2話:キャラクター作成
現実世界パートが続きます
-土曜日-
朝から両親と外でモーニングを済ませた後、両親はショッピング、
俺は部屋の整理を始めていた。
午後4時、無事機材の設置と接続が完了し、シャワーで汗を流した後、
SSSOの初回起動を始める。
リクライニングチェアーに座り、足首をバンドで軽く固定する。
フルヘルメットの上部にある電源を入れ、頭からかぶる。
手は肘掛上にある手袋のような筒状の中へと突っ込む。
VR画面上には、“接続確認中”の文字が出ており、暫くして“起動準備確認中”へ
変わった。数秒後、“起動準備確認完了”の文字と音声が流れ、画面が切り替わる。
アカウント登録と機材の認証は既にPCにて済ませており、生体認証による
個人確認が始まった。
Oβでは、1つのアカウントに2人まで登録可能となっている。
但し、アカウント登録した機材からのみなので、同時接続は出来ない。
うちでは俺しか利用しない予定なので、2キャラ目を自分で作っても構わないが、
念のため2キャラ目は残しておくことにする。
生体認証がどのようなものであるかわからないが、無事認証できたようである。
次の画面へ切り替わると同時に、身体に若干の違和感があった。
画面には半透明の青い壁のようなもので覆われた空間が、一人称視点で
表示されていた。
何気なく左右へ振り向いてしまい、そのような空間にいることを把握した。
先程の身体の違和感は、脳波と身体への制御が入ったことによるものだと
なんとなく理解し、目の前に表示されているウィンドウのようなものへ
視線を向ける。
ウィンドウにはゲームキャラクター作成時の注意事項が表示されていた。
事前に公式ページで確認していたので、流し読みし、同意するボタンへ
半透明となっている疑似的な自分の手で触れる。
次に、キャラクター作成であるが、性別は現実世界と同じでなければならない。
微妙な人については、公式ページに詳細があったが読んでいない。
また、身長体重といった部分についても、VR初心者は現実世界に近いことを
推奨されている。
単純に現実世界とVR世界の矛盾による脳への影響とのことだが、慣れによって
解決するらしいとの噂だ。
俺はマニュアル派なので、推奨通りにキャラメインキングする。
現実世界同様の身長・体重を基準として、かなりぽっちゃり型となる。
お腹がぽっこり出て、一昔前の大〇海時代オンラインにいたキャラっぽい体型だ。
もう少しメジャーなところでいうと、大冒険好きの商人〇ルネコの体型に近しい。
尚、キャラクターの体型容姿は後から変更することが可能であるとのこと。
ある一定の条件により、変更制限が設けられるらしいが、現時点では詳細は
未発表である。
キャラクターの顔の設定は、輪郭から目・鼻・口などは現実世界の位置と
サイズを基準に、少しカスタマイズして、ファンタジー系の優しい瞳の
おっちゃん風に。目の色は濃い深緑。
髪型は短髪より少し長めで立たせた、白髪に近い灰色とした。
髭をつけようとしたがなんとなく上手くいかなかったので無しとし、
傷やタトゥーも無しにした。
肌色を少し日に焼けたくらいの茶色にし、容姿は完成とする。
そして、一番重要な名前。変更不可であり、全サーバ共通で一意のため、
早い者勝ちとなる。
いくつか候補を用意しているが、一般的な名前は既に登録されていると
考えている。
まずはダメ元で、今までのオンラインゲームで使用していた名前を入力する。
予想通り、“既に登録されている名前です”と表示される事数回、
未登録の名前を発見した。
その名は「雑巾」。
過去のオンラインゲームで使用したこともある名前なのだが、
初対面等ではあまり良い印象を与えられなかった。
「雑巾さん」と呼ぶのに抵抗があるらしく、「ぞうさん」などの別の呼び方を
される事が多かった。
俺としては掃除用具の名前、キレイにする道具という認識であるが、一般的には
名前とするには悪いイメージなのかもしれないと、その時に気付いた記憶がある。
少しの間迷ったが、容姿も含めこの名前でも良いだろうと決定ボタンに触れる。
最終確認画面がウィンドウに表示され、一通り目を通し、確定ボタンに触れると、
ウィンドウが消え、機械的な女性の声が聞こえた。
『キャラクター登録が完了しました。体験フィールドへ移動します。』
VR画面が暗転し、直後、目の前に景色が広がった。
丸太小屋のような建物がいくつか立ち並ぶ、長閑な村のような風景が広がっている。
『体験フィールドです。歩く、走る、跳ぶといった動作に問題がないことを
確認してください。具合が悪くなった場合は、直ちにログアウトしてください。』
機械的な女性の声のアナウンスが終わり、周りを見渡すと、広場の中央に
各種説明の案内ウィンドウが並んでいた。
“メニューウィンドウの開き方は、左右どちらかの手の人差し指と中指を上に立て、
腕を下へ下す。または、「オープンメニュー」と発声する。”
“ログアウトの仕方は、メニューウィンドウからログアウトを選択する。”
など、基本操作及び、注意事項が画像や絵も交えて書かれていた。
案内板から視線を外し、他の場所を見ると、人は見えなかった。
自然に歩いていたが、全く違和感がなかったことに気付く。
屈伸や、身体を捻ったりしてみたが、何も問題はない。
その場でジャンプしてみたが、こちらも問題ないどころか、現実世界より
身体が動くと感じた。
軽く走ってみるが、こちらも現実世界より楽であった。息切れもない。
メニューウィンドウを手及び、声で開いてみるが、どちらも1回で表示された。
メニュー欄に表示されているいくつものコマンドにも触れて確認してみる。
ステータスや、スキル、アイテムバッグ等のコマンドに触れると、
別のウィンドウが現れるが、何も記されていない状態であった。
メニューウィンドウを操作している時に、ふと、コマンドへ触れた時の感触が
あることに気付いた。何気なく、自分の服へ触れてみると、布を触っているような
感触があることがわかった。試しに地面へ触れると、固い感触があった。
ここにきてVRが現実に近付いているという感動の感情が込み上げてきた。
それから30分程、いろいろ見たり、動いたりしている時に、アラート音が聞こえた。
アラートの音声より、外部干渉のアラートであるらしい。
更に、母親の俺を呼ぶ声が聞こえた。
公式ページの注意事項で読んだが、現実世界の身体に何かしらの影響や問題が
あった際に、アラートによって通知されるとのことである。
身体に触れられたり、近くで呼びかけられたり、尿意便意もアラートとなる。
プレイ時には15分間の無敵離席が可能となるようであり、細かいルールはあるが、
現実世界に配慮されている。
とりあえず、親が帰ってきたので、メニューウィンドウからログアウトを選び、
はいボタンに触れると、VR画面が徐々に暗くなり、“ログアウト完了”の文字が
表示された。
現実世界の身体に違和感はなく、ヘルメットを外すと、母親が横にいた。
「それ、本当にゲームなの? それにしても凄い・・・
あ、夕食出来てるけど食べる?」
「食べるよ。これ外したら、すぐ下に行くね。」
ということで、ヘルメットの電源を切り、リクライニングチェアーの電源も切り、
少し身体を伸ばしたりして何も問題無いので、1階のリビングへ向かった。
夕食の中で、VR中に用事があったときは、軽く肩を叩いて用件言ってくれれば、
暫くして戻るという話を両親に説明しておいた。
キャラクターも無事作成出来、Oβ(オープンベータ)開始まであと5日の間に、
ある程度の情報、特にスキルについて仕入れておかなければならないなと考えつつ、
今日は就寝とした。