勝手に追い出しておいて、勝手に呼び戻そうとするな
一時間弱で書いた短編です。
なんとなく、で書いたので、少し穴だらけかもしれません。
「やなこった。帰れ」
目の前にいる三人の元級友に、俺はすっぱりとそう伝えた。
この世界、ルミタリシアにクラスメイト達と一緒に勇者として召喚された俺だったが、与えられたのは「ゆうしゃ」という、「勇者」とはまた異なるギフトであり、ステータスも新米騎士のそれとほぼ同じということから、演習ということで初めて潜ったダンジョンで体よく捨てられてしまった。
どうにかダンジョンから帰還して以来、冒険者として生計を立てていたのだが、クエストで大けがをしてしまい、一緒にパーティを組んでいた仲間たちとともに、近くにあった村で療養していた。
傷もすっかり治って、村人たちともいい関係を築けただけでなく、パーティメンバーの二人が村の住人と結婚することになると、俺たちはこの村を拠点にして活動することになった。
普段は近くの森で狩りをしたり、薬草や果物を採取して薬を作り、町の薬品店に売りに行ったり、時々、クエストを受けに行ったりして過ごすようになった。
だが、ここ最近になって、魔族との戦いが激化し、呼び出した勇者たちも重傷を負うような戦いが増えてきた。
そこで、さらなる戦力増強を図ろうと、勇者と賢者がこの村に滞在しているという噂を聞きつけ、こうしてやってきた、ということらしい。
その勇者と賢者というのが。
「頼む、黒川!」
「お前にしたことは謝罪する!!だから、俺たちを助けてくれ!!」
「嫌なものは嫌だ」
「お、おま……それでも勇者かよ!!」
「てか、賢者でもあるんだろ?!だったら俺たち勇者に協力してくれよ!!」
そう、こいつらが言ってるように、勇者と賢者というのは俺こと黒川隼人のことだ。
なぜ、その二つの称号で呼ばれているのか。それは「ゆうしゃ」というギフトに秘密があった。
追放されて少ししてから知ったことなのだが、どうやら、この世界のギフトには「同音異義」が盛り込まれた、非常に珍しいギフトが存在するらしい。
たとえば「剣聖」と「拳聖」は意味こそ違うが、音だけ見ればどちらも「けんせい」だ。
仮に、誰かがこの「けんせい」のギフトを与えられたとしよう。
最初こそ、「剣聖」なのか「拳聖」なのか、はたまた「賢聖」なのかわからず、困惑するだろうが、訓練と経験さえ積めば、それら全てになることができるのだ。
まぁいわば、同じ読み方をする複数の称号を得て、それにふさわしいスキルを得ることができるギフト、ということになるらしい。
そしてそれは、俺に与えられた「ゆうしゃ」というギフトも同じだ。
俺の場合は「勇者」のほかに、「優れたる者」あるいは「優しき者」という意味の「優者」、「憂う者」という意味の「憂者」、三つの称号が与えられている。
そのため、勇者としての戦闘力や魔力だけでなく、魔法に対する賢者並みの応用力と展開力、聖職者や医者とほぼ同レベルの治療魔法、魔物が懐くほどの包容力とカリスマ、これから起こりうるありとあらゆる可能性を推察してそれに対する対抗策を編み出す知力を得ることができた。
もっとも、俺自身もそれに気づくのに、一年という時間を有してしまったが。
それはどうでもいい。
問題は、目の前にいるこいつらだ。
「なぁ、頼む!国王に直訴して、もう一度王城に戻れるように説得するから!!」
「それに俺たち以上の待遇をさせるようにも頼んでやる!」
「も、もし望むのなら、わたしたちだって、あなたと付き合ってあげるし、こ……婚約だってしてあげる!」
「だからお願い!わたしたちに力を貸して!!」
色々あれこれと都合のいいこと言ってるけど、こいつらの、というか国王の魂胆は分かってる。
要するに、勇者並みの戦闘力と賢者並みの知力、聖職者並みの治療魔法を一人で全て持っている俺を抱え込んで傀儡にしたいんだ。
でなきゃ、用が済んだらありもしない罪を着せて極刑にする、とか。
どっちにしたって、こいつらの要望を飲んだとしても、俺にとっていい結果にならないことは明らかだ。
だから、こいつらに突きつける返答はただひとつ。
「悪いが、勇者たちにも国王にも力を貸すことはしない」
あれだけ必死に頼んでいるのに、まだわかってくれないのか。
そんなことをいいたそうな顔で見てくるこいつらに、俺は追撃した。
「だいたい、見捨てておいていまさら仲間面か?ずいぶん都合がいいな、おい」
「なっ!……あ、あれは……」
「気付かなかった、とは言わせねぇ。第一、帰還したときに人数が足りないことくらいわかってただろ」
「わ、わかっていたけど、もう死んだと言われて……」
「言われて、ねぇ……だとしても、なんで捜索してくれなかったのやら。捜索に出る言い訳なんか、いくらでも考えられただろうが」
唯一、委員長と先生だけは捜索するよう、訓練の教官を務めていた隊長に直接掛け合ってくれたらしいけど、なんでその二人だけだったのやら。
面倒くさがったのか、自分の命が惜しかったのか。それとも単に俺が邪魔だったからなのか。
まぁ、いまとなっちゃどうでもいいことだけど。
ちなみに、俺を探してくれていた二人だけど、先生はいつだったか依頼で訪れた辺境の教会で、村に住む子供たちに文字や計算を教えている姿をみたことがある。
国王か、それとも宰相かはわからないが、国に反発して追い出されたのかね?
