境界
8月30日。
学生の身分である僕は、夏休みの終わりに怯えながら大量の宿題を消化していた。
こう言うと、まるで僕が夏休みが終わるギリギリまで遊び呆けている人間であると思われそうだが、断じてそうではない。
むしろ、1日の負担が最小になるよう計画を綿密に立ててこなしていく賢い人間であると自負している。
ではなぜ、そんな僕が大量の宿題に追われているのか、その理由は単純明快でありながら複雑怪奇であると言えよう。
つまり、詳細に語るならばそこには非常にドラマチックで壮大な物語があるのだが、しかし端折ろうと思えばその説明はたった一言で済んでしまう。
あまり長たらしく語るのは僕の性分ではないので簡潔に述べよう。
「いじめ」だ。
正直僕自身の宿題はすでに全て消化済みなのである。
今僕が必死になって終わらせているのは、僕に押し付けてきたクラスメイトの分だ。
その数なんと29人分。僕のクラスは全部で30人いるので、クラスメイトが1人の例外もなく何故か僕をいじめの標的としていることになる。
何故かと言いつつも原因は理解している。
納得はしていないが、理解はできる。
言ってしまえば生贄である。
共通の敵が1人いれば、その他大勢は団結することができるのだ。
きっかけは些細なことだった。
高校生活1年目。おそらく大半の生徒が、大きな不安とほんの少しの希望を抱いて入学式に臨んだことだろう。
クラスの発表があり、これから1年間切磋琢磨していく仲間との顔合わせ。
慣れない環境で知らない顔ばかりで緊張しつつも、各々共通項を必死で探してグループを作っていく。
4月も終わろうかと言う頃、ほとんど全てのメンバーがどこかしらのグループに所属している中、僕だけが1人だった。
それだけだった。
それだけだがどこのグループにも属さないということは、それだけで標的になる理由としては、十分過ぎるほどに十分なのだ。
かくして、僕を除く29人が素晴らしい団結力を持ったクラスが完成したのである。




