24話:フォレストベア狩りとアライアンス
日曜日の前編です
(長文となってしまいました)
-日曜日-
今日は朝から雨が降っていた。降り止む気配はなさそうだ。
昨日買い出しは済んでいたので、両親も出掛ける予定はないようである。
朝食は、トーストと目玉焼きで両親と一緒に済ませ、俺は珈琲を飲みながら食休みとしてPC前で情報サイトを覗いている。
週末のイベントに関する憶測等々で賑わっていた。
襲来するモンスターは定番の“ゴブリン”説が有力そうな雰囲気になっている。
噂話関連として、CβとOβの当選についての情報があった。
Cβの応募数は約7千、募集枠は3千との話は、どこかで見た事があった。
俺も、龍哉も、これに落選した。
Oβでは、リクライニングチェアとヘルメットのセットを、1万台確保し、募集を開始すると、約3万の応募数があったと書かれている。
運営会社もここまでの応募数は想定外で、セットの生産を急いだが、2千台までしか増産の目途が立たず、抽選という形式を取ったとなっている。
Cβで落選した人も、Oβへ応募の確認メールがあり、俺も龍哉もこのメールからの手続きでOβへ応募した。
Oβの当選数は1万2千+Cβ当選の3千継続で、合計1万5千人となっている。
ここで、Cβ落選者は優先的にOβへ当選したと書かれているが、どうなのだろう。
確かに、俺も龍哉も当選したが、これだけで、はいそうですかとは言い切れない。
更に余談として、SSSOは大々的な広告は行っておらず、専門の情報サイトにインタビューを載せた程度であったらしいが、Cβ体験者からの口コミで拡散したと書かれている。
これにより、予想を超えるOβ参加希望者が殺到し、今後はセット生産の纏まったタイミングで再募集、抽選に漏れる人がいなくなるまではOβを継続すると締められている。
内容を鵜呑みには出来ないが、関係者からの情報のような気がするなと考えつつ、別の情報を探していく。
特に気になる情報を見つけられなかったので、食休みを終え、9時にSSSOへログインした。
まだ、タツヤもステラもログインしていないようなので、昨夜掘った素材で投擲武器を作成することにする。
[銅鉱石]x50→[銅のインゴット]x50→[分銅]x50で、在庫と併せ180個となった。
[砕散石]x40+[弾飛石]x40→[炸裂丸]x40で、在庫と併せ95個となった。
ここまでで鍛冶-武-スキルがLv5となった。上がりはかなり悪い。
続いて、[鉄鉱石]x50→[鉄のインゴット]x50から、[飛苦無]の打属性派生を作ろうとするが、[鉄のインゴット]x3消費で[飛苦無]x2作成のようだ。
それなりに消失が発生し、28本となった。
ここで鍛冶-武-スキルがLv9となった。やはり特化派生先のレシピの方が上がりが良いようだ。
まだタツヤもログインして来ないので、倉庫へ色々預けた後、訓練場へ向かう。
「アイバン教官、ご無沙汰しています。訓練人形を使わせてもらいます。」
「おぅ、雑巾か、元気でやっているか?どうせガラガラだ、好きに使っていいぞ。」
練習用の武器は借りず、[ダクタイル=ダガー]を使って攻撃する。
昨日の試し斬りで、若干だが重い気がしていたので、武器によって違いがある事の確認を含めている。
十数回攻撃した感触で、[銅短剣]より少し重い事がわかった。
扱い難いという事ではないので、慣れてしまえば問題ないと考える。
必殺技の“ダブルスラッシュ”、“ワイドスラッシュ”、“ヘヴィスラッシュ”も試し、身体に動きを覚えさせる。
暫く、訓練人形相手に練習していると、タツヤがログインしたようだ。
「雑巾、おは。」
「おはよう、たーちゃん。
すぐに熊狩り行く?」
「うぃ。行く。」
「おっけー。準備したら東門でよろしく。」
