番外編:情報サイト編、GM・サルバトーレ編
-情報サイトの公式イベント感想欄編-
情報サイトの中でも、SSSOの意見交換の場として利用頻度の高い本サイトにて、SSSOの公式初イベント『第一回 モンスター襲来』に関連する簡単な情報と共に、イベントの話題についての意見交換の場が設けられている。
意見交換といっているが、実際はもっと気軽な一言コメントのような類のチャットや感想欄のようなものと説明した方が良いのであろうが、この何気ない書き込みを纏めると質疑応答がきちんと出来ている内容になるのだから不思議である。
ここでは、纏める前の記述をそのまま載せたいと思う。時系列としては公式サイトにイベントの映像をMAD化したようなPVが公開されて数時間後というところである。
開始早々突っ込んだら、速攻死んだ。けど、楽しめたかな。
合掌、お疲れ。参加したかったなー。
不参加でイベント気になるやつは公式のPV見ればわかる
合掌。PVみたよ。
すげー迫力だったよな。ってか、運営の仕事早すぎじゃね?
俺もPV見たけど、出来が凄い。適当にパパっと作った感じは全くないね。
アップした時間考えると、徹夜確定だよな? それでも時間足りなくね?
同業者視点から答えるなら「良い絵が撮れたから作ろう」ではないのさ。
なるほどね。それなら納得しちゃうね。
理解出来ない僕がいる。。。
えっと、イベント前からPV作るって決めていたら、俺ならイベント中の沢山の映像から良いのを見繕っておいて、後から編集でつなぎ合わせるかな。
もちろん、一人じゃなくて、アシスタント何人かつけるよね。
わかりやすい説明ありがとうです。理解出来ました。
でかい ふとった オーガみたいの なに?
でかいモンスターはオーガロード。今回のボスみたいだね。
PVのオーガロードと対峙するプレイヤー達の人数にばらつきあるのは、街や門が違うせい?
そだよ。集まった人数違うし。
いちおう各門のボスは全てオーガロードだったっぽい。
その中に1パーティくらいしかいないのあったけど、あれは負けか?
いや、あれは勝った。
マジかよ!?
あれはデミア東門だね、職人による支援が100人くらいいた。
それはそれですげーんだが。
オーガロード戦までいけた門は、全て勝ったんじゃねーの? 俺の知ってる限りだが。
勝敗は情報あるけど、どこまでって纏まってないね。せっかくだからアンケート内容に追加してくる。
さんきゅー。勝敗時の状況がわかれば、次のイベントに活かせそうだ。
PV見て気になった部分が。途中ゴブリンが広範囲エフェクトで30体近く消えていったのは魔法かな?数人で同時にうったとか?
いやいや、範囲魔法使えるやつは少ないぞ。それに範囲も4~5体分くらいしかない。
必殺技じゃね?範囲のあるから数人同時ならありえるっしょ。
数人同時かぁ。PVみた感じの範囲だと、1パーティ全員で息をあわせてってところだな。
あれ、じつは、一人でやってたっぽい
は?
え??
なにそれ?
くわしくはわからない、けど、一人の必殺技で消えていったよ
1人だって?いくらなんでも、それはないだろ。ワイド系もこんなに広範囲の技は見たことないぞ。
横からだけど、この話は本当。デミアの職人なら結構な人が目撃したはず。でも、本人特定して直接聞くのはNGで。
このゲーム、チートってほぼ無いんだよな。でも、不具合の可能性はあるから、運営に質問しておく。
質問よろしく、そして出来れば白黒のフィードバックもよろしく。デミアの職人といえば東門か。確かバリケード無かったはずだよな?
そうそう、バリケード無いって情報で襲来無いと思った人が、大多数のはずだよね。でも、大量のゴブリンが襲って来た。
親方の集合で集まった時には、ゴブリンだけ100体くらいに見えた。職人達でかわるがわる迎撃しながら門を守っているうちに、1000体を超えるゴブリンになったね。
職人の協力半端ないね。100人くらいの職人が集まったって話だけど、それでも良く凌いだと本当に思ったよ。
訓練所のNPC教官が、元騎士を実戦で証明してくれたのもかなり大きい。守護神と言ってよいくらいの活躍だった。
それでも途中でまずい局面もあったんだよな。結果的には外からの援軍に助けられたのだが。
その外の北側から援軍にきてくれた人は、全部で何人ほどいたのかわかる人いますか?
