プラス願望
俺の、この無愛想で根暗な性格をマイナスとするならば、少なからずプラスが必要になる。
「夕ー?」
マイナス×マイナスはプラスになるが、マイナス+マイナスがプラスになることはない。
「ゆーう...?」
しかし、マイナス×マイナス=プラスというのは数学の世界だけの話だ。これを一般的な生活に当てはめてみても、プラスにはならないであろう。
じゃあ、マイナス+プラスならどうだろうか。マイナスにもプラスにもなれる。元となったマイナスよりかは確実にプラスに近づくのだ。
「夕ってば!!」
「なんだよ...」
だから俺は、自分が知らないうちに、プラスを求めていたのかもしれない。
「やっと気づいてくれた〜!さっきから何回も呼んでたじゃん!」
「うるさいな...考えてたこと全部飛んだじゃねえか...」
「ご、ごめん...でもっ!彼女が呼んでるのに無視するのはどうかと思うよっ!」
パッと俺の前に出てくると、友梨は頬を膨らましながら、腰に手を当て屈み込むような体制で俺の顔を覗き込んできた。
「別にいいじゃん...」
「もー!夕はいつもそう言う!よくないもんっ!」
俺の腕を抱きしめるようにくっついているこいつ、紺野友梨。俺の彼女。
「でもそんな夕もかっこよくて好きだよっ!」
「はいはい...そりゃどうも...」
よくもまあこんなことを平然と言えるな...こいつには恥ずかしさってもんがないのか?否、俺がこんな性格だからそう思ってるだけで、他のリア充もこんな感じなのかもしれない。
まあ周りがどんなリア充だろうが関係ない。友梨は俺のこの性格が好きだと言ってくれたんだ。
「ねぇー!頭なでなでして?」
「お前なー...ここ外だぞ?人に見られたらどうすんだよ...」
「むぅー...私は気にしないのに...」
「俺が気にすんだよ!」
「えー?教室ではあんなになでなでしてくれたのに...」
「あれは誰もいなかったからだろうが!それに1回しか撫でてねえよ!」
ああもう...いつまでこんな茶番を繰り返せば気が済むんだ...天然の彼女を持つとここまで大変なのか...
恋愛経験ゼロだった俺が一週間前に告白されて、最初は2人とも恥ずかしがって話すらまともにできなかったのに...2日目からすぐにこれだ。吹っ切れたように絡んできて...
そんな友梨の性格に、俺は少し安心してた。そして、そこでようやく、俺は彼女が出来たって実感したんだ。
「じゃあ人がいなかったらなでなでしてくれる?」
「まあ、誰も見てなければ...」
「じゃあ私のお家で来て!そしたら誰もいないからたくさんなでなで出来るでしょっ!」
勝ち誇ったような表情で、無い胸を反らす友梨。
「待て...付き合ってまだ一週間の彼女の家に行くのか、俺...」
「へ?別に一週間でも良くない?だっていつかは私のお家来るでしょ?」
「まあ、そうだけどな...でもなー...」
何とも曖昧な返しをする。
自覚してるんだ、自分がビビってるの。今まで恋愛経験が無かった分、彼女という人への接し方が合ってるのか分からないから。失敗するのが怖い。
それは恋愛面だけじゃない。普段の会話でもそうだ。人を傷つけること、怒らせること、悲しませること...マイナスなことが嫌いだ。それをして、俺が責められるのが嫌いだ。自分の取った行動が自分や他人を傷つけることが、大嫌いだ。
友梨から告白された時、俺はそれをしっかりと告げた。それで告白を撤回されても構わないと思っていた。それも、友梨を悲しませないようにしたかったからだ。
しかし、友梨はそれでも良いと言ってくれた。
その時、彼女は笑顔だった。俺に向かって微笑んでいた。俺は驚いた。そして、安堵した。
友梨のその笑顔に、嘘偽りは無いと確信した。
彼女のその笑顔で、俺の恐怖心が収まるわけではなかったが、そんな表情を友梨を見ていると、自然と、自信が出てくる。
それは、今も...
