20話:ゲームマスター登場
土曜日の前編です
20話より投擲の[苦無]を[飛苦無]とさせていただきました
今後投げない方を[苦無]とさせていただきます
※2017/10/07 会話文中の“(笑)”等の感情表現文字を削除いたしました。
-土曜日-
カーテンの隙間から差し込んできた朝日が眩しく、朝6時に目覚めてしまった。
朝食までは時間があるので、採掘を1周してからデミアの街へ移動で良いだろうとSSSOへログインする。
閑古鳥の採掘場所へ向かうと、最初の広い場所にやっぱり1人居るので、次の広い場所へ行き、独占状態で採掘に励む。
1時間少々で、重量オーバーとなったので、ジニアの街へ戻ろうと最初の広場を通る時、突然声を掛けられた。
「ねぇねぇ、君。最近頻繁に見かけるけど、やっぱり気付いちゃった口だよね?」
「え?えっと、ナンノコトダカ、ヨク、ワカリマセン。」
ちょっと胡散臭い人だったのと、挨拶も無かったので、少しのギャグを含めた片言の返事をしておいてみた。
「ははーん、しらばっくれる必要ないよ。ミスリルだよ、ミ・ス・リ・ル。
気付いちゃったんでしょ。こんな朝早くから、態々(わざわざ)来てるくらいだし。
折角、“閑古鳥”って書き込みしておいたのになぁ・・・気付かれちゃったかぁ。
あのさ、出来れば他人に広めて欲しくないんだけど。どうかな?」
ミスリルというと、ファンタジー作品でもゲームでも有名な、あのミスリル?
白銀色の輝きを持ち、鋼より強度があり、銀よりも軽いというお約束の・・・個人的には薄緑色を想像してしまうが。
「あ、俺って採掘スキル低いから、まだ掘れないと思います。」
ここは、理解していない感じの返しで良いだろうと、真面目に返答しておいた。
「へ?あっ、そうなんだ。スキル低いんじゃぁ掘れないよねぇ。
ごめんごめん、今言った事は気にしないで。スキル上げ頑張ってね!
・・・・・・・・って、そのまま行かせると思ったかーーーー!」
「俺、急いでいるので、これでしつれ・・・」
「いやいやいやいや、待った。ちょっと待った。
ちょっと落ち着こう。落ち着こうね、君。」
かなりの面倒ごとな感じがするのと、ちょっと面白い人だなと客観的な感想を抱く。
「君、君、取り敢えず深呼吸してみよう・・・すぅぅぅはぁぁぁ。
どぉ?落ち着いたかな?ところでさっきのミスリルの話は冗談だからね!
真に受けちゃダメだからね。君、真面目そうだから真に受けそうで怖いよ。」
なんとなくだが、ミスリルが掘れる事は確定だろう。
確率は低く稀少とは思うが。
さて、この奇妙なプレイヤーを良く見てみる。
プレイヤー名は、ヒマラヤ。
身長160㎝ちょっとの中肉中背と思われる体躯、ダボッとした服を着ているので、もしかしたら激ヤセの可能性もある。
但し、顔は丸っこいので中肉中背がしっくり来る。
髪の毛は黒色で、耳が隠れたミディアム(セミロング)、少しウェーブがかっている。
目は黒っぽく、眉毛は濃い。髭や傷、タトゥーはない。純日本人っぽい顔つきだ。
「ねぇ、ねぇ、君、聞いてる?変な情報とか流しちゃダメだからね!」
流石にそろそろ本気で失礼しようと思う。
「はい。自分で確かめていない事を他人に言う事もありませんし、噂話を書き込む事もしません。
俺の言葉を信用してもらえるかはわかりませんが、安心してください。」
「ほ、ほんと!?そう言ってもらえるなら、君の事信用するよ!よろしくね!」
「それでは、本当に急いでいるので、これで失礼します。」
「うん。それじゃぁねぇ。ばいば~い。」
やっと、解放された俺は、倉庫へ預けると共に、デミアの街へ向けて移動を開始した。
来るときは平和な街道だったが、帰り道は人の少ない時間という事もあってか、好戦的MOBと遭遇してしまった。
遭遇したMOBは、最初にビートルラーバで、次にフォレストビートルだった。
大分前にタツヤと狩ったことがある、強くはないMOBだ。
フォレストビートルを投擲で倒した時に、投擲スキルがLv50になった。
スキルを確認してみると、投擲スキルはLv50で最大値であり、“打”、“突”、“斬”の特化派生を選べるようだ。
派生については一度置いておいて、デミアの街を目指す。
途中のルーエの街では、特殊スキルNPCのアイリシアへ声を掛けようとしたが、プレイヤーが数人囲っていたので、賑わっているなと思い素通りした。
無事、デミアの街へ到着し、朝食まではまだ時間があったので、投擲武器を作ることにする。
先ずは鍛冶スキルのLv上げとして、[銅鉱石]→[銅のインゴット]→[分銅]作成と、[鉄鉱石]→[鉄のインゴット]作成をする。
