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FIVE:敵か味方か

流れは大筋では変わりませんが、内容はかなりいじってます。

一読していただいた方がいいかも。

 


「うっわ、スカウトだって!?ねぇねぇトール、スカウトだってスカウト!!すごくない?凄いよね!」

「少し黙ってろ、カイリ。大体、スカウトを受けたのはお前じゃない、マドカだ」

「んー、でも……そもそも『第十三連隊』なんてあったかしら?」


(そう、カレンの言うとおりだ。連隊は全部で十二……十三番目なんて、聞いたことない)


 この国の国軍で一番偉い総司令官は皇帝が務めている。

 とはいえそれはほぼ名目上だけのもので、実際に指揮命令系統を取り仕切るのは元帥と呼ばれる最高職についたベテラン軍人だ。

 その元帥の直轄に四つの師団があり、その師団の下にそれぞれ三つずつ連隊がつく。

 というわけで現存する連隊の数は4×3で12となる。



 四対の色違いの瞳に力いっぱい不審なものを見るように睨まれ、ニールと名乗った男は何が面白かったのかヒュウと下手くそな口笛をふいた。


「へぇ……スラムのガキなんてただ粋がってるだけの小汚いヤツらだと思ってたが……お前ら、面白(おもしれ)ぇ。これもスラムを立て直したっていう『女神様』の恩恵ってやつか?」

「……『女神様』?なあに、それ。新手の宗教かなにか?」

「とぼけるつもりならまぁいいけどな。お前らだって知ってんだろ?このスラムが『最下層地区(スラム)』じゃなくなったことは、もうお偉方も把握してる。それをやった功労者が誰かってこともな。その上で、『奇跡の天才』をスカウトして来いって命令されてんだよ」

「そうですか。それじゃこんな子供(ガキ)で残念でしたね」


(このところ軍があちこち探ってたのは、そのスカウト命令のこともあったのか。だとしても、まさか軍にこんな小さな子供を入れようなんて思わないはずだし)


 実際のところ、軍に入れるのならその方が都合がいいことはわかっている。

 離れとスラム、その両方を行き来しながら生活するにも限度があるし、抜け出していることがもしバレでもしたら変態貴族の後妻コースまっしぐらだろう。

 だが早いうちに軍に入ったとなれば一応家の体面も保たれるだけでなく、彼女的には衣食住が保証されて更に訓練までつけてもらえるのだから、願ってもないことだ。

 軍内部でのいじめや差別、セクハラパワハラモラハラなどはスルーすれば済む。


 の、だが……独り歩きしすぎた噂をもとにスカウトにやってきた方とすれば、まさか十歳のしかも女の子を連れて帰る選択肢などないだろう、とも思う。

 軍といえば女性も所属はしているがほんの僅かで、殆どが男性……つまりは男性上位の組織だ。

 そんな中に幼女を放り込めばどうなるか?

 まさか想像がつかないということもないだろう。


 どうですか?とリアクションを待っているマドカを見下ろし、ニールは「うーん」と腕を組んで唸りを上げた。


「どうだろうなぁ……俺ぁただ、『奇跡の天才』を連れてこいって言われただけだしな。けど、さっきも言ったがお偉方はある程度調査し終えてんだよ、その天才がまだちっせぇ子供だってことくらいお見通しのはずだ。その上で連れて来いって言われてんだから、ガキだからってがっかりされることもねぇだろ」

「呼ばれているのは私だけですか?」

「『奇跡の天才』を連れてこい。俺が命じられてるのはこれだけだ。それが一人だけだとか、余計なやつは連れて来るなとか、そんなことは言われてねぇよ」


 それなら、とマドカは他の三人を見渡してから「わかりました」と頷いた。

 三人も、仕方なさそうに頷く。


(『奇跡の天才』……そう呼ばれてるのは私だけじゃない。私達四人が分担してやったことが、結果的にそう呼ばれただけだから)


 ただ、事情があって矢面に立ちたくない他の三人に替わって、マドカ一人がその名前を代表で背負っただけに過ぎない。

 故に『奇跡の天才』が呼ばれているのなら、四人で出向くべきなのだ。

 それにきっと、このニールという男に命令を下したという『上司』も、その事実を知っているはずだから。





(んー、おかしいなぁ……ここ、お城だよね?なんで喋る豚やらスーツ着た蛇やらがいるのかな……うぅっ、逃げたいよぉ……)


