26話:公式イベント当日
-土曜日-
仕事の疲労が溜まっていたのか、随分と寝込んでしまい、今日は10時過ぎに目が覚めた。
タツヤからメッセージが届いており、今日は仕事になったがイベントには間に合う予定とのことだ。
両親は既に出掛けているようだったので、トーストと目玉焼きで朝食兼昼食を済ませ、11時過ぎにSSSOへログインする。
ステラがログインしていたので、取り敢えず個人チャットで挨拶をすると、応答があった。
「ぞうさん、こんにちは。
作った防具がだいぶ売れましたので、清算したいと思いますが、これからログアウトしなくてはならないので、あとでも良いでしょうか?」
「全然急がないから、お互い時間のあった時で良いですよ。」
「ありがとうございます。助かります。それでは、失礼します。」
「おつかれさま。」
特に予定を決めていなかった俺は、公式イベントまでの間、何をしようか考える。
タツヤはデミアの街でログアウトしたと聞いているが、仕事という事だからログインは夕方以降だろう。
そうなると移動の時間は無いと見た方が良いので、イベントはデミアの街で参戦となる。
近場で狩りしてスキル上げか、投擲補充の為にジニアに掘りへ行くか、なので倉庫へ向かい在庫を確認する。
[分銅]x164、[炸裂丸]x95、[飛苦無](突)x131、[飛苦無](打)x28であった。
店売りの[石ころ]メインで考えるならば問題無いが、少しばかり数が心配になった。
鍛冶スキルが上がれば、有効な投擲武器も作れるかもしれないという期待を込めて、採掘しての投擲補充をする事に決めた。
ジニアの街までは、もう慣れた道なので早足で移動する。
馬等の乗り物か、ワープゲートのような物が欲しい。
SSSOはMMORPGとしては珍しく、瞬間移動系は死に戻りしかない。
騎乗生物については今後実装されるはずと、個人的に願っている。
途中のルーエの街では、特殊スキルNPCのアイリシアが一人ぽつんと立っていたので、今回は声を掛けてみた。
新たに習得可能なスキルは特化派生で習得しなかったスキルのみだったが、過去に数度スルーした事を指摘され、冷や汗が出てきた気分になった。
そんな細かい所まで見て覚えているとは、AI(人工知能)恐るべしだ。
その後、好戦的MOBも数匹遭遇したが、サクッと倒し、無事ジニアの街へ到着した。
採掘準備をし、閑古鳥の場所へ向かう。
最初の広い場所に人は居なかったが、いつも通り次の広い場所で掘る。
1時間と少し掘ったところで、採掘スキルがLv50MAXになった。
採掘スキルも特化派生があるようで、石、一般鉱石、特殊鉱石となっていた。
完全生産職の人ならば複数習得するのだろうが、俺の場合はどれかに絞る必要がある。
石も[炸裂丸]で使うし、一般鉱石と思われる鉄や銅も使用範囲は広い。特殊鉱石は浪漫に溢れている。
視点を変えて、需要と供給から見ると、石はたぶんゴミ扱いであると思う。
後で競売に出ているか確認しておこうと思った。
鉄や銅は、需要も高いがその分供給もあると予想する。
ある程度の相場で安定しているだろう。
特殊鉱石は、ピンキリと考える。
使えるものは高価で、使えないものはゴミ扱いと思うが、使えるものの供給は少ないとみた。
ここは自分の直感に従って、供給の少ないと判断した特殊鉱石の特化派生に決める。
特殊鉱石を習得後、採掘を続けると、5分程で重量オーバーとなったので、一度ジニアの街へ戻る。
次の採掘準備の際に、採掘を特化派生させたので、鍛冶ギルドで[中級採掘道具]を購入した。
道具のグレードアップによって、どのように変わるのか楽しみだ。
離席休憩をはさみ、いつもの採掘場所で掘りを再開する。
先程までとは、掘れる種類と量に違いがある気はするが、細かい事は統計を取らないとわからないだろう。