門前に合流できたのが2人というのは知っている
全体で1000体を超えるゴブリン集団に北側から援軍として当たって、門へ到達できたのが2人ってことか? 普通に考えれば2人でも到達できたことが凄いな。
きっと北側から数パーティで攻め込んだけど、東側から覆うように挟まれ徐々に飲み込まれていったのでしょう。2人はイチかバチかの勝負で抜けて来たと。
話の流れから3~4パーティはいそうなのだが、2人以外の情報はないのか?
2人以外見ていない・・・まさか!?
おいおい、変なフラグは立てなくていいぞ。
ハッキリ言っておく。他の援軍については、そ の 2 人 も見ていないそうだ。察してくれ・・・。
察しました・・・確かに援軍来る前は、前線維持精一杯でゴブリン押し戻すのは支援攻撃メインが、援軍2人と教官で維持どころか殲滅速度まで上がりましたからね。
察しておこう・・・あの時の親方の指示には驚いたね。俺前衛してたけど、街へ戻れって。援軍見殺しか?って思ったさ。結果はありえねー強さ、そして的確な指示だったけどな。
後で聞いた話だと、援軍きてからの親方の指示って、援軍の1人が考えてたっぽい。前線の配置やら、オーガロードの戦闘と、迎撃武器の統一、一斉攻撃あたりね。
そうだよな。今思えばオーガロードが暴れまわるとか、教官が耐えるとか、一撃の威力の高い迎撃武器を準備して一斉射撃とか、随分と先が見えていたんだな。
親方の指示だから、何も考えずに行動していたよ。深く考えれば不可思議な事もあるんだけど、あの親方だしなぁ。
ちょっとまってくれ、どういう事かイマイチ理解できないのだが? デミア東門は特別な戦術でもあったのか?
ああ、各門によって指揮役が居たり、パーティ単位で協力したり、無連携だったりとバラバラだったと思われる。その辺の推移を各門の結果と併せて載せされるように枠だけ用意し終わったところだ。わかる人は埋めてもらえると助かる。
まずはデミア東門の推移を簡潔に説明だけしておく。親方号令で職人集まる→教官と職人で防衛→プレイヤー前3中2後3回1の参戦で安定→殲滅は職人迎撃が主→回復MP尽きる頃援軍着→教官と援軍で前線維持→回復したプレイヤー参戦→オーガロードは教官と援軍と一部プレイヤーで対峙、他はゴブリン殲滅→ゴブリン殲滅後迎撃武器統一、準備→オーガロード咆哮後、教官耐える、迎撃武器一斉攻撃→プレイヤーの攻撃で止め
基本の指示だしは親方だった。オーガロード戦の指示は、援軍の1人が行っているように見えた。俺からはそれくらいか。
あの場で回復を担当した者です。援軍の1人に、オーガロードが猛攻したら教官へ最大支援するよう指示をされました。教官がタンク役をするように話が決まっているようにみえました。
PVで違和感を感じたのは迎撃武器の統一だったのか。オーガロードへの一斉射撃といっても次々と攻撃するのだが、何故か統制の取れた印象を受けていた。今、再確認して納得したところ。
短いが、あのシーンは良い出来だな。なんかこう結束力を感じられる。
グサビの猛者でも、オーガロードの猛攻でそれなりの被害が出ていたが、戦闘職の劣るデミア東門が勝てた理由がわかった気がする。達成感、半端なかっただろうな。
ああ、始めの方から参戦していたが、オーガロードを倒し防衛成功のアナウンスが流れた時は、本当感極まった。
うんうん、周囲の人達と、みんなで喜びたたえ合ったね。
でも、善戦が報われず、防衛失敗した門も結構あるんだよね。負けた方の経緯も知りたいな。
ルーエで頑張ったつもりなんだが、一言でいうと「何か一つの強みが無いために負けた」だったな。人数はそこそこ、突出した強い人はいない、パーティ単位で各々頑張っていたのだが、どこかが崩れたところで雪崩れ込まれての負けや、パーティ単位でジリ貧になって潰れていく感じだった。1.5倍以上の人数や、先行組クラスのパーティ2つくらいや、全体の連携のどれかがあれば防衛成功した可能性が高いと考えると、結構悔しい。
ルーエは全体の割合からすると参加人数が少なかったという報告もあったよね。
