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逢魔、討つ  作者: 風船
一振り目 七善刀・忍
11/23

その拾

 

「刀って物でしょう。心とどうひとつになるの?」


「どういう原理かは分からないが、(たたら)という化け物にはそれが出来る」


「たたら」


「奴は各地の刀工を誘拐している。刀を作らせるために」



 彼が言っていることが本当なら、父はそいつに誘拐されたことになる。



「待って。じゃあ父はそいつと一緒にいるの?」


「恐らく。でも居場所は分かっていない」



 分かっていない?



 私よりも、父に、その化け物に近づいているのに、どうして分からないことがあるのか。



 私はこぶしを握り締めた。



「十二年もあったのに、分からない?

 化け物のせいだって知っていて、そいつに誘拐されたことも知っているのに、分からないの?」


 声が震える。

 泣きたくないのに、視界がにじんで、私は目を腕で拭った。


「……面目ない」


 片切は力なく呟く。



 違う。私がしてほしいのはそれじゃない。

 後ろに置いた刀を握ってほしいのに、どうして分からないの。



「雪ちゃんが妖刀にとり憑かれているって分かっていて、あんたはどうしてすぐに助けないの?

 人斬りをさせられているって知っているのに!」


「気持ちはわかる。でも」


「何が分かるんだよ。わかってないからそうやって呑気でいるんだろうが!」



 悔しい。悔しい。

 どうして私には力がない。


 力がある人間が、どうして何もしてくれない。



「もういい。あんたが、あんたたちがやらないなら、分からないなら、私がやる」


「そんなの無茶だ、おい!」


 店から出ようとする私に、片切が追い縋ってくる。



 無茶だって知っていても、何も理解していない他人には、もう任せてはおけない。



 私は腕をつかんでくる片切の手を振り払い、勢いのまま、彼の頬に一発お見舞いした。

 殴られると思ってすらいなかったのであろう、彼は予想以上に後ろによろけ、依頼品の山を盛大に崩す。


「邪魔するな」


 私はそう吐き捨て、外に飛び出した。



 〇



 私は月明かりの下を走る。


「雪ちゃん、雪ちゃん!」


 かわいそうな雪ちゃん。

 きっと苦しくて仕方なかっただろう。

 ひとりでいろんなものと戦わなくちゃいけなくて、心細かっただろう。



『灯ちゃんに会いたかった』



 ぽつりと呟いた、彼女の表情が浮かんだ。



 雪ちゃんの様子が変わっているのを、私は気が付いていたはずなのに、何もしてあげられなかった。


 雪ちゃんは、私しか頼る人がいなかったのに。



 私は首を振った。



 まだ、片切が嘘をついている可能性がある。

 いや、絶対に嘘だ。

 父の行方の手がかりも嘘ってことになるけれど、かまわない。

 振出しに戻るだけだ。



 私は、もう友人を疑いたくない。



「雪ちゃん!」


 私が通りに戻ってきた時、向こう側から、提灯の灯りと共に雪ちゃんも帰ってきた。

 私を認めると、雪ちゃんは私に駆け寄ってきた。


「灯ちゃん、大丈夫なの?

 犯人は捕まえてくれたの?」


 私は苦しくて、膝に手をついて息をしながら頷いた。


「捕まえた、けど、聞いて」


「なに?」


 顔をあげる。

 心配そうな雪ちゃんの表情がよく見える。


 私は、あがってきた息を飲み込んだ。


「雪ちゃんは、父の刀を持っているの?」


「どうして?」


「持っているのって!」


 私は怒鳴った。

 雪ちゃんはうろたえながら、首を横に振った。


「持っているわけないわ。持っていたら灯ちゃんに渡すもの」



 ほら、持っていないって。

 あいつは嘘つきだったんだ。



 私はため息をつき、雪ちゃんを抱きしめた。


「どうしたの、灯ちゃん。様子が変」


 雪ちゃんは困惑している。

 無理もない。

 私は彼女から体を離した。


「そいつが言ったの」


「犯人が?」


「雪ちゃんが父の刀を悪用しているって。

 それは妖刀で、雪ちゃんがとり憑かれているって」


 雪ちゃんの目が見開かれて、泳いでいるのがよく分かった。


「そんな……。

 灯ちゃんはそれを信じたの?」


「信じるわけない」


「嘘よ」


 短く言って、雪ちゃんは私を睨みつけた。

 私は突き飛ばされ、後ろによろめく。


 提灯が地面に落ちて、火が消えた。


「信じたから私に確認しにきたんでしょ!

 ひどい。悲しすぎるわ、こんなの」


 両手で顔を覆って、雪ちゃんは、私に背を向けて走って行ってしまった。



「待って、雪ちゃん!」



 私は雪ちゃんの後を追いかける。


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