ちゃぶ台が一番って事で。
「……」
かちゃかちゃ、と陶器の鳴る音がする。
魔王がしゃがみ込んで床に散らばった物を片付けていた。
フレデリクは何も言わずに、ただそれを見ているだけだった。
バラサークがちゃぶ台を返したその時、上に載っていたトランプも湯のみも当然一緒にひっくり返った。
フレデリクはそこそこいい温度の焙じ茶をしたたかに浴び、「熱いっ」と率直な悲鳴をあげて畳の上を転げ回った。
その悲鳴でバラサークは我に返り、大慌てでフレデリクに駆け寄る。
「おおおっ? 大丈夫か剣士よっ!?」
フロストゴーストが現れてフレデリクに抱きつく。熱いのから急に冷たくなってフレデリクは再び「冷たいぃぃ」と見た通りの悲鳴をあげた。
どうにか火傷を免れた様子に安堵して、魔王は床の上を片付け出した。
「……うぬぅ……つい我を忘れ愚行を働いてしまった」
割れた湯のみを脇に避け、ひっくり返ったちゃぶ台に手を伸ばしてそっと持ち上げる。
「ちゃぶ台よ、すまなかった」
申し訳なさそうにちゃぶ台に語りかけるバラサークを見て、フレデリクは溜め息をついて立ち上がり、近くにあった雑巾で濡れた畳を拭き始めた。
「おぬし……」
「魔王よ、何か捨てる紙はあるか? 割れ物を包んでしまいたい」
「おお、あるとも。確かお試し読みで取り寄せた新聞紙が一部だけ」
「悪かったな」
床に視線を落としたまま、唐突にフレデリクは謝った。
「何かその……ほんとに、済まなかった。許してくれ」
バラサークは目を丸くして、黙ったままフレデリクを見つめた。
「お前には到底勝てないと、俺はあの時気付いていた。今まで最強と思っていた俺の剣がまるで通らない……格が違いすぎると悟った……」
フレデリクは雑巾を握りしめ、肩を落とした。
「だが俺は勇者だ。人々に勇気と希望をもたらす勇者という存在である限り、俺は生きて行けると思ったんだ……」
バラサークは新聞紙を取りに行くのをやめ、静かに正座して続く言葉に耳を澄ました。
「ところがどうだ。お前はいつの間にか改心し、訳の分からないうちに平和が訪れた。見ろ、お前じゃないが、俺はただの元気なお兄さんになっちまった」
両手を上に持ち上げ、フレデリクは自らを嗤った。
「何が最強の剣士だ。最強はお前だよ魔王。間違いなく、最強とはお前の事だバラサーク」
「いや、違う」
魔王は何故かきっぱりと否定した。
「何だよ、嫌みかそれ!?」
「最も強き物はこれである」
魔王はちゃぶ台をぽん、と叩いた。
「儂を変えたのはこのちゃぶ台。こやつに会って、儂は悪い魔王を辞めた」
ぽかんとするフレデリクに、魔王は自信満々にこう言い放つ。
「残虐非道な魔王バラサークを、一人のおっさんに変えてしまったこのちゃぶ台。間違いなく、こやつが最強。最強とあれば他に敵無し。正しくこれが、無敵のちゃぶ台である!」