防衛に失敗したことは悔しいと思うけど誰も責めてはいけないと思う。初イベントでプレイヤーの連携を求めるとかはムリゲー。デミア東門は奇跡と考えた方が正しいよ。
成功したら嬉しい、失敗したら悲しいと思う。でも、負けたからといっても、参加しなければ良かったとは思っていないはず。わたしは、次こそ防衛したいという気持ちです。
俺も失敗組だけど、別に凹んではいないね。悔しいって気持ちはあるよ。でも、イベント自体は凄く楽しかったと思う。次は守りきって、みんなとの達成感を味わいたいとも思うし。
この流れからちょっとズレるけど、失敗したけど報酬結構もらえたんだよね。めちゃくちゃ頑張ったからかもしれないけど、活躍に見合った分もらえたから、やる気は上がったよ。
報酬と言えばカタログだな。すっげぇ迷ってるぜ。
あぁ、またカタログ話が再炎しそうだ。
誰かの予想通り、カタログの何が効率が良いという話から、スキル習得は条件を満たしていないと一覧に表示されないという情報まで飛び交い、半日分がカタログ話で埋まることになる。
-情報サイトの公式イベント感想欄編 完-
-GMサルバトーレ編-
僕は猿田明彦、27歳、独身男性。理系の四年制大学を卒業し、現在の会社へ勤め始めてから3年が経過する。
この会社は人工知能の技術力が国内トップ3に入るそこそこ有名な企業で、僕はここの人工知能のソフトフェア部門の開発と保守に携わっている。
システムエンジニアという肩書ではあるが、人工知能の保守がヘルプデスク業務に近いこともあり、僕としてはヘルプデスク要員と認識している。
一大プロジェクトとして、SSSOの人工知能技術の提供と保守を一手に受ける事になったが、ゲーム内プレイヤーのトラブル対応も人工知能で大半を処理する為、一部のGMコール対応も弊社が担当する。
SSSOの人工知能の多くは実体を伴わない、監視や情報収集を基本とする君のような存在だ。但し、今のようなメンテ作業等で疑似的な実体を用意している理由は、対話がし易いからというのが大半かな。
ここまでの僕の自己紹介に不明な部分はないかな……ないようだね。よし、チェックを終了し、Cプランによるデミアの監視をスタート。
僕はいつものように、SSSOの人工知能の保守業務をしながらゲーム内のGMコール待機をしていた。
SSSOのプレイヤーからのGMコールの8割以上が、人工知能で対応可能な内容となる。基本はマニュアルに記載してある内容であったり、お答え出来ない内容だ。
そして、GMが対応しなければならない内容の内、大半を占めることは大きく2つに分かれている。1つはセクハラやストーカーといった迷惑行為。もう1つは罵声や暴言等の迷惑行為だ。
どちらも人工知能の情報収集によって白黒はハッキリしている。GMからの注意喚起という意味が重要であり、言うことを聞かなければログイン出来なくなるだけだ。
今日はGMコール作業が全くなく、順調に人工知能の保守が進み、本来は迷惑行為ではなく致命的な不具合報告でコールされるものだと考えていると、まさしく考えていた内容のGMコールが来てしまうのであった。
GMコール担当の人工知能から、直接対応の依頼が届いた。…アイテム増殖系の不具合報告?余計な事を考えているからフラグが立ったかと、SSSO内の該当プレイヤーの位置へ瞬間移動する。
目の前に見えたのは、白髪に近い髪の毛を立たせた優しそうな瞳の、お腹がポッコリでている雑巾という名前のおっちゃんだった。僕はお決まりの挨拶を口にする。
「サポートのご利用ありがとうございます。
わたくし、ゲームマスターのサルバトーレ=カンタビレ=ペレケトランポと申します。
GM・サルバトーレとお呼びください。」
そして雑巾さんから必殺技のワイドスローで武器が増殖したと説明を受けるが、僕はSSSOをプレイしている訳ではないのでゲーム情報に疎かった。用語辞書を駆使しつつ内容理解に努める。これならば、人工知能の方が遥かに優秀であろうと思う。
