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逢魔、討つ  作者: 風船
一振り目 七善刀・忍
6/23

その伍

 

 私も、思わず大きな声が出そうになるのをこらえる。

 雪ちゃんは形の良い眉をひそめ、視線を伏せている。


「誰にも言えなかった。でも灯ちゃんにならって思って」


「今もなの?」


「今はいないみたい。夜になると現れるの」


「夜って。雪ちゃん、夜にでかけているの?」


「家に居づらくて」


 すん、と、彼女は鼻を鳴らした。


「私、お義母さんにいじめられているの。

 お鍋だってわざと底に穴を開けられて。嫌味を言ってくるのよ。

 でも皆、知らない。だから誰にも言えない。

 つけられているのだって言えないの。

 お義母さんに尻軽女って思われる。

 そしたら私、晴彦さんと一緒にいられなくなっちゃう」


 途中から、雪ちゃんは声を震わせていて、言い終わるころには、大粒の涙がぼろぼろと零れた。


「雪ちゃん……」


 私は雪ちゃんを抱きしめた。

 腕の中で、小さくて細い体が震えている。



 こんなに優しい雪ちゃんをいじめるなんて、性根の腐った姑だ!



 怒りに駆られたが、今は、雪ちゃんを落ち着かせることが先決だ。


 つけられているのは夜だけだというけれど、どこで聞き耳をたてられているかも分からない。



 とりあえず、私は、雪ちゃんと一緒に、店に戻ることにした。



 〇



 私は雪ちゃんを奥の板の間に座らせ、水を飲ませた。

 しゃくりあげていた雪ちゃんだったけど、水を飲んでしばらくたつと、ため息がつけるほど、呼吸が戻ってきた。


「落ち着いた?」


 雪ちゃんは頷いた。でもまだ、眉をひそめている。



 元気づけてあげなきゃ。



「よし! まずはその尾行野郎を成敗しよう。そしたら、次は、意地悪な姑!」


 私が元気よく腕を振り上げると、雪ちゃんは静かに笑った。


「ありがとう」



 よかった。少し元気が出たみたいだ。



 雪ちゃんは少しはにかんだ表情を、すぐに曇らせた。


「でも、この時期だし、その人が人斬りだったらどうしよう。灯ちゃんに何かあったら嫌よ」


「私が変態野郎にどうにかされると思う?」


「わからないじゃない」


「大丈夫。私に考えがある」


 え?と見てくる雪ちゃんに、私は作戦を伝えた。



 作戦とは言ったけどそれほどのものじゃない。


 雪ちゃんには三日後の夜、散歩にでてもらう。

 私は物陰に隠れて尾行野郎を待つ。

 三日もおあずけを食らっているから、確実にそいつは釣られるだろう。

 来たら、私は、そいつに近づいて、こっそり隠し持っていた小刀をちらつかせる。


 女が弱いと思って尾行しているような小心者なら、きっと撃退できる。


 もし、そいつが人斬りならば、私はそいつから父の刀を取り戻す。


 人斬りだって、女を相手にして満足している奴だ。


 怒りに駆られている私が、負けるはずはない。



 人斬りだったらのことは、雪ちゃんには言っていない。

 すでに追い詰められている雪ちゃんに、無駄な心遣いをさせたくないから。



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