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★西暦2150年の青年達その4

 ◇ ◇ 北村武康視点◇ ◇


「あの山なら武康とこの街を永遠に見下ろす事が出来る……筈。最後の瞬間まで私の側に居てくれる……よね?」


 彼女はシシク山を指差してそう言った。


 自己中心的な彼女らしい我儘だ。


「シシク廃棄山なら……確かに誰も来ないかもな」


 シシク山は通称“シシク廃棄山”と呼ばれている。山の麓には廃棄物処理場があり、そこから有毒物質が流れているんじゃないかと言う噂から、街の人は寄り付かない。確かにAndroidが最後を迎えるには丁度良い……かも知れない。


「分かった。行こう。君の最後に付き合う事にするよ」


「ふふん、裏切ったら化けて出るからね♪」


 彼女は俺を背後から抱いて、額を擦り付けてくる。その間俺は大して高くもないシシク廃棄山を見上げるしか出来なかった。


 走った事による体温の上昇。乱れる吐息。肌より染み出る湿気。背中に打ち付ける彼女の心臓の高鳴り。どれもこれも、生きている人間と遜色のないように思える。


 彼女ならば――――。


 何となくそう(・・)思わせる何かを感じる。


 俺達は手を繋ぎながら、シシク廃棄山を登って行く。その真横にはオレンジ色の炎を揺らす夕陽があり、俺達2人の影を水平に延ばしていく。


 ――――この街で彼女と過ごした1年間。本当に色々な事があった。何となくそれを噛み締めながらゆっくりと頂上へと向かう。


 …………。


 山頂の崖に辿り着く迄に陽は暮れてしまった。


 山の縁に座って、俺達は宙に足を投げ出す。


「星が綺麗だね」

「そうだなー。そばにお前が座ってるから綺麗なんだろうな」


「Androidって、化けて出るには武康のアプリにお化けアプリをDLしたら良いのかな?」

「アプリ開発からスタートだな」


「あっ、食器片付けた?」

「片付けてきたよ」


 文字にすると一行で表せるような他愛のない話も、恋人のフィルターを通して聞くとついつい笑顔になる。そんな話をいつものペースで語り合って行く。最後の時間や楽しい時間はいつも決まって早い。



  ◇ ◇ ◇ ◇


「武康、今何時?」

「もうそろそろ日付が変わるよ」


 俺は左手にはめた時計を見る。


「カウントダウンはいる?」

「カウントダウンはいる?」


 被ってしまった。


 ハッとお互い目を見詰めて笑い合う。


「いくよ……59、58、57……」

「10、9、8……最後に言い残す事は?」


「愛してる!」

「愛してる!」


 カチカチと瞳に刻まれた残り時間が0:00となり、やがて-0:00となった。


「0:00過ぎたわ! 私は……人間よ! 私達の1年は恋愛ごっこなんかじゃなかった!」


「……、そうだな。君は人間だよ」

「私は人間なのよ」


 俺は彼女を抱き締める。そして、自分自身の残り時間(・・・・)を察して、彼女と目を合わせたままキスをした。カメラの機能が停止した後も永遠に彼女の姿を焼き付けるために。


 ◇ ◇ ◇ ◇



 キスをしたまま停止(フリーズ)する彼女は本当に綺麗な彫像で、俺はAndroidとしては最高の最後を迎えられたと安堵した。


 本当は、俺も君も分かっている筈だ。人間なんてとっくに居ないって事を。人間は俺達を残して何処かへ消えた。


 彼女の瞳のcountは残り-0:01で止まっている。


 彼女の中でこの瞬間は永遠なのだろう。そして、俺も僅かに遅れて完全にセンサーや関節が動かなくなる。だが、唇で彼女を感じ、永遠に彼女の瞳を見続けるのだ。誰かが俺達を回収しても、最早動く事のない受像装置に上書きされる事なんてない。




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