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神惑師(しんわくし)  作者: 山茶花
第1章 ナナセランブリラ(A.D.796〜2000)
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プロローグ

魔法使い。

今では対価無しに出来るほど、世界は変わったと街にいる老人達は語る。

全世界の人口の25%を占める“新人類”と呼ばれる彼等の中には、対価が必要な者もいた。


「血をティーカップの紅茶一杯分を対価に、汝は我の炎に包まれろ!!!!!」

「対価がが必要なヤツがどんなやつかと思えば、ガチでヨロヨロやんけ。なんや、おもんないやん」


対価が必要な者は、無しで使える者からすれば狩りの的だ。

異物を排除するそれを彼等は平然とする。

しかし、今回ばかりは違うようだった。

それもそうだ、彼等の目の前にフラフラでも立っているボーイッシュにショートヘアの中性的な顔つき、ニット帽、セーラー服にズボン姿の者は先ほどの大量の血を対価にした炎の魔法を使った。

結果的には外すこととなって意味のない行為となったが。


「確かに、ヨロヨロですが、彼……はこれまで狩った者達よりもダウンが遅い」

「そうなん? まぁ、えぇわ。コイツが死ぬまでさぁやはいたぶりつけぇや」


黒縁眼鏡の赤い三白眼に、もみあげが血のように赤く、稲妻のようにワックスで固めて、濃い青の肩甲骨のあたりまで長い髪をハーフアップでまとめた少女の面影のある女。


タレ目に刺青を頬に入れ、オールバックに固めた赤茶色の髪、飴を転がしてヘラヘラ笑うヤンキー風の男。


薄紫のサイドテールに、泣きぼくろがある黄色の瞳、左手に籠手を付けた少女。


三人は着崩しはあるものの、共通の服を着ている。

黒のライダースジャケットに、白の五つの菱形の刺繍の入ったポケット付きシャツに、魔法を軽々と使いこなすための杖の入ったホルダーをベルトに付けて、ダメージジーンズを履いていた。


禍昏かぐらせんぱぁい。もぉう、いいですかぁ? さぁや達ィ、疲れたぁ」

「ん、ボロボロになっとるからえぇよ。ほな、帰ろうか」


楽しかったでー、と言い残して三人は帰っていく。


「あー、立てねぇから、あいつ呼ぼ」


さぁやと呼ばれた少女相手にずっと対価を払って魔法を使い続けた身体は立ち上がって歩くということが出来ない。

僅かな力を入れて、スマホを手にして、電話相手にかける。


『ハロハロー! お、重ちゃん! また、絡まれて助けてほしいかなぁ??? うんうん、何度もかけて助けているので学習したからね! さて、ボクはどこでしょー!』

「……俺の頭の方角。テンション下げろ、貧血なんだから」

「あはは、どれだけ使ったの? また、鬼ちゃんに怒られるよ? あとは狐先生かな」

「……人外にされる」


奇抜な色の髪、星が広がった目をしたヒトの姿をした彼女は彼と同じ、制服のスカート履いていた。倒れた中世的な顔立ちの彼をお姫様抱っこして、対価無しに魔法を使う。


「じゃあ、帰ろうか。重ちゃん」


***


「対価をを払う必要のある“新人類”の救済は皆様、順調でしょうか?」

「はい、女王。順調でございます。世界人口の25%を占めている魔法使いの人口の3%を占めている対価魔法使いは現在、小数点まで下がりました。と言っても、現在、救済出来ていない庵常あんじょう 重花じゅうげのみになりました」


立派な革の椅子。

報告をする禍昏の方を見ずに、大きな窓から眺めれる大阪湾に作られた都市【影山】の夜景を見るのは、ぱっつんに切った前髪に揃えられた黒髪ロング、顔はいつも寒気のする(°▽°)という顔文字が出る狂気的な笑みを浮かべて、禍昏の服装に似た服を着て座っていた。


