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逢魔、討つ  作者: 風船
鍛錬
23/23

その陸

 

 それから2日間、私はたくさん食べて、たくさん寝た。

 そのかいあってか、傷の完治はあっという間で、療養所にいる専属のお医者様も驚くほどの回復ぶりであった。


 最後の診察では、お医者様と一緒に如月さんも来てくれて、お医者様から、動いても大丈夫だとお墨付きを貰った。


 そうして、お医者様を見送った後、如月さんは私にいつも通りの微笑みを向けた。


「完治、おめでとうございます」


「いろいろありがとうございました」


「お力になれて光栄です」


 言いながら如月さんは隣においた風呂敷包みを私に差し出した。


「餞別、といっては何ですが」


 包みを受け取ると、結構、大きいし重い。



 何だろう。


「開けてもいいですか?」


 如月さんから許可を得て、結び目をほどき、広げる。


 桜色で丈の短い小袖。

 その下に着る襟首の長い黒の服。

 同じく黒の脚絆と足袋。

 さらにこれまた黒の帯に、刀狩りの紋様が入った飾りがついた銀の帯紐。


 それらが風呂敷の中に折りたたまっていた。


「灯さん用の隊服です」


「私の」


 私はため息をつく。


 見ただけで分かる。

 隊服は何もかも、上等なものだ。

 私にはもったいなさ過ぎる。


「着てみてください。お手伝いしますよ」


 如月さんに促されては、尻込みをしているわけにいかない。

 私は頷いて、寝間着を脱ぎにかかった。



 ◯



「かわいらしいですねぇ」


 如月さんが、隊服に着替えた私を見て、拍手をする。

 うれしいけど、そんな大袈裟にされたら恥ずかしい。


 私は自分を見下ろした。

 何から何まで寸法がぴったり。

 おかげで息苦しくないけど、唯一、露出している太腿から膝が、すうすうしてたまらない。


 如月さんはズボンなのに、私はこれで戦えるのだろうか。


 ぱっと見ると、如月さんが口の端からよだれを垂らして私を見ている。


「如月さん……」


「あら失礼」


 私の視線に気がついた彼女は、胸ポケットからハンケチを取り出して、口元をぬぐった。

 そうして、何事もなかったかのように、肩をすくめて笑う。


「かわいらしいものを見ると、こうなってしまうんです。

 お気になさらず」


「はあ」


 何と返したらいいかわからず、私は曖昧な返事をした。


「今、片切隊士を呼んできますから、少々、お待ちくださいね」


 微妙な空気が流れたところで、彼女は風呂敷を回収すると、部屋を出ていった。


 私はため息をついて、畳に座る。



 かわいいものをみるとよだれがでるって普通じゃない。

 如月さんがあそこまで変わり者だとすると、刀狩りの隊士はみんな変わり者なのではないか。


 ひょっとしたら孝太郎も。



 私、大丈夫だろうか?



 別の不安に襲われ、私は震えた。


「入るぞ」


 びっ、と体がはねる。

 噂をすれば孝太郎だ。

 私は咳払いをして、どうぞ、と声をあげた。


 襖が開いて、孝太郎が入ってくる。

 詰襟の上着を着ていない彼は、どことなく新鮮だった。

 白の襟シャツがよくにあっていて、なんだか悔しい。

 彼は私の正面に座った。


「体の調子は」


「お医者様は、もう鍛練を初めて大丈夫だって」


「そうか。良かった」


 心底安心した表情をみると、私に怪我をさせてしまったことを悔いていたのだろうなと思う。


 ここはひとつ、元気に振る舞おう。


「ほら、みて!

 如月さんが、着物を見繕ってくれたの」


 私は立ち上がって、くるくると回ってみせた。


「似合ってる?」


「いいね。際どくて」


「え」


 はっと思い出す。

 丈が短いのを忘れていた。


「あ、足をみるな!」


「ごめん」


 謝りながらもにやついていて、反省していない。


 全くこの男は。

 気を使って損した。


 私はむくれ顔を隠さずに座った。


 おふざけは置いといて、と、孝太郎は話を変える。


「俺からも餞別を」


 彼は持ってきた一振りの刀を私に差し出した。


「3ヶ月間、君の相棒になる。大切にな」


 受け取った刀は、ずしりと重たい。

 これを振れるようになれれば、私の刀ももっと上手く扱えるようになれるだろう。


「ありがとう」


「俺は厳しいからな?」


 私は孝太郎をみる。

 彼の、歯をみせる、自信に満ちた表情は、私を安心させてくれる。


 私は頭を下げた。



「よろしくお願いします」



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