50分程で重量オーバーとなった。重量のある鉱石が増えた可能性もあるが、中級道具によって採掘量が変わったと感じている。
[鉄鉱石]x25
[銅鉱石]x20
[石]x5
[砕散石]x20
[弾飛石]x20
[寒冷石]x5
[温暖石]x5
他鉱石各x3~6
今回の結果だけでは、銅と石が減り、他鉱石が増えた感じだ。もちろん誤差範囲の可能性は高い。
ジニアの街を往復し、採掘を再開する。
45分程で重量オーバーとなった。他鉱石の量が徐々に増えているのは、採掘スキルが上がっているせいかもしれない。
ジニアの街で離席休憩を取り、単調作業が苦にならない俺は、まだまだ頑張るぞと採掘を再開する。
採掘スキルのLvが上がってきたお陰か、ここで初めてみる素材である[輝銀稀鉱石]を2個掘り当てた。
名前に稀と書いてある鉱石なので、レアなのであろう。
もしかしたら、これがミスリルなのかもしれない。
45分で一度の2個だけであったのは残念だが、ジニアの街へ戻り、鍛冶ギルドで製作レシピを確認すると、インゴットには加工出来るようだが、鍛冶スキルが足りない為、名前等はわからなかった。
次の採掘でデミアの街へ戻る時間だと考えながら、稀鉱石よ出ろ、と物欲全快で採掘を再開する。
45分程で重量オーバーとなった。
物欲センサーに引っかからなかったのか、[輝銀稀鉱石]は二度当たり、5個入手した。
ジニアの街へ戻り、デミアの街へ行く準備を終えると、すぐに出発する。
道中はこれといったこともなく、17時半過ぎにデミアの街へ到着した。
一旦、離席休憩を取り、現実世界の夕食の時間を確認してしまう。
今日は、両親に早めに食べる旨は伝えていたので、18時半頃となったようだ。
離席休憩から戻り、倉庫に預けている素材の確認をしてみる。
[鉄鉱石]x125
[銅鉱石]x95
[石]x56
[砕散石]x102
[弾飛石]x105
[寒冷石]x68
[温暖石]x65
[軟鉱石]x61
[鋭鉱石]x53
[鈍鉱石]x46
[軽鉱石]x45
[重鉱石]x39
[硬鉱石]x36
[輝銀稀鉱石]x7
結構な量を掘る事が出来たようだ。
ここから加工となると、倉庫の拡張が必要だと思うので、2,000gemを支払い10枠拡張し、更に10枠の4,000gemも支払った。
倉庫を3段階拡張すると、倉庫のある街の各ギルドの生産で、材料や作成アイテムは倉庫と直結される特典が付くという旨の説明がされた。
という事は、態々(わざわざ)アイテムバッグに素材を移す必要が無いという事かと、もっと早く知りたい情報だった。
今後楽になるのだからと気を取り直し、鍛冶ギルドへ向かう。
イベントがあるせいか、いつもよりも人が多い。
空いている作業場を探していると、突然声を掛けられた。
「おい、そこの兄ちゃん。職人探しに来たんかの?
今は、どいつもこいつも注文が一杯で、今日のイベントには間に合わんぞ。」
ドスの利いた低めの声で、俺に向けて声を掛けられたと思い、後ろを振り向くと、身長180㎝くらいの細マッチョな体躯で、かなり日焼けした感じのスキンヘッドの親父と呼ぶに相応しい人が立っていた。
「え、・・・と、俺ですか?」
「そうだ。儂の手が空いとったら・・・ん?兄ちゃん、どこかで見た事があるのう?」
ちょっと怖そうな親父風のプレイヤー、でもしゃべり方はどことなくお爺さんを思わせる。
名前はデミタスと言うらしいが、俺もどこかで逢った事がある気がしていた。
「むぅ・・・・っ!思い出したぞ!その腹!そうか、初期の頃からここに来ていた若造だったか。」
俺も思い出した、[石ころ]を大量に作っている頃に、良くすれ違ったプレイヤーだ。
会話をしたことはない。怖そうだったし、目礼くらいか?
