逆ハーレムをすると分かって放置するわけありませんわ!
初投稿です。
色々とおかしい部分はお許しください。
異世界転生/転移ジャンルにて日間ランキング26位ありがとうございます!
続編はこちら
https://ncode.syosetu.com/n3940ft/
「セシリア・サイトス!この場を持って貴様との婚約を破棄する!」
今日は十五歳から三年間貴族の子息達が所属する学園の卒業式。
声高に叫んでいるのはこの国の第一王子であるオーギュスト殿下です。
殿下の上着を握りしめて男爵令嬢のアリエッタが涙をためてこちらの様子をちらちら見ているけれどどう見ても演技よね。
その周りに将来有望でしかも婚約者がいる殿方達が彼女を慰めるように囁いていますわ。
遂にこの時が来たのね。
何せわたくしは悪役令嬢。
なーんにも悪役っぽい事なんてしてないのにね!
あら皆様、ごきげんよう。
ご挨拶が遅れましたわ。
わたくし、イグニア国の筆頭貴族であるサイトス公爵の長女のセシリアと申します。
もうお気づきでしょうが、わたくし転生者ですわ。
一年の秋に突然転入してきたアリエッタ・サイモンを見て思い出しましたのよ。ピンクブロンドの髪に大粒のエメラルドの様な瞳。なんていうかヒロインっぽいわね、と呟いてしまったのです。
そして前世の記憶が戻ったのですわ。
ここが所謂実際の乙女ゲー厶かどうかは知りませんが、よく悪役令嬢が主人公のざまぁ系の小説を読んでましたからなんとなく気付きましたの。
まあ確証もありませんでしたし、たまたま似通った環境だけかもしれませんし、ともあれまだ何も行動していないヒロインに敵対心を向けるわけにも行きませんから様子見をしておりました。
よくあるパターンですと王太子殿下が恋愛対象でしょうか。そしてわたくしが恋路を邪魔する悪役令嬢ってところでしょう。
王道どころで殿下一本で進まれるのなら、わたくしきちんと引導を渡そうかと心積もりしておりましたので。
もしくはそれ以外の方一人に絞られるのでしたら助力も惜しまないつもりでしたわ。
ですが…その良心をズタズタに切り裂かれました。
もう、おわかりでしょう?
彼女、アリエッタは逆ハーを目指して一直線でした。
二年の進級時にはもう有力な高位貴族の子息達がこぞって彼女に愛を囁くようになっていきました。
この取り巻きの筆頭が殿下でしたので乾いた笑いしか正直出てきませんでしたわ。
なんてちょろいのだろうと。
しかしこうまでの手練、やはりこれは筋書きのある乙女ゲー厶なのでしょうか?
精力的にイベントをこなしたのでしょうね、素晴らしい行動力だわと彼女を尊敬しましたもの。
わたくし達と同じ学年に第一王子である殿下、騎士団長のご嫡男、宰相閣下のご嫡男、一つ下の学年に魔術師長のご嫡男がいる今の学園は次世代を担う人材が固まっておりました。その四人を次から次へと彼女の虜にした手腕は息を巻く程ですわ。
そうそう、わたくしに入ってくる情報ではアリエッタは殿下以外にはもう身体の関係を持っているそうです。なんてビッチなヒロインです事!しかも周りに囲ってる殿方達は皆様婚約者がいらっしゃったはずですがね?
「これまでのアリエッタに対する悪の所業!お前のような高位貴族で有る事を鼻にかけアリエッタを苛める性悪な女が王妃に相応しいはずがない!」
うっわー!テンプレだわ!
「…わたくしがやったと証拠はありますの?」
「証拠など!ドレスを破り、教科書を破り捨てり様々な嫌がらせをしただろう!私が事情を聞いてやっと話してくれたアリエッタの証言が何よりだ!」
それ全部彼女を気に食わない同等の爵位持ちの令嬢達の仕業ですわよ。
「でしたらわたくしがやったという証拠を提出してくれます?」
「性格も悪ければ頭も悪い女だな!アリエッタがお前がやったと言っている!」
「証拠は何もないのですね」
はあっと嘆息をついて扇子で口元を覆う。
「しらばっくれるな!王妃という立場に固執し、私の心を癒やして側にいたアリエッタに嫉妬しての行動だろうが!しかも三日前にアリエッタを階段から突き落としただろうが!」
「セシリア様っ!もうやめてくれませんか?こんな事したって貴女が傷つくだけだわ!私は貴女の事を恨みたくないの…」
殿下の上着を更に握りしめてか弱いけど健気に頑張る私アピールですか?