アイバン教官にお礼をいい、倉庫で戦闘準備を整え、[石ころ]をNPC店で買い込み、東門でタツヤと合流する。
狩りになるので、ステラをPTから外しておく。
狩り中の会話は、邪魔になる可能性もあるから、気を遣ってのことだ。
タツヤと週末のイベントの話等をしつつ、南東の池へ向かう。
道中の森林鹿は、いつも通り美味しく狩らせていただき、無事池のいつもの狩り拠点へ到着した。
俺は既に1時間半プレイしていたので、一度離席休憩にしてもらい、フォレストベア狩りを始める。
かなり安定してきているので、[石ころ]でWPを溜めた後は、咆哮まで必殺技を使わず、短剣メインで攻撃することにした。
短剣での攻撃で敵視が上がり、フォレストベアの標的を取ってしまう事が増えたが、タツヤが挑発と攻撃を駆使して直ぐに取り直していく。
フォレストベアの咆哮後は、俺の[飛苦無]の必殺技ワイドスローと、タツヤの必殺技2連で確殺となっている。
如何に早く釣ってくるかに注力してしまっている俺がいる程、戦闘時間は短くなっており、今日の狩りが終わったら、もっと強いMOBを探す必要がありそうだと感じていた。
途中で雑談も交えながら2時間半程狩ったところで、離席休憩を取り、また、狩りを続行する。
更に、2時間ほどフォレストベアを狩っていると、いつも釣っている場所から更に南東の方に、名前の表示されない好戦的MOBのマークが表示され、こちらへ移動している事に気付いた。
「たーちゃん!得体の知れないMOBがこっちに向かってきてる。注意して!」
「ほい。」
戦闘中のフォレストベアが咆哮をあげたので、必殺技の連続で止めを刺し、様子を見る。
「ほぼ真っ直ぐこっちに来てるね。
って・・・なんだ!?プレイヤー??」
MOBのマークより先に、数人のプレイヤーが走ってくるのが見えた。
集団の中ほどに居た、剣士と思われるプレイヤーが、こちらに走ってきながら声を掛けてきた。
「そこのお二人!今、凶悪なモンスターから撤退しているが、逃げ切れないと判断した。
突然の非礼を承知の上で、モンスターの共闘をお願いしたい!アライアンス申請をしても良いだろうか!?」
アライアンスとは、複数のPTを一つのグループにする時の呼び名だ。
まだ組む事は無いと思っていたので、詳細は確認していない。
「たーちゃん、どうする?見た目手練れのPTがギリギリ壊滅していない感じの相手だけど。
俺たちが参戦したところで全滅しないとは言えないかな。逃げるのもありだとは思う。」
「うーん、やってみたい・・・かな?」
「おっけー。結構狩りしたし、ここで死に戻っても問題ないね。承諾するよ。」
俺は、声を掛けてきたアレク=サンドへ向かって、通常チャットで返事をする。
「アライアンスの申請を受けます!」
「助かる!」
アレク=サンドからのアライアンス申請を受理すると、VR画面の左側に向こうのPTメンバー名とHPやMPのバーが表示される。
HPは、皆が半分以上減らしており、結構不味い状況であった。
「各自、手持ちのアイテムで回復!態勢を整えて、ここで迎え撃つ。」
アレク=サンドが指示を出し、PTメンバーが回復しようとしたところで、追ってきたモンスターが目視出来る距離に現れた。
ジャイアント=フォレストベアという名の、4m程あるのではないかという巨大な熊であった。
通常のフォレストベアが2m強くらいの大きさなので、遠くからでも威圧感がある。
「自己紹介している暇は無さそうですね。俺・・・雑巾は中衛斥侯、タツヤは前衛格闘です。
少しの時間引き付けますので、態勢を整えてから当たってください。」
俺は簡単に役割の説明を入れ、時間稼ぎの為に、タツヤと共に大森林熊へ少し近付く。
「すまん!が、無理はしないでくれ!
回復後、スターは魂斗羅と俺へバフ、さなはPTへバフ。
バフ完了次第、魂斗羅タゲメイン、サブタゲ俺のフォーメーションで!