なんとなく理解出来たところで、雑巾さんに実演をお願いし完全に理解出来た。確か、A級かS級の報告事案のはずであり、運営側と開発側合同で色々する話になる面倒なやつだ。
僕自身で判断不可能な事案の為、上司の内藤さんへ緊急通達をする。内藤さんからは、直ぐに向かうとの旨と、再度実行してもらうようにお願いと、検証の準備を言い渡された。
雑巾さんに再度の実演依頼を聞くとインパクトのある方が良いか聞かれたので、せっかくなのでインパクトのある方でお願いをしてみたが、何が変わるのかはわからない。
僕としては検証準備を急がなくてはと、情報収集用の人工知能を3体準備し、ログ情報だけではなく映像情報も含め準備万全にすると、内藤さん…GM・ナイトさんが到着した。
GM・ナイトさんも含めての再度の実演が開始される。雑巾さんが手に持った3本の苦無が分裂してハリネズミのように訓練人形に刺さった。苦無は3本から15本となり、12本増えた事になるというログもしっかりと取れた。
雑巾さんにご協力いただいたお礼を言い、最後にお約束の言葉を言ってその場を後にする。
「今後も、『SOMETHING SUB STORY ONLINE』をお楽しみください。GM・ナイトでした。」
「GM・サルバトーレでした。」
SSSO内のGM待機場所にGM・ナイトさんこと内藤さんと、GM・サルバトーレこと僕がいる。内藤さんは先に戻って緊急アラートの手筈を整えるので、僕は検証結果の情報をデータ化し、外部へ持ち出す為の手続きを急ぎ進める事となった。
そもそも、GM権限ではSSSO内部の情報を外部へ持ち出す事が出来ない。正当な持ち出したい情報をデータ化し、所定の場所へ置く。用途や目的等の申請を運営側へ提示し、開発保守側の承認の上で可能となる。
今回は不具合報告として運営側で扱う事になる為、幾分楽ではあるが、承認手続き自体は結構面倒だ。
「猿田、すまないが、俺は2~3日向こうに常駐になる。なるべく連絡は取れるようにするが、SSSO関係の作業は猿田主導でよろしく頼む。」
「はい!今回のような話じゃなければ、問題無いと思いますので、大丈夫です。」
その後、僕の仕事は平穏無事に日は流れた。缶詰状態から戻って来た内藤さんの話で、不具合の原因については、投擲の仕様として“増えた分は拾えない”と記載があったが、ワイドスローの仕様としては記載がなく、開発仕様として漏れていた事が判明したようだ。
また、そもそも拾える仕様が間違っているという指摘もあったようだが、バランス調整をしっかりと検証した結果による仕様部分ということで、拾える部分は仕様通りのままで、増えた分が手に入らないよう修正するとの事である。
同様の不具合を利用したケースについても調査が入ったそうだが、無かったようである。投擲使用者が100人に満たない事、その中でワイドスロー使用者は3人であり、そのうち2人は1回きりだったようだ。
これは投擲が不利や使いにくいというよりも、コストパフォーマンスが低過ぎることによる問題のようである。一部投擲を拾えるように調整したが、戦闘中にいちいち拾いながらというのも難しいだろう。かといって攻撃力は他武器と大差がないため、それなりのコストを有する形となり、結果として散財しなければ扱えない武器という話になってしまうのであった。
現在の不具合利用者は報告者のみであり、その後の報告者の不正利用もないと言う事、更に修正までの間に不正利用される可能性も低い事から、大事にならずに済みそうだという結論に落ち着き、皆安堵したとの事である。
不具合修正は急ぎ進めるが、徹夜してまでというものではなく、公式イベント後のパッチで対応する予定と、イベントを優先した扱いのようであった。
公式イベントでは僕ももれなく人工知能の監視業務に入る事が確定している。実際、携わっている人全員が交代制で出勤しなければ回らない想定ではあるが、今回の状況を見てから人員調整を考えると言う話に決まっている。
