その玖
「どこまで父のことを知ってるの」
私は、部屋の真ん中にある囲炉裏を物珍しそうに眺めている片切に尋ねた。
「十二年前、刀と共に行方不明だって」
彼はあぐらを組む足を変えながら答えた。
腰に下げていた刀は、今、彼の背後にある。
いつでも取れるようにしているのだろうが、手元から遠ざけることは可能だろう。
もし襲われたらどう撃退するか考えつつ、私は情報を与える。
「六振りある刀。名前は七善刀」
「さすが娘だ」
いちいち言葉の多いやつ。
私はいらだちを隠すために、咳払いをして、片切の斜向かいに座った。
「あんたは何で、父の刀が悪用されているって分かったの?」
「俺自身っていうか、組織がな。まぁ、さっきも言ったけど、輝義氏の刀には特徴がある。
だから分かったんだろう。俺は任務で来たんだ」
「どう悪用されているの?」
「今回は人斬りに使われている」
「犯人は誰?
そもそも何でその任務で雪ちゃんをつける必要があったの」
あれ?
何だろう、この感じ。
悪用している犯人を捕まえるために、雪ちゃんを尾行していた?
雪ちゃんがそいつに狙われているのなら、真っ先に彼女を保護するべきだ。
それをしないで尾行する時、目的は何だろうか。
犯人を、捕まえるため――――?
「分かったようだな」
片切は、私を見ていた。
「ありえない」
雪ちゃんが、人斬り事件の犯人だなんて。
そんなことはありえない。
「何故?」
「だって、雪ちゃんは優しいの。人を傷つけるなんて絶対にしない。
まして殺して、皮をはいで、それを被るなんて真似はしない。
それに彼女は知っている。私がどれだけ父を尊敬していて、どれだけ父の刀を愛しているか。
そんな雪ちゃんが父の刀を汚して、人を殺しているわけがないだろ!」
私は奥歯を噛み締めた。
悔しくて堪らない。
この男は何も知らないから、そんな見当違いをしているのだろうが、だからって、雪ちゃんが疑われているのは耐えられない。
私が怒りを堪えている一方、片切は、素知らぬ顔で息を吐いた。
「主観が入りすぎているな。それで俺は納得できない」
「わかった。客観的に言う。雪ちゃんは女。しかも鍛えていたり経験者だったりしない。
あんたも腰にぶら下げているならわかるでしょ。あんな細腕で刀を振り回すことは不可能。
それに着物を返り血で汚したらすぐに気づかれる。彼女の周りには人目がある。
だから犯行は不可能。ありえない。以上。どう?」
私をあざ笑うように、片切は拍手をした。
「すごい。探偵になったらいい」
「馬鹿にするなって言ったはずだ」
私が睨みつけると、彼は肩を竦めた。
「でも、惜しい。探偵になるなら、全ての可能性を考えなきゃな」
「全てってさっきのが全てよ」
「もし、彼女が人でなくなっていたら?」
こいつは何を言い出すのか。
私は喉に詰まった言葉を、ようやく吐き出した。
「正気?」
彼は静かに頷いた。
「俺が所属している組織の正式名称は、妖刀討伐隊という」
妖刀?
討伐?
理解が出来ない私をおいて、片切は話を続ける。
「人は罪の心を生まれ持っている。
その心と刀が融合して、生まれるのが妖刀、逢魔刀だ」
心が魔と出逢う。
だから、逢魔刀と呼ぶのだ、と、彼は語った。
私は父の言葉を思い出していた。
――――人間は七つの徳を生まれ持っている。
「恐らく、白河雪は、君の父上が打った七善刀。
その内の一振りと融合して、妖刀になっている。
だから俺が派遣された。彼女を救い、逢魔刀を討伐する。
それが今回の俺の任務だ」
刀が心と融合する。
父の刀が雪ちゃんの罪の心と?