しく、船は進むべき道を変えようとしない。十一番艦は明らかに、そして強引に船の進路を変えており、もう船首が彼らの乗る船の横っ腹へと向いていた。


「おいおいおいおいっ! マジでぶつかる! 衝突するっ!」

「あの十一番艦、誰もいねぇぞ!? 連絡役は何してやがるっ!?」

「うわあ―――!?」


 次の瞬間、途轍もない衝撃が十番艦を襲った。二隻が衝突した事で船のフレームが弾け、壁という壁が破壊されていく。真横から突貫された十番艦だけでなく、不可解な行動を行った十一番艦も船首部が酷く破損するなど、双方が甚大な被害を被ってしまった。ただし衝突した船同士の当たり所が奇跡的に良かったのか、沈む兆しは今のところない。


「いっつつつ…… ど、どうなりやがった……?」


 つい先ほどまで砲撃を行っていた船員の一人が、体中から血を流しながら、上半身だけ起き上がらせる。衝突の際に大きく吹き飛ばされ、どこかの壁に叩き付けられたんだろうか。節々が酷く痛み、頭もぼんやりしていて回らない。ただ、そんな彼の頭に語り掛けるように、どこからか声が聞こえた気がした。


『待タセタナ、次ノ船ニ到着ダ。存分ニ食ラウガ良イ』


 それはつい最近に耳にした、耳障りな声だった。呟いているような、ぼやいているような、とにかく不快な声だ。船員はぼんやりと考える。この声をどこで聞いたんだったか。答えは喉元まで出かかっている。あと一押しで答えに辿り着けるというのに、相変わらず頭が働こうとしない。あれは、あれは―――


「……あ、あれはぁ!?」


 全身に負った怪我をも忘れて、船員はその場で大きく飛び起きた。突っ込んで来た十一番艦の船首部から、その答え自らがやって来たのだ。


『アア、運悪ク生キ残ッタ者達モ多イカ。仕方ガナイ、一噛ミデ仕留メロヨ?』

「ガァルルルルゥ……!」

「ガァウ!」


 ボロ布を纏ったあの格好、忘れもしない。実際のところは記憶が彼方に飛んでいたが、今になって鮮明に思い出す事ができた。あれは、この漆黒の海で出会った骸骨だ。放たれた砲弾によってボートごと吹き飛ばされたはずの骸骨は、さも当然のようにこちらの船へと飛び移る。彼(?)の足元には愛玩動物とは程遠い姿をした、骨のみで構成された狼が何匹もいた。中身は空洞のはずなのに、恐ろしい咆哮が出でる口から一緒にヨダレも垂らしている。


「嘘、だろ……?」


 そんな恐ろしい化け物達を目にした上で、更に恐ろしい光景が十一番艦の甲板に広がっていた。そこにいたであろう船の船員達が、夥しい血の池の中で無残な姿を晒していたのだ。意味不明な船の行動は、唐突に起こった訳じゃない。どこからか侵入したこの髑髏の化け物が、内部から皆殺しにして船の主導権を奪ったのだと、今更ながらに考えが及ぶ。


『サア、今一度狩リノ時間ダ。幾ラ食ッテモ腹ハ満タナイ。ナラバ食イ続ケルシカナイ。行ケ、進メ、食ラエ』

「ガァーウ!」


 脳に潜り込む骸骨の言葉を最後に、船員の視界は真っ赤に染まる。ここでもない遠くでも、砲撃の音とは別に悲鳴が上がっている。そんな気がしたが、もう彼には関係のない話だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おー…… 効果覿面だな、スカルさん弾」


 仲間同士だったはずの船がぶつかる様を見て、作戦の成功を確信する。どうなるものかハラハラしたもんだったけど、今回は俺が表に出る事もなかったし、奴隷船の時よりかはまだマシな心境かな。


「ゴブー」

「ん? 今回は出番がなくて悲しいって? いやいや、今回も大活躍だろ。お前らがいないと、この船を適切に動かせないんだぞ」

「ゴッブ!」

「そうそう、その意気その意気」


 甲板にて舵を回すゴブリンクルーを相手に、好き勝手に話を進める俺。もちろん、ゴブリンが何を言っているかなんて分からない。


「わぁ、船長さんはゴブリンさんとお話しもできるんですね。凄いです!」

「ま、まあ多少はね」


 同じくこの場所にて行動をするリンに、尊敬の眼差しをキラキラと向けられてしまう。うう、見え透いた見栄を張ってしまった……


「それにしても、本当にこのお船だけで勝てちゃいそうで、とってもビックリです。敵さんからの攻撃はすいすい避けちゃうし、私達の大砲はばんばん当たります!」

「どっちもリンやトマのお蔭なんだけどな。思った通り、リン達は凄まじく優秀なんだぞ?」

「そ、そうですか? えへへ」


 実際そうなんだもん、褒めるのは仕方のない事だ。今回の海戦、その主役は攻撃のトマ、護りのリンといった役どころを二人は担っていた。作戦の中身も含めて、その辺を説明していこう。


