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魔王様と無敵のちゃぶ台   作者: 夛鍵ヨウ
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真面目にやります

「フレデリク! そいつは罠だ!」

 タルケットが叫ぶ。

 

 その声でフレデリクはハッと我に返った。予想外の展開で失いかけていた戦意を再び燃え上がらせる。

「卑怯なり、魔王バラサーク!」

 その声にサフィアも正気を取り戻す。

「私も危うく靴を脱ぐところだったわ!」

 

 剣士と魔導士は各々(おのおの)の武器を構え、先制攻撃を繰り出そう……としたのだが、狭くて思う様に行かない。

「くっ! これも作戦か! 恥を知れ魔王!」

「もっと広い所で戦いなさいよ!」

 苛立ちを隠さず喚く二人の言葉を魔王は黙って聞いていたが、ふいに両手を『ちゃぶ台』に乗せると「よっこいしょ」と不思議な言葉を放ち、のっそりと立ち上がった。


「どうやら、戦わねば気が済まぬらしい。まあ是非も無い。あの迷宮を抜けここまで来てくれたのだからな……」

 魔王バラサークは天井につかえる頭を少し下げ、奥にある別の扉を開いて外に出た。

 勇者四人も慌てて和室の外に出る。

 

 魔王は結晶石の青い床をゆっくりと壁に向かって歩き、無造作に手を伸ばした。 すると鬼火が灯されていた壁が形を変え、長い回廊が出現した。

 その回廊はまた結晶石のブロックで出来ていたが、そのブロックの色は赤く、中心が仄かな光を帯びている。

 

 油断無く四方に目を光らせながら、四人は魔王の後を追う様に回廊に足を踏み入れた。

 赤く輝くブロックで作られた回廊は何処迄も無限に続いているかのようだった。


「時空が歪んでいるわ」

 サフィアは低い声でそう呟き、そして薄く笑った。

「でもここなら心置きなく戦える!」

 フレデリクも覇者の笑みと堂々たる構えで魔王と向き合う。

 ヒヒイロカネの剣は炎を纏うと同時に、凍てつく様な輝きを放ち続けている。


「魔王! 覚悟!」

 

 フレデリクがいきなり鬼神の如き一撃を放った。

 爆裂の様な衝撃と共に、白く発光した音速の斬撃が魔王に襲いかかる。

 爆音を後に従え、白い筋は回廊の遥か奥へと消えて行く。

 

 まずは一撃。 

 フレデリクは二撃目を『溜めた』。

 

 サフィアが絶妙の間で攻撃呪文を放つ。

「煉獄の炎」

「氷河の檻」

「天帝の雷槍」

 魔王は灼熱の業火に焼かれ、絶対零度の檻に閉じ込められ、稲妻に貫かれた。

 三つの攻撃呪文を同時に発動出来るのは、天才魔導士だからこそである。


「流星よ! 降り注げ!」 

 一拍おいてタルケットがボウガンを連射した。

 名に違わぬ流星の如き矢の雨が、恐ろしい早さと威力で魔王に降り注ぐ。

 

 だめ押しのフレデリクの『溜め攻撃』。


「喰らえ! 覇王っ彗・星・剣!!」

 

 音速を超えた、最早光の速さに達する斬撃が白い帯となり、魔王の体内を通過する。

 衝撃波の余韻で渦を巻いた大気が静まると、フレデリクは煙を振り払い魔王の姿を探した。さて、どれ程にかさが減っているだろう?

 しかし余裕の剣士が見たものは、かすり傷一つ負っていない魔王の立ち姿。


「な、何っ」

「ふむ。なかなかの手練ではあるようだ」

 あれだけの攻撃を喰らったとは、とても思えない程の落ち着いた表情で、魔王は感心した様に頷いた。

「そんな……まるで通じていない!?」

「お前等、動揺しちゃ駄目だ! それもきっと作戦だぜ! ダメージは受けてる筈だ!」

 顔を強張らせて口走るサフィア。汗を滲ませながらも仲間のペースを取り戻そうとするタルケット。カルナードだけがここに至る迄ずっと口を噤んでいる。

 

 魔王バラサークは紅蓮の着衣の上から羽織った、漆黒のマントの裾を軽く払うと、初めて邪悪な表情を浮かべ勇者達を睨め回した。

「では、お前達は迷宮をのこのこと歩いて通り抜け、この儂に戦いを挑み、負け、命を落とし、儂の足下でこの『永久(とわ)さざめく(・・・・)者達』の一部となる為にやって来た、という事だな?」

 

 その言葉でタルケットは恐ろしい事実に気付いた。

 無限回廊のブロックの一つ一つから、微かに声が聞こえて来るのだ。

 サフィアも勘づいた。

 信じられない思いで足下を見る。このブロックは、魔王に命を奪われた人々の魂で出来ている!