わたくしを許すとか言いつつちゃっかり罪を被せようとしてますわね。
「アリエッタ…怪我を負ったと言うのになんと優しいんだ。私はこの天使のようなアリエッタによって真実の愛の素晴らしさに気付いたのだ!よって私はアリエッタと新たに婚約する事にする!」
「嬉しい!やっと愛し合う私達が結ばれるのね!」
取巻き達は苦虫を噛み潰した様な顔してますわ。一応殿下を立てたものの未練たっぷりでしょうねえ。結婚後も身体の関係を続けるのかと思うと滑稽ですわ。
「父上!どうか私とアリエッタの婚約を認めて下さい!」
壇上に居る陛下に向かってよく通る声で婚約を嘆願します。
「……認めるには条件があるがそれでも構わないな?」
「もちろんです!アリエッタとの婚約が出来ればどの様な条件でも飲みましょう!!」
「お前の覚悟はわかった。婚約を認めよう」
しっぶーいため息をされてなんとか声に出す陛下の眉間に深い皺が見えましてよ。
了承を得て手と手を取り合い見つめ合う二人にわたくしは冷めた視線を送ります。
そしてアリエッタがこちらを見てほくそ笑むのをばっちりと目撃しました。小さく口で『ざまあ』と動いたのは気のせいではありませんね。
では、そろそろ反撃と行きますかね。
「あら婚約おめでとうございます。殿下、何を勘違いされてるのか知りませんが殿下とわたくしは二年前に既に婚約解消されてましてよ?」
「は?」
「ですからわたくしが彼女に嫌がらせをする理由がありません」
きっぱりと否定しますが、理解できていないのかしら?お二人とも開いたお口が閉じてませんわよ?
「だがお前は私の事好いていたのだろう?」
「婚約者だった立場としての最低限ですが。それに…」
彼女が逆ハーまっしぐらだとわかってなにも指咥えて見てるだけのはずがありませんわ!
そうです、逆ハーで来るならこっちも逆ハーで対抗すればよいのですわ。
アリエッタ嬢の取り巻きよりも顔も地位も格別に良い方を侍ればよろしいのではなくって?
既に手は打ってあります。
ここぞとばかりにわたくしの周りに五人の殿方が集まって顎やら髪やらを愛しげに触れてきます。
騒動を見守っていた令嬢達がこぞって黄色い声を上げてますわ。それもそのはずこの方々は、現国王陛下の年の離れた弟君、前皇太子の嫡男、第二王子、双子の第三、第四王子と見目の麗しい王族ばかりですから!それもまだ皆様正式な婚約者はおりませんし。
「わたくしこの五人に愛を囁かれていて困ってますの」
にっこりと笑みを浮かべ、逆ハーヒロイン気取りのアリエッタを見ると青白い顔をして何か呟いている。殿下の方は逆に赤黒い顔をしてますわね。
「そんな…あの人達は続編の…なんであんなに女なんかに」
「揃いも揃って尊き王族がこのような女にうつつを抜かすなど!」
なーんて、本当にこの五人を骨抜きにしたらわたくしあのアリエッタ嬢と変わらない悪女ですわ。
実は婚約解消の話を持っていった際、十年ほど前に隣国でも庶民の娘に誑かされて婚約破棄した第一王子がいたそうで!
転生者がゴロゴロ溢れているんでしょうか?しかも逆ハー物ヒロインばかりとは、世間って狭いのですわね。
ちょうどその時に留学されていた王弟殿下は『ひどい茶番だった』という婚約破棄を目の当たりにし、今回の騒動を事前に予測しておりましたの。
その際にこのような大衆の面前で婚約破棄をやらかさすならばと対策は練りましてよ。
隣国は庶民が王妃になり贅を尽くし、また上層部の権力者と情事に耽り、内政が滞り徐々に国として機能しなくなったところを虎視眈々と狙う国によって略奪され今はもう地図に名前は載っておりません。
哀れな結末ですわ。
隣国の二の舞を踏むのは御免被ると言う事で、国王陛下ももちろん一枚噛んでおります。
「そんな人を囲むだなんて…まさかっ!…弱みでも握られてるの!?そうなのね!?」
「なんと性悪な女だ!こんなのが私の婚約者だったのかっ!」
ですから元ですって。既に婚約者ではありませんって言いませんでした?
それにしても脳内お花畑ですわねー!
ヒロインちゃんの思考回路大丈夫かしら?これもれなく殿下にも伝染してますわよね?