ここで、鍛冶スキルLvは42となり、[鉄のインゴット]も倉庫合わせ176個になったので、鉄製の投擲武器を作ろうと思う。
悩んだ挙句、[投げナイフ]と[飛苦無]に絞った。
使ってみないとわからない部分が多いため、両方10本ずつ作成して訓練場で試してみる。
アイバン教官から借りた[練習用の石ころ]の革袋を右の腰後ろ寄りに、[投げナイフ]はホルスターに似た革製ケースに一本収まって右の腰手前から下がっている。
[飛苦無]は、太目のベルトのようなものに三本固定されて、左腰に装備された。
無駄打ちは避けるため、[練習用の石ころ]でWPを溜め、必殺技で使い勝手を試してみる。
先ずは、[投げナイフ]でヘヴィスローを発動すると、投げたナイフは訓練人形へ深々と刺さった。
刺さったまま、30秒後に離散エフェクトで消えたが、消えるまでの間、持続ダメージが入っていた感じがする。
[飛苦無]も試してみるが、投げ方は全然違うものの、挙動は[投げナイフ]と大差なかった。
但し、ナイフの方が深く刺さっており、ダメージもナイフの方が大きく感じた。
ふと、装備されている数が、[投げナイフ]は一本に対し、[飛苦無]は三本であることが気になった。
[飛苦無]も一本で良いと思われるが・・・ということで、次の必殺技の際に、三本持つイメージで[飛苦無]を掴む。
すると、右手の指と指の間にそれぞれ挟み、三本持つことが出来た。
そのまま、ヘヴィスローを発動すると、三本を同時に投げ、訓練人形の3か所に刺さった。
なるほど、[投げナイフ]は一本ずつ投げるのに対し、[飛苦無]は最大三本まで投げられるということだ。
もちろん、その分の本数は消費するようだ。
最後に、両方とももう一度ずつ投げ、30秒ルールの適用を確認する。
結果、刺さった投擲武器を引き抜けば、回収できることがわかった。
戦闘中は無理でも、訓練人形での練習では経済的になることが判明し、安堵する。
ここで新たな疑問が浮かんだ。
ワイドスローで増えた分も回収出来たり・・・そんな不具合はないと思うが、気になったので試してみる。
[投げナイフ]でワイドスローを発動すると、分裂して訓練人形に全て刺さった。
「一、二、三、四、五と、スキルLvで分裂数が増えるのか・・・。」
と、刺さった本数を数えながら独り言ちる。
そして、刺さったナイフを引き抜こうとするが、“本物以外は引き抜く事が出来ず、本物を引き抜くと他のナイフは消えた。”
と、なるだろうと99%予想していたことが、残りの1%で覆ってしまった。
訓練人形に刺さっていた[投げナイフ]を全て引き抜く事が出来、回収出来てしまった・・・・唖然である。
「本気かぁ、仕様不具合っぽいのか・・・。」
このようなアイテム増殖系の不具合は質が悪い。
余りにもゲーム世界に影響を与える状況となった場合、“巻き戻り”といわれる、影響の出る前の状態(日時)へタイムスリップという、その間のプレイは幻であったとされる事態も考えられるからだ。
兎に角、メニューウィンドウからサポートのGMコールをする。
不具合の報告と共に、一度だがアイテムを増やしてしまったので、不正利用者とされる事を防ぐ目的もある。
既知の不具合の可能性が高いが、念のため待っている間にWPを溜めておく。
『サポートのご利用ありがとうございます。どのようなご用件でしょうか?』
フォン♪と音が鳴った後、機械的な女性の声が聞こえてきた。
「アイテム増殖系の不具合の報告です。」
どう答えれば良いのかわからなかったので、簡潔に述べてみる。
『かしこまりました。ゲームマスター事案と判定いたします。そのままで少々お待ちください。』
なるほど、人工知能(AI)で篩にかけている訳か。
GMコールは些細な事でも使われるケースがあるから、合理的かもしれないまと考えているところで、目の前に、豪華そうな金色の刺繍を施した紺色のローブを纏った人が現れた。
「サポートのご利用ありがとうございます。
わたくし、ゲームマスターのサルバトーレ=カンタビレ=ペレケトランポと申します。
GM・サルバトーレとお呼びください。」
「えー、早速ですが、アイテム増殖系の不具合とお聞きしましたが、詳細をお話いただけますでしょうか。
あっ、説明を一つ忘れていました。
わたくしと雑巾さんの会話は直接方式になっていますので、周囲の人へ聞こえることはありませんので、ご心配なく。
あぁ、ここは訓練場ですか、周りに誰もみえませんがね。」
最初の言葉はマニュアル通り、アドリブは気さくなので、本当の運営側社員の印象を受けた。