「その通りだ魔導士よ。この回廊は全て生き物の魂で出来ている」

 心を読んだかの様に、魔王は言った。

「さて、守る筈の者達を踏みつけて戦い続ける事が、お前達に出来るかな?」 


「何て……」

 酷い、恐ろしい事を。後に続くこの言葉が出ない。それ程の衝撃を受け、サフィアは胸に手をあてた。

 フレデリクはサフィアの肩に手を掛け、後ろに下がらせた。最強の剣士は動揺よりも怒りが勝ったのだ。


「出来る!」


 王者の風格を持って、フレデリクは言い切った。

「貴様をこの世から滅するまで、そしてこの世界に平和を取り戻すまで、俺はここで戦う!」

 そして回廊一杯に響く声で、語りかけた。

「魂達よ! 俺は貴方達を救う為に戦う! だから耐えてくれ! 必ずや無念を晴らし、安息の地へと導いてみせよう!」

 胸に迫る熱い言葉であった。

 

 続いてフレデリクは仲間達に向き合い、静かに言った。

「皆、聞いてくれ。これから俺はこの命を使い、魔王を道連れにするつもりだ」

 サフィアがハッと顔を上げる。その美貌に優しい眼差しを向け、微笑を浮かべてフレデリクは続けた。

「もし俺が奴と刺し違えたら、躊躇せずに最強攻撃を出し尽くしてくれ。奴が滅するまで、俺は奴を押さえ続けるから」

「お、おい、フレデリク!……じゃあ、サフィアはどうすんだよ!?」

 剣士と魔導士の仲を知っていたタルケットが詰め寄る。

「好いた男に置いて行かれる、女の身にもなってやれよ!」

「わ、私も……!」

 真珠の様に艶やかな唇を震わせ、サフィアは声を絞り出した。


「私を見くびらないでフレデリク! 私の最終禁断奥義を奴に御見舞いしてやるわよ!」

「サフィア? それはまさか!」

「ええそうよ! 『宇宙開闢(かいびゃく)』よ! 絶対隔離結界を創ってその中でそれを発動させれば魔王は確実に消滅する!」

 『宇宙開闢』。それは術者とその周囲にあるもの全てを『混沌のひと塊』に変え、全く別のエネルギー物質へと変換する、禁断の自爆呪文である。

 言葉を無くしたフレデリクに、サフィアは拗ねた様な、怒った様な表情で言った。

「私を置いて行くなんて許さないんだから!」   

「サフィア……愛している!」

「私もよ……」

 見つめ合う二人に、やれやれと肩を竦めたタルケット。

「どうやらおいらは、お邪魔虫みたいだな……生きて帰ったら、お前等の伝説を死ぬまで語り続けてやるよ」

 

 時は来た。

 覚悟を決めたフレデリクとサフィアは共に手を取り、魔王に近づいて行く。

 タルケットは懐から奥の手の、『時の足止め』という時間停止効果のある砂時計を取り出した。

「二人とも! 砂時計を引っくり返すぜ! 良い旅を!」

 フレデリクとサフィアは振り返り微笑んだ。

 赤黒いオーラを立ち上らせた魔王がほくそ笑む。

「何やら企みがあるようだな。面白い、やってみよ!」

 タルケットが魔王に狙いを定めて砂時計に手を掛けた。

 

 さようなら、最強の剣士。

 さようなら、美しき魔導士。

 今まさに最後の瞬間が訪れる……!

 

 そんな鬼気迫る空気の中、突然一匹の小鬼がひょこっと顔を出した。

 小鬼はせっぱ詰まった声でこう言った。

「魔王様! 時代劇、始まっちゃいますよ!?」

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