「ちょっ、腹で思い出すって、どういうことですか!確かに特徴のある腹をしていますけど・・・。
一応、生産をしに来たので、職人探しではありません。」
「すまん、すまん。少しばかり懐かしくての。最近見かけんかったのは、ジニアにでも籠っていたか?」
「ジニアにも行きますが、一応冒険者なので。」
「そうだったか。確かに良い防具を着ておるしの。
初期から生産に手を出す者は、ほとんどが職人だからのぉ。お前さんは珍しい。
ん?その腰の短剣は・・・あぁ、すまん。私語は周りの邪魔になる、個人チャットに変えるぞ。」
と言って、通行の邪魔にならない壁際に移動し、個人チャットでデミタスと会話する事になった。
「周りの迷惑になるのもあるんだが、ちとその短剣が気になっての。
それは、もしや、[ダクタイル=ダガー]ではないかの?」
腰に下げている状態で武器を見抜くというは、どのような目と知識を持っているのであろうと疑問に思いつつも答える。
「ええ、そうですけど?」
「やはりそうか、もし良ければ見せてくれんかのぉ?寄与設定で5分で良い。」
寄与設定というのは、簡単に言うと武器や防具のレンタルという意味で、所有権は移さずに指定した時間だけ相手に貸す事が出来る。
指定した時間を超過すると、所有者に強制的に戻される。
また、使用すれば耐久度も減る為、耐久度が残り3割になると強制的に戻される。
個人情報なので口外しないという条件を承諾してもらった上で、トレード申請をし、トレードウィンドウ上で寄与設定5分を付加し、決定する。
「おお。ふむふむ、なるほど。って、お前さんが作ったのかい。冒険者なのにやりおるわ・・・。ふむ、ありがとう。」
デミタスがブツブツと言い、お礼の言葉の後、俺のアイテムバッグに[ダクタイル=ダガー]が戻って来た。
「それほど珍しい武器なのですか?」
「珍しいもなにも、[ダクタイル]自体が入手困難じゃ。量が確保出来んから、実質短剣くらいしか作れんかの。
珍しい物は他にも色々あるが、お前さんもわかっている通り、口には出せん。すまんの。」
「いえいえ、そこは理解しているつもりです。」
「あっ、しもうた、急ぎ作らないけん物があったんじゃ。呼び止めてしまって悪かったの。」
俺とデミタスはここで別れて、各々作業場所へと入っていった。
この後、デミタスはデミアの街の鍛冶ギルドで“親方”と職人プレイヤーから呼ばれ、慕われている事がわかった。
夕食まであまり時間がないので、鉱石をインゴットへ変えてしまう。全て成功した。
[鉄のインゴット]x125
[銅のインゴット]x95
[ソフトメタル]x61
[シャープメタル]x53
[ブラントメタル]x46
[ライトメタル]x45
[ヘヴィメタル]x39
[ハードメタル]x36
尚、カタカナ名の金属には、形状はインゴットのはずであるが、インゴットという名前は付かないようだ。
新たに作成したインゴットから、どのようなものが作成できるかを製作物リストで確認している間に、18時半を回ってしまったので、一度広場に戻ってからログアウトした。
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雑巾:Lv21→22 所持金:30,925→23,725gem
プレイ時間:6時間53分
総プレイ時間:3日18時間58分
筋力52→54、体力47、知力14
精神力15、持久力51→52、素早さ49
器用さ53→54、運12→13、道徳13
投擲(50)打Lv44、短剣(50)壱Lv15→16、革防具Lv54
採掘Lv45→50(MAX)→採掘(50)特(new)Lv1→24、鍛冶(50)武Lv9→11
遠見Lv31→33、察知(50)詳Lv22→23
強化1:筋力Lv45→47、素早Lv46、器用Lv51→52
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俺が少し慌ててリビングへ向かうと、両親は既に晩酌中だった。