「夕っ!!」
「!?」
「もう!またぼーっとしてたでしょ!?ずっと呼んでたんだよ!?」
「あ...悪い...ちょっと考え事してた...」
「全くもう...何か悩みがあったら相談してっていつも言ってるでしょ?」
「大丈夫...悩みじゃねえから...」
「ふーん...それで!さっきの質問の答えはー?」
「え?さっきの質問...?」
「忘れちゃったの!?私のお家に来るか来ないかって話!」
そうだった。
今はこんな所で悩んでいても仕方が無い。今は、友梨と楽しく過ごすんだ。お互い、好きなままで。
「ああ、行くよ。」
「さっきまであんなに悩んでたのに随分すんなりだね〜。まあそんなところも大好きだけど!」
やっぱり、友梨が彼女でよかった。こんなこと言ってくれるのは、全人類どころか全生命体を見ても、友梨だけだろう。
「じゃあ決定〜!さっ!行こっ!」
俺の手を引っ張り上機嫌で歩き出す友梨。
こうやって楽しんだ顔が、一番似合ってるよ。
「?どうしたの?私の顔、何か付いてる?」
「え?あ、いや...何も。」
「あんまり見ないでよ〜。恥ずかしいじゃん!」
口ではそう言いながらも、嬉しそうな顔は誤魔化せていない。
「ねーねー。私ね、クラスの文化祭の実行委員に選ばれたんだ〜!」
「あー、あれか。確かに友梨、1年の時もイベント事には積極的だったもんな。」
「え?なんで1年生の時の私知ってるの?」
可愛らしく首を傾げて聞いてくる友梨。
しまった...つい口に出してしまった...
そう、俺と友梨は幼馴染みでもなければ、1年生時に同じクラスだったり、部活が同じだったなんてことはない。
俺と友梨が初めて話したのだって、この17歳になった高校2年生の、つい最近の話である。
つまり、それまで接点がなかった友梨の1年生の時のことを知っているというのは、どちらかが故意に、もしくは意識的に見ていないと有り得ないのだ。ましてや、俺は友梨が積極的に行事に参加していたのを知っていることをも間接的に口走ってしまった。
それは、俺が1年の時から意識的に友梨を見ていたことを表すのだ。
いや、確かに見てたよ。でも、その時に芽生えていた感情は「好き」ではなく、「可愛い」というものだけだった。だって、名前も性格も知らないような奴をいきなり好きだなんて、そんなのおかしいだろ。
だからよく言われる、「一目惚れとかしなさそう」って。ご名答、一目惚れなんてもんは好きって感情のうちに入らないと思っている。顔だけで決めて、それで性格合わなかったら、ね...
「ねー、なんで1年の私のこと知ってるのー?」
「別に...体育祭とか文化祭の時にちらっと目に入ってただけ。」
大嘘。意識的に見ていました。
「ふーん、まあ私いっぱい声出していっぱい動くからねっ!」
すんなり受け入れた友梨。ほんと、こいつがバk..天然でよかった。
「そうだよ。あんなに声出してりゃ誰だって気づくっての。」
「そうだよね〜。えへへ、ああいうのってなんか楽しくって!」
「まあ友梨は周りに元気を与える力持ってるしな。ああいう行事系には向いてると思うぞ。」
「ほんと!?へへ、なんか、好きな人に言われると照れちゃうな〜。」
少し赤面して頭を掻く。
何なんだこの可愛い生き物は。
「着いた〜!」
そうだ、目的をすっかり忘れていた。
こんな会話をしている間に、結構歩いたらしい。気がつくと、俺の視界には表札があった。
初めて来たが、今時木造の門がある家なんて見ないぞ...衝撃的...
