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「The first step is always the hardest.(最初の一歩がいつでも一番難しい)」

 えっと、一応、説明。

 わたし達の住んでるこの世界には、大昔、つっても、江戸時代の終わりころ。

 ――地球がもう一個、落っこちてきた。

 比喩じゃなく。文字どおりの意味で。

 もう我が国も外国も、大混乱

 ――そう、大混乱、その程度で済んだ。

 人類は絶滅しなかった。

 落っこちてきた地球は世界を滅ぼさず。

 気が付いた時には混じり合って存在していた。

 そして、歴史の教科書に「大融合(MEGA FUSION)」として記載されるその出来事以来一定の頻度で生まれてくるようになった奇跡の使い手が。

 わたし達、魔法つかいである。

 はい、空飛んだり、ビームとか撃ったり、自動車持ち上げたり、新幹線追い抜いたりいたします。


 昭和生まれのわたしたち辺りでは、もう割と当たり前になっていて、素養がある。というだけなら結構の頻度で存在するし、適切な指導を受ければそれを伸ばすことができる。

 一定数「そういうひと」が存在している以上、片っ端から火あぶりにしててもしょうがないし。折り合い浸けていかなくちゃでしょ

 適切に、どんな力を持っているひとが、どこに、何人いるのか把握しないとおちおち夜も眠れないしさ。

 ただし、その辺に魔法つかいがウロウロしてるかというとまた別問題。

 きちんと正規の基礎教養課程を修了し、その上で専門的な概論総論を履修して単位をもらい、最終的に試験をパスすることで「魔法使用者」資格を取得することができます。

 ただし、そのままでは、「魔法が使える」というだけの人である。

 絵が上手に描ける人、歌が上手に歌える人全員が漫画家や歌手でプロデビューするわけじゃない。

 玉蹴りがうまい人全員がJリーガーになるわけじゃないって例えの方が近いだろうか。


 例・「わたしは魔法つかい○○、愛と正義のために(市民の健康と財産のために etc.)魔法を使います」

 と理念を謳って、

「魔法少女誰それ、がんばります!」

 といって魔法少女を稼業として本職として始めるためには。

 前述の試験に合格した上で、行政の認可を受けた自治体、団体に雇用される必要があります。

 その業務の範囲内と認められた場合のみ、魔法を使うことが許可されます。

 それ以外で、私利私欲で魔法を使ったら、正当防衛とかの特例を除いてお縄になります。

 お縄になります。

 世知辛い?

 そういうもんなんだよ。


 さて、わたしは涼城睦月、29歳。

 魔法少女である。

 いや、正直に言おう。

 ……現在就職活動中の、魔法少女志望のフリーターである。

 子供のころから正義のヒロインに憧れていました。

 石を投げれば当たるくらいの確率で存在する「魔法適性保持者」だったわたしは、一念発起し。見事、高校一年生で魔法使用許可証を取得!

 以降、外資系広告代理店の専属魔法つかいとしてトップで採用され、

 数々の大事件を解決し、市民からも愛され、名だたるセレブとも交流し、栄光のステップを上り、…いて!

 ちょっとなにするんですか痛いじゃないですか。

 …え? まじめにやれ? 嘘をつくな?

 わかりましたよ!

 いやすまない、今少し、ほんの少し、ちょっぴりだけお話を盛ったんだ。

 これはけして悪意ではない。

 ただ、そうなっていれば、わたしはいま、こんなことを滔々と語ってはいない。


 わたしは確かに中学卒業後すぐに魔法使用者試験をパスし、免許を取った。

 ただ、公認魔法少女はやっぱり狭き門。

 まずは「県庁」ですがここはもう数年前から絶対王者が君臨しており、入れ替わりや新規採用はなさそうだし、

 さんざん苦労し、セクハラかましてくる面接官の背骨をへし折ったろかという憤怒を必死にこらえながら下げたくもない頭を下げてなったのが、親父のコネを頼って辛うじて採用された、企業所属のガードマン。

 保険に加入した人だけ守ってあげます!

 が、それも先月末まで!

 不景気による事業縮小のあおりを受けて、警備安全保障部門からは親会社が撤退。

 挙句の果てに、威張り腐ってた天下りの役員の汚職が発覚。

 しかも収賄、贈賄、粉飾決算、女性社員とのみだらな関係、パワハラで下請けを自殺に追い込むの5冠制覇。

 今からでも、あの人間の屑どもを木の枝から逆さづりか革袋詰めにして棒で突きたい。 

 ――そうしてわたしは、「元」公認魔法少女のフリーターになった。

 ただ解雇されたならまだしも、何かね、悪いイメージまで付いちゃったしさ。

 応援してくれてた幼稚園児たちからの

「どうしてわるいひとたちをたすけるの?」

 って言う声はとても辛かった。


 また、魔法少女は人気商売でもありまして、四六時中世間の皆様からの厳しいチェックが入ります。

 恋愛はご法度。うっかりネットで失言でもしようもんなら即炎上。

 くわえて今日日は本人のルックスまである程度重視されます。

 ちゃんと人助けしてるんだからいいじゃねーか。

 誰が得するのか判りませんが、わたしのいる県には現在わたし含め7つの魔法少女ユニットが営業してまして、週末ごとにその人気ランキングと支持率の増減が発表されます。

 まー、1位2位3位辺りまでは確かにこの世のものとも思われぬ絶世の美少女です。

 何度かお近づきにもなったけど、間近で見ると同性のわたしでももやもやしちゃう、神話クラスのキレイどころです。

 ただまあそういう人たちはそういう人たちで苦労があるみたいで、理解を得るためにということで、水着姿でにっこりグラビア撮影、写真集やCDを出してみたり、親会社や自治体のイベントでは市民と握手会。

 あれだけすごい人でもまだグラビアやんなきゃ食べてけないのかーとこっちが気の毒になったりもするのですけども。

 ――ちなみに現在公認のお仕事がないシングルユニットであるわたしの現在の人気は、7人中、5位と6位を行ったり来たりしています。

 人道的見地から、災害発生時とか特定大型危険生物発生時とかは急きょ駆り出されて、臨時雇用ということで使ってもらえるので、そこそこ人前に出る機会はあるんだけどなー。

 公認でやってた頃は親会社の御達しで、カードやフィギュア出したり、スーパーの屋上で踊ったり歌ったりもしてみたんですが、売れ行きはまあイマイチでした。

 公認のお仕事がない現在も、ランキングに名前のっけてもらってるだけでも、ありがたいのかもしれません。


 いつか純粋に魔法少女で、実力でビッグになってやるんだもんね。

 弟の渋い顔を横目で眺め、グッズ在庫の山を半笑いで見ている友人を石もて追い払いながらそう思い続け、苦節10ン年。


 ――魔法少女のお仕事、探してます。

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