「ん、どうした?逃げたい、と顔に書いてあるが。後悔先に立たず、と東国の先人は上手いことを言ったものよなぁ」


 フォッフォッフォッ、とまるでどこぞの異星人のような笑い声をたてたのは、でっぷりとしていてまるで子供の一人か二人入っていそうな腹を揺らした男。

 ……【皇帝陛下】と公に呼ばれている、この国で最も地位の高い貴人であった。


 この男、実力主義のこの国において皇帝を名乗っているだけあって、ただのデブではない。

 駆ければ猪の如く、斧を揮えばオーガの如く、外交手腕は狸の如く、腹黒、非情、無慈悲、と恐れられるほどの実力者である。

 そしてその豚……もとい、皇帝陛下の斜め後方からじっとりと睨みをきかせてくるのが、細く鋭い目をしたひょろりと縦に長い体格の男……『スーツを着た蛇』とマドカが内心そう称したこの男こそ、皇帝陛下にかわって外務・内務を取り仕切るこの国で最も忙しい男、宰相閣下その人である。



 存在しないはずの第十三連隊長に連れられ、ガタゴトと煩い古びた馬車に揺られ続けて数時間。

 まさか連れて来られたのが皇帝の住まう城だとは思わず、全員目を見開いて絶句していたところをあれよあれよという間に城内へ拉致され、メイドや侍従達によって磨かれ、あれ、これどこかで経験あるぞ、とマドカ一人がそう既視感にとらわれていたところで、放り込まれた部屋で待っていたのがこの豚と蛇である。


 状況を把握したマドカが、まず慌てて跪いた。

 それに倣って一番年長のトールが、そして聡いカレンが隣にいた最年少のカイリの頭を押してほぼ同時に。

 それを見ていたブ……皇帝は愉快愉快と腹を震わせ、「面をあげよ」とだけ告げて今に至る。

 ちなみに、今現在も彼ら四人は跪いたままである。



「さて、そちらの小娘は知っておると思うが、余がこの国の皇帝である。敬意を持って『陛下』と呼ぶが良いぞ、皆の者」


 なんだこいつ、と四人とも異口同音にそう思ったが当然口には出さない。

 カイリが危うく口を開きかけたところを、カレンが察して手のひらで塞ぎ、その間にマドカが恭しげに一礼してから口を開いた。


「陛下、発言をお許し下さい」

「うむ、なんじゃ?」

「陛下が『奇跡の天才』を連れてこい、とオースティン連隊長殿にご命じになったと伺いました。では、我々の素性は既にご存知ということでしょうか?」


 探るようなマドカの言葉に、皇帝はあっさりと「うむ」と頷いてから背後にいた宰相へと視線をちらりと向け、「ベックフォード、説明は任せる」と丸投げ……一任した。

 ベックフォードと呼ばれた蛇、もとい宰相閣下はゴホンとわざとらしく咳払いしてから一歩前に出る。


「アメデオ・クリストハルトの前妻、マリアンヌ・リリア・ラピュセル・ド・ローライトの一人娘マドカ、十歳。生まれてすぐに母ともども暴漢に攫われたという名目でスラムに捨てられ、母の死後はその遺志を引き継いでスラムを立て直し、犯罪者を駆逐し、国境沿いのサリダ村を魔物や侵略者から守ったという功績の持ち主」

「…………」

「『奇跡の天才』と呼ばれているが、その実他に功労者が三人。いずれも()()()()()()()ではあるが認知はされていない。……名まで明かすか?」

「……いいえ。慧眼、恐れ入ります」


 言い返すでもなく反抗するでもなく、ただ神妙に頭を深々と下げたマドカ。

 その姿を横目で見て、他の三人も不満げだった表情を改める。



(参った、降参。さすが実力主義の名前は伊達じゃないってことだよね。こっちの豚陛下も蛇閣下も全く隙がない。何言われるかわからないけど、ここはおとなしくしといた方が良さそう)