取り敢えず、説明してしまおうと思う。
「投擲スキルにワイドスローという必殺技があります。
こちらは投擲武器が分裂して対象へ当たります。
投擲武器の種類によって、当たった後に回収可能なものがありますが、分裂した武器も回収可能となっています。」
「えー、少々お待ちください・・・。ワイドスロー・・・これですね、ふむふむ。
分裂したものも回収可能と・・・。
雑巾さん、申し訳ありませんが、実際に試していただくことは可能でしょうか?」
「はい。出来ます。今から試しますね。」
[投げナイフ]を持って、訓練人形に向けてワイドスローを発動し、刺さったナイフを回収する。
「このような形で、1本投げて、4本増えている状況です。」
「あちゃぁ、こりゃマズイよ・・・。上へ緊急アラート上げて、仕様部分から詰め直しで・・・。
しかも、ノーリスクで・・・訓練場で・・・あぁ・・・だめだ・・・てつや・・・あさい・・・・。」
何やら、致命的っぽい。GMが独り言をぶつぶつ言い始めている。
「コホン、雑巾さん、大変申し訳ないのですが、もう一度試していただけますか?」
「は、はい。先程と同じで良いでしょうか?それとももう少しインパクトのある方で?」
「インパクト??えー・・・、出来ましたらインパクト?のある方でお願いします。
少々お待ちください、準備だけお願いします。」
俺は取り敢えず[練習用の石ころ]を訓練人形に投げてWPを溜めておく。
WPが溜まった後、少し大事になったなぁと、ぼーっと考えていると、豪華そうな金色の刺繍を施した紺色のローブを纏った人が一人増えた。
「サポートのご利用ありがとうございます。
わたくし、ゲームマスターのナイト=シュー=マッハと申します。
GM・ナイトとお呼びください。」
「ないとうさ・・・ナイトさん、報告に上げた通りの状況です。」
「状況は理解している。さるた・・・サルバトーレの方の準備は出来ているか?」
「はい!検証準備は完了しています。いつでもOKです。」
「わかった。始めるぞ。」
「・・・雑巾さん、お手数をお掛けしておりますが、実演をお願いいたします。」
多分、GM・サルバトーレの上司と思われるGM・ナイトから、実演要請を促された。
「はい。もう始めてもよろしいですか?」
「さるた・・・サルバトーレ準備!
雑巾さん、お願いします。」
「では、いきます。」
俺は、[飛苦無]を三本手に持ち、ワイドスローを発動する。
試してはいなかったが、予想通り3本とも5本ずつに分裂し、計15本の[飛苦無]が訓練人形に刺さった。
すぐに回収し、[飛苦無]が12本増えた事実を証明する。
「はい!OKです。良い映像が撮れました。
・・・システムログも完璧です!」
良くわからないが、上手くいったようだ。
「雑巾さん、不具合のご報告及び、実演にご協力いただき、誠にありがとうございました。
これより、調査・解析・対応を迅速に進めて参ります。
今後、この手法を使ったアイテム増殖は不正行為とみなされますので、不具合解消までの間は、増殖しないようにご注意いただきたいと思います。」
「えっと、増えた分は回収しなければ問題無いということでしょうか?」
「はい。それで結構です。」
「了解しました。」
「今後も、『SOMETHING SUB STORY ONLINE』をお楽しみください。
GM・ナイトでした。」
「GM・サルバトーレでした。」
2人のGMは目の前から消えていった。
なんか大変な事になったなと考えていると、現実世界の朝食へ行く時間になっていたので、一度ログアウトする。
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雑巾:Lv16 所持金:320gem
プレイ時間:2時間41分
総プレイ時間:2日12時間50分
筋力42、体力34、知力14
精神力15、持久力42、素早さ35
器用さ45→46、運12、道徳10→13
投擲Lv49→50(MAX)、短剣Lv31、革防具Lv43
採掘Lv36→40、鍛冶Lv33→43
遠見Lv17、察知Lv48
強化1:筋力Lv32→33、素早Lv34、器用Lv38→39
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[苦無]柄がしっかりと握れ基本は刺す。斬る事も可能。また相手の武器を弾く逸らす、更に地面を掘る等様々な用途に対応する形状となっている。 [飛苦無]柄は短く投擲専用の形状。先端を鋭く刺さりやすくしたものが多い。