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逢魔、討つ  作者: 風船
一振り目 七善刀・忍
12/23

その拾壱


辺りが暗くなって、先を行く彼女の小さな背中に闇がかかる。

見失わないように、私は雪ちゃんに訴えかけた。



「私、あなたが妖刀だって信じてない。それを証明したかったの。

あなたのこと、助けたいって思ったの!

ねぇ、雪ちゃん!」



私は立ち止まって、周りを見渡した。



ここはどこ?



足元で枯れ葉がバリバリと音を立てる。

ぽつりぽつりと立つ木が、不気味に鳴いている。


空を見上げると、薄い雲の陰に、月が隠れていくところだった。



月が出ている時、人斬りは現れない。


なら、今は?


視線を戻すと、薄い闇が私の周りに漂っている。


「雪ちゃん?

どこにいるの。ねぇ」


私はゆっくり歩きだした。

世界から色が消えたように、全てが灰色に見える。



はやく彼女を連れて帰らなきゃ。

月が完全に消えて、人斬りがうろつきはじめる前に。




何か音がした。




「雪ちゃん?」



振り返ると、白く輝く光の筋がある。



見たことがある。あれは、刃だ。



命の危険が生ぬるい風となって迫ってくる。


その時、私は何かを踏みつけ、態勢を崩した。

仰向けになったまま後ろに倒れる。


ゆっくりと、私の鼻先を、刃がかすめていく。


「うっ」


背中を打ち、私はうめいた。



足元で、枯れ葉が割れる。



『あら、運の悪い子。楽して死ぬ機会を失っちゃったわね』



誰?



私は、上体を起こして、私の足元に立つ人影に視線を向けた。



そこに立っているのは、雪ちゃんだった。



違う。



雪ちゃんの姿をした、誰か。


だって雪ちゃんが、そんな邪悪に満ちた笑顔を浮かべるはずがない。

雪ちゃんが、刀を手にして、笑っているわけがない。


そうだ、刀。


私は見た。



光がなくても輝けるほど、鋭い刃。

たつ白波のような激しく雄大な刃紋。


間違いない。


あの時、夕暮れの燃える光を反射していた刀だ。


父の刀だ。


雪ちゃんは持っていないと言った。

ならば、こいつは雪ちゃんじゃない。


「誰だ」


私が尋ねると、女は笑った。


『何言ってるの、灯ちゃん。あたし、雪よ。見ればわかるでしょう』


頭に響く不快な声で女はせせら笑う。


「違う、お前は雪ちゃんじゃない」


『違うって。じゃあ、悪いのはあたしじゃないわね。

この子の本当を見ていないあなたが悪いのよ』


女の腕の動きに合わせて、光の跡が線を引く。

降ってくる光を、私は体を転がして避けた。

枯れ葉が舞い、私に降りかかってくる。


『よけないでよ。顔に傷がついたらどうする』


私の顔に傷がつくのを気にしている。


こいつが人斬り……。


私はもう一度、女の方に体を向けた。


立ち上がろうと地面に足をつけても、枯れ葉で滑ってうまく立ち上がれない。

それに、さっき何かを踏みつけた時、足首をひねってしまったようだ。


全力で力を出せるのは一回だけだろう。


私は女を睨みつけた。

女は口の端を吊り上げて、私を見下ろしている。



弱いと思って油断している。


悔しいけれど、私は非力だ。

隙のある今のうちに逃げるしかない。


私は腕の力を頼って、少しずつ、後ずさった。


『もうちょっと刀狩りを引き付けてくれると思っていたのに、使えない。

やっぱりあなたは顔だけね。そのきれいな顔。この子にくれてやってよ』


女はねだるように小首を傾げ、再び刀を持ち上げた。


今しかない。


私は足に力を入れて、地面を蹴った。

女に背を向けて走りながら立ち上がる。


体がよろける。

転んだらだめだ。


女がすぐ後ろで笑っている。


『あら、鬼ごっこ?

いいわね、楽しくて』



何なんだ、この感覚は。

全身が冷えて、鳥肌が止まらない。

それなのに、体中を伝う汗は生温い。

気持ち悪くてたまらない。




ひゅっ。




空気が裂かれる甲高い音。


瞬間。


右肩に熱がはしり、赤黒い刃が生えてきた。


『ほらほら、肩を刺した。もう痺れて、右腕が動かせないでしょう』


私、刺されたのか。

そう気づく間もなく、体が横に持っていかれ、地面に横っ面をぶつける。


口の奥から鉄の味が滲む。



はやく立たなきゃ。

でも、右腕が鉛のようだ。

持ち上げようとしても、全く動かない。


左手をつくと、ちょうど、そこに石が落ちている。

私は石を握り締めた。


『まだ逃げようとしている。次は足にしましょうね』



何してる。動け!



私は横に転がって、また走った。

麻痺しているはずの右肩が痛む。


私は走った。



木の裏に隠れよう。あの木に。




突然、肩の痛みが激しくなった。




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