公式イベント当日、僕は18時出社の夜勤シフトとなっていた。イベント開始1時間前にGM・サルバトーレとしての準備と監視を始めていると、運営側よりAIを持ったNPCへの指示が入った。AIを持ったNPCは少ない。実装しているAIが高性能仕様である為、サーバへの負荷が高く、様子をみている状態である。調整中ということもあって、運営側より直接指示をされると認識齟齬の発生する可能性が高まる為、僕たちから伝える運用となっている。
“教官アイバンへ、デミア東門の防衛へ参加する事。但し、死守する必要はない事。防衛失敗後は、訓練場へ戻る事。”という運営側からの指示内容であった。
僕は、AI専用の個人チャットのような会話機能を使って、アイバンへ運営側の指示を伝える。
「アイバンへ運営からの指示だよ。イベント開始後、デミアの東門の防衛に参加して。それで死守する事はないって態々(わざわざ)言っているから、頑張って成功させようというよりは、少し頑張ったけど力及ばずという演出だと思うよ。あと、防衛失敗したら訓練所へ戻ってね。以上だけど、良いかな?」
「ああ、わかった。デミア東門を俺が死なない程度に防衛して、終わったら訓練所へ戻るってことだな。」
「あらあら、アイバンはいいわね。わたしなんて、ここでずっと立っているだけよ。」
「あれ?なんでアイリシアも繋がって…。操作ミスったか?」
「うふふ、とても暇だからアイバンとお話しているところに、GM・サルバトーレが入ってきたのよ。」
「おいおい!勝手に回線繋ぐなって前言ったよね!はぁ、…まぁ、暇な気持ちはわかるから、ほどほどに頼むよ。」
若干予想外の出来事はあったものの、AIを持ったNPCへのイベント指示を終え、イベント中のGMコール待機をする。そして、公式イベント中及び、後のGMコールによる個別対応もなく、僕の業務は終了した。
公式イベントが終わり数日経過した頃、AIを持ったNPCである教官アイバンの事情徴収…ではなく、メンテナンスをしていた。
「…うーん、その返事からすると、伝えた指示通り防衛をしていたんだよねぇ、途中、ま、で、は?」
「あぁ、そうだな。防衛を成功させたい考えになってしまったのは、あの2人組が来てからだ。前衛にいた3人のプレイヤーと、後衛で魔法を使っていた4人のプレイヤーをHP・MP回復に下げて、俺との3人で前線を維持すると聞いた時に、火が着いた感じだ。」
「ふむふむ、逆境に向かっていく精神に対しての情のようなものかな。力になってあげたいとか、手伝ってあげたいとか、そういう感じ?」
「指示を聞いた瞬間は、そういう考えがあったのだと思う。後、はじめた当初から知っている奴らだったから、成長を見てみたい部分もあった。」
「そうなんだ。そこは理解できるね。それで、一緒に防衛してみて、何かあったんだよね?」
「それまでは耐える事で前線を維持し、迎撃アイテムの支援攻撃で殲滅する流れ、というよりはこの戦法しかとれなかったと思うのだが、2人組はゴブリンを殲滅しつつ前線を維持し始めたんだ。何故かは解らないが、気付いたら俺もゴブリンを2体同時に切り伏せていたのを覚えている。倒すようにと明確な指示を受けたつもりはないのだが、倒す事が当たり前のようなそういう状況であったと思う。」
「うーん、その2人組は強かったと思うから、触発された可能性が高いとみるかな…、顔見知りという部分もあるから尚更と。2人組が参戦した時の指示は、3人で前線維持する以外にはなかったって事でよいよね?」
「他には、前線維持に含まれるかもしれないが、門の南側を壁沿いに任されたくらいだ。右手の片手剣で薙ぎ払い、左手の盾で防御という機能が活きていたな。今考えると、盾で防御した隙だらけのゴブリンは、雑巾が倒していたと思われる。」
「あれ?雑巾?って、もしかして投擲使うプレイヤーかな?」
「そうだが、GM・サルバトーレに知っているプレイヤーがいるとは吃驚した。」
「GMコール絡みで少しね。それにしても、さっきの話からすると、アイバンがゴブリンを倒すようになったのは触発だけではなくて、そういう状況にされた部分もあるみたいだね。指示が偶然なのか意図的なのかは気になるところだねぇ。まぁ、ここは良いとして、次のオーガロードの猛攻を耐えた話になるけど、自発的に提案したって本当?」