「大丈夫よ!皆はあたしが助けてあげるわ!」
「そうだとも!今すぐその女をこちらに突き出せば私も許してやろう!」
あら、やっぱりこの五人もヒロインちゃんのセンサーに引っかかりましたか。
さすがあばずれですわね。
そこに第二王子のユリウス様がしっかりとわたくしの腰を抱いての前に出ます。
「誰に向かって口を聞いているんだ?」
普段無表情の方の冷笑ってとても怖いんですのよ。とてもじゃないですが、目を合わせられませんわ。
「貴様こそ何を言っているんだ!私はこの国の第一王子であり次の国王だぞ!」
「あたしはオーギュストと結婚したら王妃様?わぁ素敵!」
状況を読む能力もないのかしら…一々口を挟まれると軽く殺意がわきますわね。
「…条件を先に聞いておけばよかったよね」
こちらは前皇太子の嫡男のアーネスト様です。キラキラスマイルを振りまいてこちらもとてもじゃないけど目を合わせられません。
ユリウス様とは反対側からわたくしの肩を親しげに引き寄せます。
「婚約の条件とは、君の廃嫡とアリエッタ嬢との婚約破棄および離婚を認めない事だよ」
にっこりと悩殺スマイルでばっさり切り捨てます。
「これで君達は念願の婚約のおかげで市井に出て墓場まで一直線だよ」
よかったね、と言外に醸し出しておりますわ。
「なにを!何故この私が廃嫡など!そんな事になったら困るのはこの国の方だろう!!」
ずっと叫んでますわ、血管きれますわよ。
「いやー、そんな事ないと思うよ?」
「私情に走って一方の意見しか聞かない様な」
「「愚か者だし」」
双子の第三、第四王子はわたくしの手をそれぞれにとり手の甲に口づけを落とします。声を揃えて小馬鹿にされたのが癪に障ったのか、殿下は声にならない程怒髪天の様です。
「ところで君のような男爵令嬢は皆同じ考えなのかな?
婚約者の居る王族を誑かし婚約者のいる高位貴族との不義密通、そして婚約者だった令嬢に罪を擦り付け自分がその立ち位置に居座る。実に浅はかだ」
最後に王弟殿下のフィリップ様がわたくしの後ろからあごを掬うように両手でもちお互いの頬が触れるようにして登場ですわ。
皆さんやたらと接触多くありませんか??
演技だと分かっていても心臓に悪いですわ。
「擦り付けるって何よ!私は本当にこのセシリアに殺されそうになったのよ!」
甲高い声でキャンキャンよく吠えますわー!
罪を擦り付けられると知って無策で挑むわけがございませんわよ。
魔力を込めた水晶で音声映像と記録できる魔法器具がありますの。
「こういった冤罪も過去にはあってね、校内に記録水晶が配置されているのはご存じかな?証拠の提出には応じよう。やましい事がなければ」
「この純真無垢なアリエッタにやましいことなどあるものか!そうだろう?アリエッタ?」
そこの元殿下、隣ご覧なさいな。
顔真っ青で身体震えてますわよ。
「いやっ…そんなの聞いてないわっ!!何で!?これで上手く行くはずだったのよ!!」
そうして自らの立場が不利になったと知ったアリエッタは全ては自作自演だと認めたのです。
頭を項垂れて近衛兵にアリエッタとオーギュスト元殿下は連れていかれました。残りの三人(そういえばいたんでしたね、すっかり忘れておりました)はバツの悪そうな顔でそそくさと会場から出ていきましたわ。
「やれやれ。やっと頭痛の種がなくなりましたわ。皆様、ご協力ありがとうございました」
打ち合わせ済みとは言え巻き込んでしまった彼らにお礼をしようと動きだそうとするが、何故か彼らはわたくしから離れません。
「あの…もうお芝居はしなくて結構ですよ?」
「何を言う。やっと貴女に求婚できるというのに!」
「僕達が芝居に付き合ったのはさー」
「片付いたら僕達の中から」
「「セシリア様の婚約者になる権利がもらえるからだよ!」」
何それ聞いてませんわ。
「オーギュストと婚約する以前から私達は貴女の虜なのですよ。」
「どうか私達に貴女に触れる光栄を与えて下さい。」
五人から矢継ぎ早に愛を囁かれても困りますわ!お芝居だと分かっていたからこそどんな言葉でも動揺せずに居られたというのに…!
美形に囲まれてその五人がわたくしを取り合うだなんて…
こんなのもう手に負えませんわよ!
誤字報告ありがとうございました!
評価、ブックマークありがとうございます!