1-6.血が出る授業はdeathデース
瞬間。
それは情報の爆発だと錯覚するぐらい猛烈な速さでオレの中になだれ込んできた。
文字と数式と様々な情報の羅列が螺旋状となってオレの中を突き抜けていく。
神々しいまでの光の中、さまざまな人の生き様、一生、虫、動物。強制的に感情をシンクロさせられているのか、笑い、嘆き、喜び、絶望する。
リアルタイムの授業だが内容はともかくスピードが狂気だ。
「うごげぇぇぇーーーーーーーーーーーーー」
オレは自分でも気づかぬうちに嘔吐していた。
腹のあたりを生暖かい感触が濡らす。足元でびちゃびちゃと気持ちの悪い音がする。
顔をこすると最初に来た時のように手にべっとりとしたものが付着する。血だ。
知らないうちにオレの目や耳から血が噴き出していた。
やばいやばいやばい。これはダメなやつだ。死ぬ。
「がぁぁぁぁあ`あ`あ`あ`あ`あ`あ`あ`」
もうダメだ。これ以上ダメだと心の中で叫んでも拷問のように情報の伝達が止まらない。
数式が言語がもはやでたらめに突き抜けていくだけの感覚しかない。
伝達されてもオレには何を意味する事なのかすらわからないと言うのに。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。助けて、助けて、助けて、助けて。
ズタボロとなった体から意識を手放すと、主の居なくなったそれは前のめりになって乾いた土の上に顔から崩れ落ちた。
◇
<元データの互換性に齟齬が発生したために再起動シーケンスに失敗しました。続行しますか?Y/N>
・・・どれぐらい経ったのだろう。オレは意識を失っていたらしい。
気がつくと目の前の中空には青白い文字で文章が表示され、情報の伝達は止まっていた。
こういうケースは続行を選ばないと最初から、というのがお約束だ。
とてもじゃないがさっきの苦痛をもう一度味わって正気でいられる自信はない。続行が選べるなら続行が正解か?
「エラーはあってもそうそう問題は起こらないものなのだよ。わはは」
父さんの馬鹿笑いが思い出される。
よし。母さんが言ってた父さんが会社ではそれなりに優秀なシステムエンジニアなのよと言う言葉を素直に信じよう。
青いボタンをポチっとおして続行すると視界にあった文字列や棒グラフがどんどん消えていく。
身構えたオレは少し肩透かしを食らった気分だったが、どうやらこれでシーケンス終了のようだ。
やっと、家に帰れるのかと安堵の溜息が出る。父さん、母さん、妹、心配してるだろな。
「・・・・・・・・・・・・・・ん?」
なにも起こらない。
「システムさーん、転送お願いしまーす」
右手を挙げながら適当に名前を付けて呼んでみたが、オレの声だけが空しく響く。
先ほどまであれほど雄弁だった、、でもないけど、それでも状況のお知らせをしてくれてたシステムさん。どうしちゃったんだろう?
何か問題でも起こったのかな?それとももふもふ様御一行が来てくれるとか?
期待を膨らませつつ待つこと約1時間。
・・・・結局なにも起こらなかった。
◇
オレの予想は完璧に裏切られたようだ。
結局未知のテクノロジーによる転送はいくら待っても始まらなかった。
確かになんだか壊れてる感じが最初からしてたものな。
「そうか。そうなんだ。」
予想を裏切られ、折れかかったオレの心が特に何の拠り所もなく急速に立ち直っていくのを感じる。
深夜アニメで濃い目の脇役が言ってた。人は勝手に助かるものだと。それならばオレはオレの力で助かろう。
自分がこんなにタフだとは思いもしなかったが体の中心からあふれ出てくる力が前に進めと言っている気がした。
こんなにスッキリした気分は生まれて初めてかもしれない。
そうだ。とりあえずこの穴からなんとしても脱出しないとな。それにしても少し疲れた。今は眠ろう。
少し寒いけど風邪ひくほどじゃないし、厚手のシャツの中に頭と両腕を引っ込めるとだぼだぼのシャツには余裕で体が収まる。
先ほどの嘔吐のせいか少し酸っぱい臭いがするが、それが乾いて空気を遮断し、吐く息がほんのりとシャツに回る頃には暖かささえ感じる事ができた。
これなら少し寝ても大丈夫。
そう考えるとこの数時間とも数週間とも思える夢とも現実とも区別がつかない出来事を乗り切った達成感と疲労の中でオレは眠りに落ちて行った。
完全に眠りについた聡の頭の上にフッと緑色のカーソルが視覚化される。
-そして前向きな気持ちになれた聡だったが、あまりにも自然に読めてしまったため、青白い文字が日本語ではなく全く未知の文字であった事に気づくことはなかったのでした。-
「とログには追加で記入しておきますね。」
聡の寝息以外に何も存在を示さない地の底。
その芋虫のように転がる少年の頭の片隅で、明らかに場違いな少女の声が乾いた残響を以て語りかけていた。
「オレ」、口癖なのデス。
治らないデス。。。。
少年突破はすでにあるそうデス。そデシたか。。。
次回更新は2日後デス。