「あぁ、オーガロードの猛攻についての情報は持っていた。2人組がそのような会話をしていたから、俺がスキルを駆使して3分耐えられる事を告げた。俺が言わなければ、タツヤが盾役をやる事になったと思うが、それでは攻撃力が落ちる為、俺が盾役となるのが一番効率が良いという事を考えていた。」
「アイバンの考えが間違っているとは、僕は思っていないからね。その状況下だと逃げるわけにもいかないし、オーガロードを倒して防衛成功する方向じゃないと、アイバンが倒れるって話になっちゃうからね。今聞いた情報で、プレイヤーの干渉によって指示と異なる行動になった部分は簡単に説明できるから、今回の件はこれで良いかな。」
「わかった。」
「それにしても、雑巾さんに少し興味が湧いてきたね。普通のNPCへの接し方では、AIであろうと名前を憶えてもらえないのに、アイバンにとっては、成長が気になるほどの関係となっていたと…。」
「今は、戦友という言葉が、一番表現出来ているという考えだ。」
「なるほどね。僕も雑巾さんとの接点を何か考える事にするよ。できなければ監視対象にしての情報収集かな。合法的な部分だと少しだけど。それではアイバン、メンテナンスモードを解除して通常モードに切り替えるね。よろしく。」
僕はアイバンのメンテナンス後、SSSO運営より依頼のあったAI-NPCアイバンの調査報告書を纏め提出した。アイバンが運営側の指示通りに行動しなかった点を言及したいようだが、SSSOに詳しい職場の人間に聞いた話では、デミア東門はバリケードが無いのに襲撃され、プレイヤーが奮起して守り切ったらしい。そこに運営側の意図が潜んでいるとしたら、防衛失敗させたかったという事だと直ぐにわかる。これも大半のプレイヤーが気付いているらしい。アイバンは防衛成功に加担した結果となるので、言及したいのだろうが、それが解っていたので、プレイヤーの行動に干渉されたという根拠を割り増しで纏めておいた。
その後は、日々の業務を消化しながら、雑巾さんとの接点についての調査をしていると、丁度良いものをみつけてしまうのであった。
SSSOの運営企業が過去にサービス開始したMMOゲームの統計情報の一つに、GMコールに対するデータがある。大半がマニュアル対応可能な内容であるため、人工知能による判断及び回答が非常に効率よく推移している件が大きく取りざたされているが、この統計の中に、不具合報告のGMコールをした人の内、致命的な不具合発見者が再度致命的な不具合を発見する確率が非常に高いというものがあった。
これを踏まえ、サービス開始後の致命的な不具合報告者へGMがフレンド登録し、気軽に声を掛けてもらえる環境を作る計画がSSSOにあったのだが、報告者がおらず頓挫していたのであった。
僕は早速この企画を実現化するべく行動を開始した。元々用意されていた企画であった事、申請受理後は僕の会社側主導であった事によってすんなりと実現が完了する事となった。
内藤さんには、この企画を進める経緯を聞かれたが、本当の事を伝えると内藤さんも興味が湧いたようで、良き理解者となった。
満を持して、GM・サルバトーレは雑巾とフレンド登録する事となる。GM・サルバトーレのチャット可アイコンが表示されている間は、ゲーム内の話に限るが、些細な質問や意見でも気軽に声を掛けて欲しいとの事である。
しかし、滅多に夜勤シフトをしない、休日出勤もしないGM・サルバトーレの勤務中に雑巾がログインする事は稀であった。
更に、雑巾はゲーム内の疑問や意見がある時のみ利用するつもりであり、暫くの間、思いつく事は無かった。
そんな雑巾に対し、暴走ともとれる行動を始めてしまうGM・サルバトーレなのであった。
-GM・サルバトーレ編 完-
執筆に苦労しお時間が掛かってしまいましたが、無事投稿する事が出来ました。
以上を持ちまして完結とさせていただきます。
お読みくださり、誠にありがとうございました。