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逢魔、討つ  作者: 風船
一振り目 七善刀・忍
7/23

その陸

 

 作戦を話し合い、雪ちゃんを家に送り届ける頃には、辺りは夕暮れ色に染まっていた。

 もうじき、夜が来る。


「送ってくれてありがとう」


「ううん。負けないでね、雪ちゃん」


 雪ちゃんは心細そうに笑って、家に入っていった。



 私も頑張らなくちゃ。

 雪ちゃんの為に。そして、父の為に。



 私は人気のない通りを歩いて行った。


 それにしたって誰もいない。

 ここの通りには民家しかないからかもしれないけど、ここまで人影がないと不気味すぎる。


 この静けさに、尾行野郎は紛れているのだろう。


 そう思うと腹立たしい。

 雪ちゃんが一体、どれほど怖がっているか、想像もできないなんて。


 人でなしめ。許せない。


 憤りながら進むと、前から歩いてくる人影がある。




「弥一さん?」


「灯ちゃん?

 どうしてこんな所に?」


 人影は弥一さんだった。


 昼間のこともあり、複雑な気持ちになる。

 それを悟られないように、私は答えた。


「雪ちゃんを送ってきたところなんだ」


「そりゃあ勇ましいが、今は物騒なんだ。男に頼んだ方がいい」


 送っていくよ、と言われ、私は頷いた。



 この時間帯に民家の通りを歩いているなんて。

 あそこに弥一さんの知り合いはいなかったはずだ。



「弥一さんは何をしているの?」


「……見回りだ」


「そんな危険なこと。巡査に任せればいいのに」


「任せていられるか。あいつらは無能だよ」


 彼は吐き捨てるように言った。


 私は隣を歩く弥一さんを盗み見る。


 年齢の割にしっかりした体躯。

 そういえば、若い頃、剣術道場の師範をやっていたと聞いた。

 今はやっていないというけれど、体にしっかり染みついたものはそう簡単には離れない。



 もしかしたら、と、思えば思うほど、疑念は膨らむ。

 そうかもしれないとさえ思えてくる。

 弥一さんは父の知り合いなのに。



 あの優しかった父の。


 彼を疑うことは、父を疑っているのと同じだ。



 そんな酷いこと、私は耐えられない。



「ねぇ、弥一さん。私、嘘が苦手だよ」


 私は言った。


「突然だな。知っているさ。お父さんに似て、心がきれいなのは」


 笑いながら弥一さんは言う。


 その眼差しの優しさ。

 やっぱり、彼は違う。

 今までのことには何か理由があるはずだ。


 私は意を決した。


「昼間、川縁で何をしていたの」


 弥一さんが驚いて、私を見た。


「見ていたのか」


 私は頷き、足を止めた。

 弥一さんは、私の数歩、前に出て、私を振り返る。


「話してよ。私は父の友人を疑いたくない」



 沈黙。



 空では、だんだん暗闇が優勢になって、夕暮れが押しやられている。



 弥一さんは、険しい表情で大きく息を吸うと、深く吐いた。



「……探していたんだ。あの子が買った贈り物を。

 玄さんに渡すはずだったものを。でも、なかった。流されちまったのか、持っていかれたのか」


 川縁で川を覗きこんでいる弥一さんの姿が思い浮かんだ。


「あそこで捨てられていた女の子。あの子は玄さんの孫娘だったんだよ」


 何かが喉に詰まっていて苦しい時のように、弥一さんは唸りながら、息を吸う。



「その日、俺はあの子と買い物をしていた。玄さんに贈り物をしたいってんでな。付き添いさ。

 それでまぁ良いもんが買えて。そん時にはもう辺りは真っ暗でよ。

 送ってこうかって言ったんだけど、大丈夫って。

 おじいちゃんの顔をみたら、うっかりしゃべっちゃうでしょって。

 確かにな、なんて笑って、俺はあの子と別れちまった。


 悲鳴が聞こえて、俺は急いで戻ったんだ。

 そうしたら、川縁にあの子は倒れていて、傍に人が立っていた。


 月がない晩だっていうのに、そいつの刀は輝いていたよ。

 すぐに分かった。輝義のだって。

 刃の光が、そいつの顔を照らしていた――――」



 虚空を見て、その時の景色を見つめているかのようだった弥一さんが、はっと私の目を見た。


「灯ちゃん、昨日、俺は嘘を言った。玄さんの勘違いだって。違うんだ。

 あの輝き。あの美しさ。間違いようがない。そいつは、輝義の刀を持っていた。

 それをあんたに言ったら、あんたは人斬りをどうにかするって言うだろう。

 俺はそれが恐ろしかった。あの子も、灯ちゃんも、俺は守れない」



 あの時、目を逸らしていたのはそういうことか。


 私に嘘をついていたから。

 本当は父の刀を見たのに。

 父の刀が人斬りの手に渡っていることも知っていたのに。



「それで、犯人の顔を見たんでしょう?」



 私は弥一さんの肩を掴んだ。


 彼の気遣いには感謝するけど、私は人斬りをどうにかしないといけない。



 父の刀を汚す奴を、私は許せないからだ。



「あぁ、あぁ、見たよ。俺は見た。そいつの土気色の顔」


 また、弥一さんの視線が彷徨う。

 恐怖を思い出したのか、息も絶え絶えになって、でも、弥一さんはしっかりと言った。



「そいつは、顔の皮を被っていた。自分が奪った女の皮を」



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