友梨の家は屋敷だ。それも、超巨大な。こんなデカいのになんで今まで知らなかったのだろうかと疑問に思うくらい、どでかい。
なんでも、親父さんが住職で、お袋さんは神社で働いているらしい。お祖父さんは現在も神主をしていて、お祖母さんは友梨が生まれる前に病気で他界したそうだ。
つまり、友梨の家系は見事な仏教一家らしい。だから家も木造建築の屋敷なのか。納得。
「ほら、早く早く!入って!」
「お、お邪魔します...」
俺なんかが立ち入るのが躊躇われるくらい趣きのある家だ。家の横に五重塔が建っていても違和感の無いくらい趣きがある。
このような建築物にはさほど興味はないが、周りにこのような建造物がないと、何とも感動する。
「広っ...」
「凄いでしょ〜!ここの家15部屋あるんだって〜!よく知らないけど!」
「知らねえのかよ!自分の家だろ!」
「だって私自分の部屋とリビングばっかいるし!」
「リビングみたいな広さの部屋、何個もあるじゃねえか...」
「そんなの気にしなくていいの!ほら!私の部屋行こっ!」
そう言うと、友梨は俺の手を握って走り出す。俺が言うのもあれだけど、友梨は俺が家に来てくれたことが嬉しいらしい。
「はい!ここが私の部屋!」
しばらく走って、ようやく友梨の部屋に着いた。友梨の部屋に来る途中までに色んなものを見た。甲冑や薙刀、数多くの掛け軸も目に入った。本当に今は平成なのだろうか。
「はい!どうぞ!」
引き戸を開ける友梨。
中は思ったより今風な感じだった。まさに今時のJKって雰囲気だ。
「目の前にこんなのが無ければな...」
「ん?何か言った?」
「別に。」
思わず口に出してしまった。でもこれは仕方ないと思う。だって皆もそうだろ?彼女の部屋に入って、一番最初に目に入るのが立派な日本刀だったら。
「これ、本物...?」
「うん!本当の刀だよ!ほら!」
そう言うと、友梨は徐に鞘から刀を抜き出す。
「めっちゃ光ってる...本当に本当なんだな...」
「だからそう言ってるじゃん!」
「お、おい...剣先をこっちに向けるな...」
「だって零、疑ってそうだもん...」
「それは今まで1回も本物の日本刀を見たことがなかったからでな...」
「じゃあ1回斬られてみる?」
「馬鹿たれ!死んじまうだろ!?」
「大丈夫!ザクっていくだけだから!」
「音がエグいわ!?」
「むぅ...まあ危ないもんね〜。」
「そう言うなら刀をクルクル回してねえで収めろよ!」
俺の言葉に渋々従って、友梨は刀を鞘に戻す。危うく逝っちまうところだった...
「はい!座って座って!」
刀を元の位置に戻して、友梨は俺の前に座布団を置いてくれた。
「大丈夫だろうな?中に撒菱とか入ってたり...」
「失礼な!お客様にそんなことしませんっ!」
「そのお客様を刀で殺生しかけたんだぞ、お前...」
「まあまあ!ほら!早く座って!」
急かすように言われ、座布団に座る。そして、友梨も向かい側に座布団を置いて、向かい合わせになるように座った。
「悪いな、せっかく家に招いてもらったのに手土産の一つも持ってなくて。」
「そりゃさっき誘ったんだもん!仕方ないよ!」
「もしかしたらバッグの中に何かあるかも...」
やはり何も無しに帰るってのも気が引けるしな。何かあったらくれてやろう。
「だからいいってばー!もうっ!何も貰わないよ?」
「んー...飴しかねえ...」
「飴ちゃん!?」
声のトーンが変わった。目をキラキラさせてこっちを見ている。これはあれだよな...さっきは何も貰わないって言ってたけど...
「欲しいのか?」
「い、要らないもん...っ」
手を伸ばすのを我慢して、身体をピクピク震わせながら言われても説得力ねえって...
あぁ...友梨のこういう反応を見て、いじりたくなる自分がクソ野郎だと思う。
「あっそ。じゃあ俺が食べちゃうね。」
「あ...ちょっと...」
「何?要らないんだよな?」
「い、要ら、ない...けど...」
こちらに手を伸ばしながら目を逸らしている。なんでこういう時だけ素直じゃねえんだろ。可愛い奴め。
「なら俺が食べても問題ないよな?」
「な、ないけど...ある...」
「どっちだよ...てことは欲しいの?」
「ほ、欲しく...ない...」
「要らない、なら分かるけど欲しくない、はおかしいだろ...まあそんなに言うなら俺が食べるぞ。」
袋を開けて、飴玉を口に持っていく。
「だめえええええええ!!!!」
「うおぉ...!?耳痛え...」
「あ...いや、その...」
こいつ、飴玉一つに命かけてんのかよ...
