その参
ぶつり、と、糸が切れたように、玄さんはまた意識を飛ばして、眠った。
そんなことより、彼は今、何て言った?
孫娘が、父の刀で殺された?
「今の本当?」
私は弥一さんを見た。
彼はバツが悪そうに頬をかいて、私から目を逸らした。
「わからん。でも、この人はずっと言ってる。
神経衰弱になっちまってるんだ。気にしなくていい。悪かったね」
可愛がっていた孫が殺されて、神経衰弱になるのは仕方がない。
それに今、玄さんは意識が保てないくらいに泥酔している。
酔っ払いの戯言。
そう割り切ってしまうには、玄さんの様子は異常すぎた。
行方知れずの父と六振りの刀たち。
そして、時代錯誤な人斬り。
私は思わず、呟いた。
「刀も盗まれたの」
「なんだって?」
「父と一緒に六振りの刀も行方知れずになってる。
犯人が使っていてもおかしくない」
「まさか」
弥一さんは鼻で笑いながら、あごを手でこすった。
何か思うところがあるようだ。
ややあって彼は私を見た。
「輝義が打った幻の六振り」
歌うように、弥一さんは言った。
一瞬。
違和感がよぎった。
「弥一さんは、あの刀たちを見たことがあるの?」
私が記憶している限り、父があの刀たちを外に出していたのは、私と二人きりの時だけだったはずだ。
私の質問に、弥一さんは、はっと息をのんだ。
「風の噂で聞いた。今、刀は金持ちの道楽だからな。
金持ちが欲しがってるって。灯ちゃんも知っているだろう。
あいつの刀の美しさ。誰もが虜になる。きっと化け物だって」
確かに、私はあの美しさを知っている。
虜になった人たちの内の一人だ。
父の打った刀は私の自慢だった。
世界一、優しくて、たくさんの人に愛され、たくさんの人を守る刀だから。
「人殺しに使うより、売っちまった方が金になるし、そっちのほうがいいって話だ。
玄さんが言ってるのは勘違いだよ」
弥一さんは、私の目を見ず、そう言った。
〇
父、心籐輝義は、【慈愛の輝義】とも呼ばれていた。
父が打つ刀の特徴は、刃の美しさだけではない。
その切れ味の鋭さは他の追随を許さなかった。
斬られた生き物は、斬られたことに気が付かず、痛みを感じないままに絶命する。
だから、【慈愛】と呼ばれたし、父は名匠と謳われたのである。