「庵常……。あぁ、特殊な環境によって生まれた後天性対価魔法持ちでしたね。“娘”の方が最近、妖や魔物が通うアルバンデーレ家の経営してるルクセレンラ学院に行っていますわ。訳ありの通うとこに行くなんて、お似合いねぇ」


ゾクゾクと背中を這う言の葉。

禍昏は目の前に座って、表情の変わらない狂気的な笑みを浮かべる彼女に怖気付く。

彼女の中身は知っている。

この都市の支配者本人だ。


「禍昏、ありがとう。報告してくれたおかげで、色々と考え直さないとなぁってところが出てきたから、こっちで調整するから、帰っていいよ」

「は、はい。お疲れ様でした」


禍昏が出た後、姿を変えた彼女は白銀に輝く髪に、瞳は静脈の血のように赤黒い。

口角を上げ、顔を歪ませて、窓に映る自分の姿を見て舌打ちする。


「重花……。早く会いたい、先祖様と同じ対価魔法持ち」


***


「重花」

「せんせー……と鬼ちゃん」


正門に着いた途端に感じる人なざる者の“匂い”。

二人は人なざる者で、冷たい目で、重花を見る。

魔女のラシュはずっと、重花の顔色を伺いながら、倒れかけの彼女を支える。


「……ラシュか私を使えば、負担なんてない。貴女が望んでいたヒトとしての生き方を終えれる世界になるのに」

「魔法と妖術は反れ合う関係だから? とにかく、今は、保健室来なさいな。貴女の今の姿は危険だもの」


こくっと頷き、重花は狐の保健医の密夜ミツヨについて行く。

彼等が保健室に行った後、鬼の隣に立つ魔女。


「……」

「ねぇ、鬼ちゃん。重ちゃん、すごく、寿命もろとも減ってきてるの知ってる?」

「そう……なの? あの子は“普通”の姿よ? 月一で密夜先生と私からの供給でヒトの姿を保っているじゃない!」

「寿命の方は二人のおかげでどうにかなってるのだけど、容姿はアタシの能力の限界使っても“見える”のよ」


焦燥する鬼の黒羽くれはに、ラシュは目を逸らした。

重花にいくら、月一の延命治療を与えても、結局はあの子の容姿には響かない。

ラシュはそれを分かって、ヒトとしての姿を取り繕う魔法を常にかけてあげていた。

妖怪達や魔物達でさえ、見分けれず、魔法で見えないけど、別物になっていってることに彼等は一生、気付かない。


「ねぇ、どんな姿をしていたの? あの連中は気づいてないよね?」

「うん、そうだね。アイツらも見抜けていないと思う。あの女王は見抜いているだろうけどね」


容姿はいつぞやの時に居た《ギフト》と呼ばれるバケモノそのもの。

それを知れば、重花は狩られてしまう。

ラシュは何も言わずに、黒羽に「寮に戻るね」と言って別れた。


***


翌朝、重花は保健室で目を覚ました。

密夜が隣で寝息をたてて、寝ていた。

昨日に襲撃を受けた際は、ずっと被っていたニット帽を外す。

キイィィィン……と、耳鳴りがすると密夜が起きた。


「……密夜先生、起こしてすみません」

「いいのよ、重花ちゃん。それにしても、また、進行してるわね」


狐の耳に、美しい顔立ちのオネェ妖狐の密夜は顔を歪ませて、重花と対峙する。


「……人を惑わす俺の髪の特性」


ニット帽をかぶりなおし、身だしなみを整える。

重花は、生まれ持った対価の必要な魔法使いだ。

それは、才堂および六家と呼ばれる能力者集団の先祖と同じで、昨日の襲撃は捕らえようとしていたからこその行動だった。

他にも同じ対価の必要な魔法使いはいたが、彼等は十分な能力者とも言えない経験しか備わっていない。


「……最悪な日々を繰り返すのか」

「重花ちゃん……」


辛そうに表情を変えて、重花を外へ送り出す。

外には才堂達が支配する【影山】があり、山奥にあるルクセレンラ学院は対面する形に存在している。


「また、交渉のために【影山】に行ってきます」

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