「友梨、欲しいなら欲しいって言っていいんだぞ?」
「だ、だから...要らないもん...」
「なんでそんな拒否するんだよ。」
「だ、だって...飴ちゃん一つでこんなに必死になってたら...子どもっぽいって思われるし...」
「もう思ってるけど...」
「なっ...!ひ、ひどい〜!せっかく頑張ってたのに!」
そもそもここまで言っちまったら欲しいって言ってるのと同じだろ。
「ったく...いつもはベタベタしてくるくせにこういう時だけ強がるよな...ほれ。」
相手の様子に半ば呆れつつ飴玉を相手に向かって投げる。
「飴ちゃん...!?はむっ...!」
空中にあった飴玉を見事に口でキャッチする友梨。アシカかこいつは...
「甘い〜!おいひい〜!」
飴玉を食べるだけでそんな幸せそうにできるお前を尊敬するよ...
「ありがとっ!夕!」
「あぁ。どういたしまして。」
でもやっぱ俺は、友梨のこういう笑顔を見るのが好きらしい。
よく分からないけど、俺まで嬉しくなる。
きっと友梨がいなかったら、俺は毎日こんな楽しくなかっただろうな。
ほんと、友梨は魔法使いだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ごめんね、こんな遅くまで...」
「別に大丈夫だって。どうせ家帰っても誰もいねえんだし。」
外はすっかり暗くなっていた。綺麗な満月が顔を出している。
友梨とはあの後、たわいのない会話をして、本人のお望み通り沢山頭を撫でてやった。思った通り、友梨はとても幸せそうだった。ほんと、撫でてやって良かったと心から思う。
「ねえ、ほんとに家まで送らないで大丈夫...?1人で怖くない...?」
「親か、お前は...」
「だって心配なんだもん...途中で悪い人にさらわれたら...」
俺は男だ。
「だから大丈夫だっての。心配すんな。」
「ん〜...まあ夕がそう言うなら大丈夫かな...うん!大丈夫だよねっ!だって夕だもんね!強いもんね!」
「どういう事だそれ...」
人を何処かの八百屋のガキ大将みたいに言いやがって。
「じゃあ帰るぞ...じゃあな。」
「あ、ちょっと!」
身を翻して帰ろうとする俺を声で制止する友梨。
「ん?なんだ?忘れ物か?」
「いや、そうじゃなくて...これで私の家の場所はわかったよね?」
「まあ、一応は...」
「てことは、明日から毎日朝迎えに来てくれるってことだよね!!」
...おぉう?
「いや待て、なんでそうなった...?」
「だって私たち、今まで朝は別々で登校してたじゃん?それじゃまだ完璧な付き合いとは言えないよ!!」
人の腕にくっついてきて、簡単に自分の家に呼んで、所構わず好きだ何だと言ってる人間が何をほざいてやがるんだ。
「そこじゃねえよ!なんで俺がお前を迎えに来なきゃいけないんだよ!」
「王子様はお姫様を迎えに来るんだよ?それとおんなじ!!」
王子様と言われたことと、自分をお姫様と言う友梨のソレとで、何とも言えない気持ちになる。
まあ、もうこれ以上何を言っても引き下がらないだろうな。ったく、明日から早起きかよ...
「あー...はいはい...わかったわかった...」
適当な返事をすると、目の前にいるこいつはバッと顔を上げてキラキラした目をこちらに向ける。
「ほんと!?やったぁ!!じゃあまた明日ね、王子様!!」
にっこりと微笑み、俺に手を振る。
「あぁ...じゃあな。」
帰路を向き、右手を軽く挙げて背中で友梨に別れを告げる。
次の日から、朝起きる時間が30分早くなった。
しかし、悪い気はしなかった。
初めまして。ЯeIです。「プラス願望」、見てくださりありがとうございます。ちょっと小説書いてみたいなー、と思い、なんとなくで書いてみて、なんとなくで投稿してみました。お察しの通りO型です。執筆の経験ゼロで書き始めたので、構成もバラバラですし、内容も意味不明になっています。更に、短編にしては終わりが謎すぎるものです(決定事項)。
それでも見てくださってる人がいる(と信じて後書きを書いてます)のは、すごく嬉しいです。
これからは少しずつ、執筆をして投稿していきたいと思っています。
今後も皆様が興味を持ってくださるよう、精進してまいりますので、よろしくお願いします!
では、次の作品でお会いしましょう(次があるか分かりませんが)。