 さすがは実力主義国家のツートップ。

 二人揃って並んでいる姿は動物園に迷い込んだか?としか思えないが、その実こうして跪いているだけで半端ない威圧感で冷や汗がどんどん流れて止まらない。


 マドカの対応如何で、他の三人も態度を変える。

 それなら、余程の無茶無理無謀以外は素直に受け入れた方が得策だろう、と彼女はそう考えて口をつぐんだ。


「…………さて、クリストハルトの小娘」

「は、」

「スラムの立て直しに、平民の教育機関の設立、下水の浄化装置の開発に、辺境の村々での魔物退治及び賞金首どもの駆逐。お主らの立てた功績は国にとって非常に有益なものばかりであるが故、可能ならば仕官させたいところではあるが…………」

「陛下」

「わかっておるわ、堅物めが。成人するまでは無理じゃと、この石頭が言うのでな。仕官は諦めるが、他の者に掻っ攫われぬよう唾を付けておこうと思うての」


『唾を付ける』の辺りで、四人は頭を垂れたまま一様に顔をしかめた。

 この賢君ながらも見た目どう頑張っても『緋色の衣を纏った豚』にしか見えない中年男に、ペッペッと唾を吐きかけられる姿を想像してしまったのだろう。

 幸いというかなんというか、中年特有の加齢臭はしなかったが……まぁそういう問題ではない。



 陛下は言葉が足りなさすぎます、と説明を引き継いだベックフォード宰相が言うにはつまりこういうことだ。


 色々と功績を立てた『奇跡の天才』四人組を仕官させようにも、まだ幼すぎて周囲の敵意を集めかねない。

 ならばひとまずは皇帝の目が届くところへそれぞれ弟子入りさせ、仕官可能な年齢に達したところで改めて第十三連隊……つまりあのニール・オースティン預かりとして皇帝直属とする。


「……弟子入り、というのは?」

「然るべき地位の者に預けて、必要な教育を施すということだ。その前に、どんなことに適正があるのかテストはさせてもらうが、その結果次第で行き先が変わることになる」

「教育の名目、ということですか」

「左様。さすがに公然とこの皇宮に置くわけにはいかないのでな」


 それはそうだろう、とマドカも納得する。

 いくら皇帝の声がかりと言ってもまだ幼い子供ばかり、仕官できないまでも皇宮に留め置かれているとあれば、周囲の嫉妬を買ったり逆に取り込もうと擦り寄られたりされかねない。

 故に、弟子入りという名目でどこかの貴族もしくは役職者に預け、そこで仕官するに必要な教育を施されるということになったのだろう。


「……弟子入りはつまり、教育の名目であると同時に後見人を立てる意味合いでもある。これはわかるな?」

「はい」

「未成年のうちは、君達は否応なくその()()に縛られる。しばらくはその捨てたはずの実家の名前を名乗ってもらうことになるが、実質的には後見人がバックアップを行う。この意味がわかるか?」

「…………実家ざまぁへのフラグ」

「ん?」

「その間に立てた功績は全て後見人へ。実家は名前のみが有名になり、実が伴わないためいずれ破綻……むしろ破綻させるおつもりなのですね?」

「然り。活かしておく必要がない家ばかりだからな」


 これは面白い、とマドカはひっそりと笑みを浮かべた。


 トールは駆け落ちしてきた貴族令嬢と使用人の間の息子、カレンは貴族の一夜妻となって捨てられた平民の娘、カイリは貴族の妻が夫の兄と不貞を冒してできた息子。

 いずれも貴族の血は入っているが、実家に認知はされておらずこれまでずっと放置されてきた。

 そんな彼らが、実家の名前を使って功績を立てれば立てるほど実家の名は上がるかもしれないが、実質的な功績は全て後見人のポイントとして蓄積されていく。

 名が上がることでそれぞれの実家は得意気に交友関係を広め、無駄遣いをし、己の天下のように振る舞うかもしれない。

 だが、査定の時にその思い上がりは叩き潰される。

 その時までに彼ら自身の立てた実績がなければ、貴族としての名を取り上げられ平民として放逐される、ということなのだ。



「全力を尽くします」

「うむ。……ではお主らは今この時より余が『子飼い』とする。……いい拾い物をしたようじゃ、感謝するぞ『レグザフォードの曲者』よ」


 振り返り、ニヤリと笑みを浮かべた皇帝の視線の先。

 そこには大きな姿見があり、デブとヤセとチビ四人の姿をはっきりと映し出していた。




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