今この場にはいない委員長は、ほかのクラスメイトたちと遠征に出ているときに、滞在していた町で偶然再会して、そのまま彼女だけ一緒に行動すると言ってついてきた。
それ以来パーティメンバーの一人として一緒に行動しているだけでなく、現在、恋人同士の関係になっていて、婚約もしている。
二人は、俺を本気で心配してくれていて、捜索するよう頼んだのだが断られ続けていたことを正直に話してくれた上に、助けることができなかったことを謝罪してきた。
だからというわけじゃないけど、この二人に関しては許している。
だが、他の連中、特に国王は絶対に許さねぇし、頼みも聞いてやるつもりはない。
だから、こいつらに突きつける答えはただひとつ。
「帰れ。そして俺に……この村に二度と来るんじゃない」
静かにそう告げて、魔力を体にまとわせて臨戦態勢に入ると、さすがに連中も諦めて転移魔法で立ち去って行った。
それを見届けた俺は、念のため、結界魔法で障壁を作ってから、委員長と仲間たちが待っている屋敷へと戻っていった。
-------------
その後、町では、アスリア国は魔族との戦いで痛手を被り、召喚した勇者たちの奮闘も虚しく、領土の半分近くを侵略されたらしい、という話がささやかれるようになっていた。
さらに、冒険者ギルドでささやかれていることなのだが、召喚された勇者たちと国の間に亀裂が生じていて、必要最低限の防衛以外は何も行ってくれていないのだとか。
まぁ、俺には関係ないことだ。
何せ、勝手に呼び出しておいたくせに勝手に捨てて、さらに勝手に呼び戻そうとしていた連中だ。
そんな連中のわがままに付き合ってやるつもりは毛頭ない。
余談だが、数年後。
アスリア国は魔王に降伏した。
そのため、冬の時代を迎えるかと思いきや、魔王は人間も魔族も平等に扱っており、無理やり奴隷にするようなことはなかった。
まぁ、けじめとして、国王と宰相、軍部司令官などの重役は監禁されているが、召喚された勇者たちは特に何もされることはなく、むしろその能力に適した部署に配属されることとなり、以前より生き生きと生活しているのだとか。
ちなみに、俺と委員長―-妻は、二人の子宝に恵まれ、畑を耕したり、薬を作ったり、時々、狩りをしたり、旅行と称してクエストのために少し遠くへ旅に出たりして、今ものんびりと暮らしている。
「黒川隼人」
主人公、高校二年生。クラスメイトと一緒に異世界にあるアスリア国に召喚された。
ギフトが謎であったことと、ステータスが新米騎士と対して変わらないことで、演習で潜ったダンジョンに置いて行かれ、国から見捨てられた。
与えられたギフトは勇者と賢者、聖者、さらには魔物使いを兼ねることができる非常に珍しいギフトだったのだが、本人がそれに気づいたのは冒険者として行動するようになって一年という時間が経ってからだった。
最初こそ、探しに来てくれなかった国とクラスメイトのことを恨んでいたが、そのうちどうでもよくなり、積極的に手出しするつもりはないが協力するつもりもないという態度をとるようになった。
再会した委員長と先生からは謝罪され、ひとまず、二人のことは例外としている。
なお、委員長とは再会してからパーティメンバーとなり、恋仲にまで発展した。
<ギフト>
『ゆうしゃ』
「ゆうしゃ」と読めるすべての存在になることができる可能性を約束されたギフト。
その力が発現する時は、その称号を得た時となる。
※一例
・勇者=読んで字のごとく、勇ましき者。聖剣に認められる資格保有や歴史上、勇者しか扱うことができない魔法を操ることが可能。
・優者=優れたる者。学術、魔術、体術など、すべての面において優れた能力を得ることができる。または、優しき者。治癒魔法を扱うことが出来たり、動物や魔物、果ては精霊に懐かれやすくなる体質になる。
・憂者=憂う者。様々な可能性を考慮し、備えなけれえば気が済まなくなる性質となる。
「委員長」
ヒロイン、高校二年生。隼人と同じく、アスリア国に呼ばれた勇者。
聖女のギフトを授かり、強力な治癒魔法を操ることができる。
担任を除き、クラスの中で唯一、ダンジョンから戻ってこなかった隼人を気に掛け、捜索隊を編成するよう何度も掛け合ったが相手にされず、アスリア国に対して不信感を抱いていた。
仲間とともに向かった遠征先で冒険者として活躍していた隼人と再会し、放っておけないからと言って、隼人についていくことを決めた。
「アスリア国王」
アスリア国に隼人たちを召喚することを決定した男。
暴君というわけでも傲慢というわけでもない。むしろ、民を思いやることを忘れない善王。
召喚した勇者に関しては逐一、報告を受けていたが、宰相の悪意に気付かず、貴重な人材をのがしてしまう。
実は隼人に与えられたギフトが無限の可能性を持つギフトであることを知っていた。そのため、ダンジョンで死亡したことを知り、大きなショックを受けていた。
そのことを隼人は知らないし、国王も知らせるつもりはなかった。
「宰相」
国王に仕える貴族。
出世欲と野心の強い人間でもあり、最終的に貴族内での自分の地位を絶対的なものにしようと画策し、召喚された勇者と聖女を養子にし、王女または王子と婚約させることで摂政となることを狙っていた。
隼人の捜索隊編成を邪魔した張本人。