夕食を済ませ、珈琲を飲みながら両親と談笑しつつ軽く食休みを取った後、19時20分SSSOへ再びログインする。
ログインした広場には、最近見なかったくらいの大勢の人で賑わっていた。
ここでステラから個人チャットが届いた。
「ぞうさん、こんばんは。今ってお時間ありますか?」
「こんばんは。大丈夫ですよ?広場のいつもの所に居ます。」
「了解しました。タツヤさんは、まだなのですね。すぐに向かいます。」
ここで、タツヤがログインしてきたので、挨拶後にステラが来ることを伝える。たぶん、清算の件だろう。
ステラへパーティ申請をし、パーティチャットにしてもらう。
「あっ、タツヤさんもインされたのですね。こんばんは。
お預かりしていました素材の清算をしたいと思います。
ぞうさんの言った通り、防具が飛ぶように売れて、更に大口注文も受けましたので、凄い事になっています!」
ステラが、若干興奮した感じで言い、詳細内容を記載したウィンドウをこちらへ向けてきた。
[フォレストベアの革]290(残20)枚×@750×1.6=348,000gem
[フォレストベアの爪]287(残60)個×@500×1.6=232,000gem
[森林鹿の革]112(残8)枚×@140×1.6=64,960gem
[森林鹿の角]12(残0)本×@200×1.6=92,800gem
合計=737,760gem
渡した素材量の分もあるが、何やら桁がおかしい。しかも、原価の1.6倍で売れているのか。
「原価の1.5倍程で飛ぶように売れていたのですけど、とあるギルドの方から10セット分の大口注文があって、これが特化レシピでしたので値上がりまして、平均すると1.6倍で売れました。
素材も、[フォレストベアの革]が高騰しましたが、私の方には十分在庫がありましたので、実際にはもっと得している計算です。」
ステラが捲し立てたように一気にしゃべり、暫く沈黙が続く。
「・・・いやぁ、本気で驚いた。ステラさん、相当がんばったんですね。」
俺の素直な気持ちが声として出て、ステラから俺とタツヤへ半分ずつの金額をトレードされた後、気になった事を質問する。
「ステラさんの今後必要になる素材はなんでしょう?フォレストベアはそろそろ卒業ですよね?」
「えっと、はい、フォレストベアでも良いのですが、もっと上位の素材が効率が良いと思います。
でも、競売にも出ていない素材なので、入手先がわかりません。」
「なるほど、お時間ある時で良いので、優先順位付きで素材名をまとめておいてもらっても良いですか?
俺たちもフォレストベア狩りは卒業しそうなので、次の獲物として参考にしたいと思います。」
「あ、そうなのですね。わかりました!ちゃんと確認して、時間ある時にまとめておきます。」
「お手数をかけてすみません。それと、今日のイベントは参加されますか?」
「あっ、はい!職人仲間でパーティを組んで、迎撃用アイテムで参戦することになっています。」
「おお!それは良いですね。俺たちは外で戦うので、お互い頑張って街を守りましょう!」
ここで、ステラはパーティを抜けたので、俺とタツヤはイベントに向けて準備を済ませてしまう。
俺は、倉庫の投擲武器を全てアイテムバッグへ入れ、[傷薬]を多めに買い、[石ころ]を1000個買った。
装備するのは取り敢えず、[ダクタイル=ダガー]、[石ころ]、[分銅]、[飛苦無](突)にしておく。
タツヤと相談の結果、東門はバリケードが無いので、北門の外で戦う事に決めた。
19時50分に、間もなくイベントが開始する旨のアナウンスが流れたので、タツヤと北門の外へ行く。
既に沢山の人が外に居た。ざっとみて、100人以上居ると思われる。
門前は人が沢山居たので、少し東側の壁沿いで待機する。
少しドキドキしてきたが、もう間もなくイベント開始時刻だ。思う存分楽しもうと思う。