だぁは周辺警戒しつつ2人組の支援に走れ!」
アレク=サンドが早口で仲間へ指示を出す。
「たーちゃん、俺から攻撃する。タゲ回しの感じで。」
「うぃ。」
大森林熊が四つ足でこちらへ走ってくる。何故かブルドーザーのように見えてきたが、俺は[分銅]を熊の顔目掛けて投げる。
クリーンヒットした感じで、大森林熊の突進の勢いがおさまり、2足で立って俺目掛けて腕を振ってくる。
でかいだけあって、腕のリーチも長く、俺はバックステップでギリギリ攻撃を躱した。
大森林熊の俺への攻撃後の隙をついて、タツヤが横から殴りと蹴りを入れ、すぐに離れる。
大森林熊がタツヤの方を向いた瞬間、[分銅]を狙いやすい胴体に当て、更に投擲する。
大森林熊の標的が俺へ向いたところで、アレク=サンドから声が掛かった。
「こちらの態勢は整った!前衛盾持ち2、中衛槍、弓、後衛魔法2の構成だ。
まずは魂斗羅と俺にタゲ固定で行く!」
「了解です。」
俺は、盾役の魂斗羅・芭栖と思われる大盾戦士の後ろへ移動し、身構える。
「お前の相手はこっちだ! 《技技》挑発」
魂斗羅・芭栖が大森林熊の敵視を取り、振られた腕の攻撃を大盾で防ぐ。
アレク=サンドは、大森林熊の斜め前から片手剣で斬りつけ、両手槍持ちの紫龍は熊の横から、小弓持ちのだぁ☆うぃんは背後から攻撃を仕掛けている。
魔法使いのスターシーカーと舞阪さなは、魂斗羅・芭栖の後ろから魔法による支援をしている。
俺とタツヤは、紫龍と反対側の熊の横から後ろにかけて陣取り、攻撃を入れている。
魂斗羅・芭栖のHPが半分程になると、アレク=サンドが挑発スキルで敵視を取り、その間に魔法使い2人が魂斗羅・芭栖を魔法で回復する。
大森林熊の手で払うような攻撃を、アレク=サンドは中盾で上手く逸らしながら、片手剣による攻撃も入れている。
かなり熟練したプレイヤーの動きとわかるが、完全にダメージを無くす事は出来ていないため、魂斗羅・芭栖に比べるとHPの減りは早い。
アレク=サンドのHPが半分近くに達した時に、全快した魂斗羅・芭栖が挑発スキルで敵視を取っていく。
標的が安定しているので、俺は、短剣による攻撃も積極的に狙っては、離脱を繰り返している。
10分程この状態が続いた後、突如、大森林熊が咆哮と共に、両腕を無作為に振り回した。
魂斗羅・芭栖とアレク=サンドは盾で防御したがダメージを負い、紫龍は避けそこなって直撃を受けた。
俺とタツヤは咆哮と同時に回避行動に移った為、ギリギリで躱すことが出来ほぼ無傷だが、その後の大森林熊の執拗な攻撃で魂斗羅・芭栖の盾での防御が追い付いていない。
舞阪さなが瀕死の紫龍を光魔法で回復し、スターシーカーが魂斗羅・芭栖を水魔法で回復しているが追いつかない。
俺は、フォレストベア狩りの攻略法をアライアンスチャットで叫んだ。
「タゲ回しと大ダメージの怯みで、手数を減らしつつ、畳み掛けるしかない!」
「わかった。」「やってみる。」「了解。」「やる!」
数人からほぼ同時に返事を貰い、アレク=サンドが挑発スキルで敵視を取った。
大森林熊が直ぐにアレク=サンドへ攻撃し、盾で受けたが流せずダメージを負う。
挑発を合図に熊の背後へ回った俺は、[飛苦無]を3本持ち必殺技発動した。
「後ろからいく! 《武技》ワイドスロー」
合計15本へ分裂した[飛苦無]が大森林熊の背中に刺さり、大エフェクトと共に熊を怯ませる。
続いてタツヤが、大森林熊の横から必殺技を連続で発動した。
「《武技》コンティニュアス・ヒット」
「《武技》コンティニュアス・キック」
各々、熊を怯ませる事が出来、大森林熊の標的はタツヤを向いた。
「《武技》ヘヴィショット」
ここで、だぁ☆うぃんが必殺技を発動させ命中したが、大森林熊を怯ませる事は出来なかった。
大森林熊の薙ぎ払うような腕の攻撃を、タツヤは屈む事でギリギリだが回避した。
紫龍と、アレク=サンドが動き、必殺技を発動する。
「《武技》コンティニュアス・スラスト」
「《武技》コンティニュアス・スラッシュ」
お互い、大森林熊を怯ませる事が出来、ここで完全回復した魂斗羅・芭栖が挑発スキルで敵視を取った。
スターシーカーと、舞阪さなも、攻撃魔法の詠唱に入った。
「《魔技》ファイア・ボール」
「《魔技》ウィンド・ショット」
この戦闘で初めて知ったが、魔法には詠唱があり、その後発動となるようだ。
魂斗羅・芭栖が大盾を駆使して大森林熊の猛攻を耐えているところで、俺は一気に近付き短剣の必殺技を発動する。
「《武技》コンティニュアス・スラッシュ」
大森林熊の背中への連続斬りで怯ませ、詠唱の完了した2つの魔法が大森林熊へと当たった。
まだ、大森林熊は倒れず、俺へ向けて腕を振るってきた。
俺は回避したと思っていたが、僅かに掠ってしまい、1m程飛ばされHPを3割程減らした。
タツヤが挑発スキルを発動し、敵視を取ると、間髪入れずアレク=サンドが挑発スキルを発動し、敵視を取った。
皆、隙があれば攻撃を繰り出しているが、なかなか倒れない大森林熊を前に、少し焦りが出始めていた。
大森林熊の攻撃を盾で防ぎながら、アレク=サンドが皆を鼓舞する。
「皆、もう少しだ!もう少しで倒せるはずだ!