 まずは防御面、担当は俺、リン、船を動かすゴブリンクルー達だ。とは言え、俺は準備さえしてしまえばその役目を終えてしまう役立たずみたいなもんで、主役はあくまでも残りの皆である。


 今回用意したのは、追加となるダンジョン装備『局地的な強風(3000DP)』、『カラーリング変更(3000DP)』『ダンジョン周辺オブジェクト捕捉(5000DP)』、『濃霧(8000DP)』の計19000DP。目玉が飛び出す勢いの買い物だったが、そこはこの日の為に漁業で稼いだDPを充てる事で確保した。


 まあ費用はかかったものの、結果としてこの通り、護りは万全のものとなった。局地的な強風は一部にだけ風を巻き起こすもので、場所や方向を指定する事で自在に風を操作する事が可能に。俺はこの装備を、船の進む方向に対して追い風となるように設定した。更にリンの水魔法を使えば、潮の流れも思いのままだ。リンとゴブリンクルーの連携は見事なもので、砲弾の嵐だって何のその。敵の攻撃を見てから避けられる、尋常でない船の速度を実現させてくれた。


 念には念をと駄目押しで購入した、他のダンジョン装備も素晴らしい。影響する船の周囲一帯は濃霧が発生しているし、カラーリング変更で船と海の色も黒色で統一。要は遠くまで見えないし、仮に視界が開けたとしても、この船と海の配色が被っちゃって、普通に発見するのも一苦労な仕上がりとなっている。万が一に発見されてもビュンと移動してやれば、また船は濃霧の中に。再び奴らは俺達を見失うという寸法だ。


 次に攻撃面、こちらの担当はクリスとトマ、ここでもゴブリンクルー達が数体、そして新顔の『スカルシーウルフ』である。


 ショップで購入した鉄球(40DP)という名の砲弾をゴブリンクルーに装備させ、彼らを大砲の装填役に任命。更にここからが釣りの際に判明した、釣り餌が減らない現象の応用だ。ゴブリン達が装備させた砲弾を装填しても、使った後にまた弾が補充される仕組みとなっている。恐らく、鉄球も消耗品と同じ扱いにされたんだろうな。これにより弾を新たに購入する必要がなく、弾切れの心配から脱したという訳だ。うん、漁業の経験が活きてるね!


 そしてそして、装填した砲弾を撃ち出す前にもう一工夫。クリスの炎魔法で撃ち出す鉄球に細工して、標的に接触した際に爆発を起こすものに改変させた。運動エネルギーの塊でしかなかったただの鉄球も、高性能な爆薬を投下するのと同義となり、破壊力も桁外れに向上。低コストで最大限の威力が得られる、予算に優しい攻撃方法の誕生だ。大砲を撃ち出す砲撃手は、もちろん『狙撃』のスキルを持つトマ。今のところ全弾命中と、正直信じられない活躍を見せている。濃霧で視界が閉ざされようと、こちらには敵船の位置を確認できるオブジェクト捕捉機能がある。効果範囲内にダンジョンと関係のないものがあれば、それらが淡く点滅して丸分かりなのだ。


 で、最後にスカルシーウルフ、通称スカルさんについてだが…… この海域に幽霊船が出るというトンケから聞いた噂を利用して、敵の動揺を誘う引き金となってもらった。見た目が怖いし、人語をある程度話せ、持ち得るスキルも最適と本当に適役な彼であるが、スカルさんが誕生したのは本当にたまたまだった。この件については後で語るとしよう。ボートに乗って挨拶をし、正当防衛になるよう交渉してくれたのも当然彼だ。敵さんからしてみれば、ボートが粉砕された際にスカルさんも倒したように見えただろうが、実際はその直前に召喚を解除して待機モードにさせたので、無傷のまま帰還している。


「スカルさんも大活躍です!」

「上手くいって良かったよ、割と真面目に……」


 スカルさんは『死者の復活』というスキルを有しており、HPがなくなってもしばらくすれば復活してしまう体質だ。手っ取り早く敵船に殴り込みをかける手段として、アークが大砲でスカルさんをぶっ放す方法を考えた時はどうなるもんかと思ったけど、予定通り復活できたようでひと安心。しかし、仲間を大砲の弾代わりにするのはちょっと、なあ? 散弾の如く敵船に命中した時は、思わずスカルさーん! と叫びそうになってしまった。まあ、結果として不意打ち突貫&敵船内で配下のボーンウルフを召喚するという、ある種の無双っぷりを見せてくれた訳だけど。


「後はアークの働き次第だな。無事に辿り着ければ良いんだが……」

「きっと大丈夫だと思います。アークさん、すっごく強いから!」


 いやー、俺が心配しているのは、アークが暴走しないかどうかの方なんだけどねー。

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