気合で畳み掛けるぞ!!」
皆、気力を振り絞り、大森林熊へ攻撃を入れる。
WPの溜まった、だぁ☆うぃんと、魂斗羅・芭栖が、ほぼ同時に必殺技を発動する。
「《武技》ヘヴィショット」
「《武技》ヘヴィクラッシュ」
ここで、大森林熊がよろめき、ゆっくりと倒れ、離散エフェクトで消えていった。
「た、倒せた・・・。」
誰が言った言葉かわからなかったが、ジャイアント=フォレストベアを死者を出すことなく倒す事が出来た。
俺は、察知スキルで周辺に脅威がないことを再確認し、地面に座り込む。
「だぁ、周辺に脅威は?」
「えっと・・・ありません!」
「ふぅ。皆、お疲れ様!特に、そちらのお二人には、本当に助かった。ありがとう。」
ここで、戦利品のウィンドウが現れた。
一匹倒した割には、かなりの量の戦利品があった。特別なモンスターなのかもしれない。
アレク=サンドは、俺たちも含め平等にランダム分配としてくれた。
俺は、[大フォレストベアの革]x5、[大フォレストベアの爪]x2、[大フォレストベアの肉]x6を入手した。
皆の分配が終わったところで、アレク=サンドが再び口を開いた。
「改めて、お二人には、助力いただき感謝を。
俺たちのパーティだけでは、全滅していたと思う。
本当に助かった。」
「いえいえ。少しでもお役に立てたのであれば、良かったです。」
「アレクがあの二人誘って迎え撃とうと言った時は、正気か?と思ったけど、結果みたら大正解だ。」
魂斗羅・芭栖が地面に足を投げ出しながら、アレクの判断が正しかった旨を言った。
スターシーカーがその後に続いて発言する。
「あのままでしたら、何人かは死に戻りしていたでしょうから。全員無事なのが奇跡と思います。」
「うんうん。それにしても、二人とも強かったです。特に、タツヤさんの体裁きは中々のものですよ!」
だぁ☆うぃんがタツヤの動きを絶賛し、舞阪さなが続く。
「ヒャッとかわして、ヒョッと攻撃して、凄かったです!」
「ヒャッとかヒョッとかじゃ意味わからないから。」
紫龍が苦笑しながら、舞阪さなの発言を注意した。
「そんなに、凄くない。」
タツヤが控えめに答えた。
少しの間、先程の戦闘について雑談した後、俺のWCアラートの為、アレク=サンドのパーティと別れ離席休憩した。
離席休憩後、精神的に疲れたこともあり、デミアの街へ戻ることにする。
「あのパーティは強いね。構成もいいけど、個々も強い印象を受けたよ。」
「うぃ。特に盾2人は上手い。」
「あの盾の扱いの上手さは凄かったね。
あと、魔法使い2人も、HP減ったから回復じゃなくて、タゲ外れてから一気に回復と、ヘイト管理もしっかりしてたね。」
帰路も先程の戦闘の話をしながら、道中の森林鹿を当たり前のように狩る事も忘れず、デミアの街へ戻った。
アライアンスは解除したが、パーティは組んだままだったので、一度戦利品の整理をする。
ステラに渡す素材は昨日と同じくらいの量となっており、タツヤへまとめて渡し、それ以外はランダム分配のままとした。
俺は、ジャイアント=フォレストベア戦の影響か、かなり疲れていると感じでいたので、夕食風呂後にログインする予定をタツヤへ伝え、一度ログアウトすることにした。
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雑巾:Lv19→21 所持金:31,425→30,625gem
プレイ時間:7時間27分
総プレイ時間:3日9時間2分
筋力47→51、体力41→47、知力14
精神力15、持久力45→50、素早さ42→48
器用さ49→53、運12、道徳13
投擲(50)打Lv28→42、短剣Lv43→50(MAX)、革防具Lv51→54
採掘Lv45、鍛冶(50)武Lv3→9
遠見Lv27→30、察知(50)詳Lv13→21
強化1:筋力Lv41→44、素早Lv43→46、器用Lv48→50
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豆情報:《魔技》魔法スキル名を発声することで詠唱状態となる。詠唱完了と共に発動される。詠唱中に妨害を受けると発動がキャンセルされる。