9話:相方登場
土曜日の中編です
※2017/10/07 会話文中の“(笑)”等の感情表現文字を削除いたしました。
-土曜日 夜-
夕食と風呂を済ませたころ携帯電話が鳴った。知人からだ。
「もしも~し、どうした?」
「今、電話平気?」
「うん、家にいるから大丈夫だよ。」
「アレどう?やってる?」
アレというのはSSSOの事であって、この電話の相手こと龍哉もOβに当選し一緒に遊ぶことになっている。
「初日からまったりやってるよ。そっちはどう?イン出来そう?」
「ずっと仕事終わりが遅くて、朝も早いから全然できなかった。今日は早めに上がれたからやる。明日は休み。」
「そっか、仕事大変そうだねぇ。それでキャラは作ってある?」
「キャラは作った。名前はカタカナでタツヤにした。」
「おお。名前取れたんだ。こっちは漢字で雑巾になったよ。」
「雑巾懐かしいね。これから飯食って風呂入るから・・・21時位に入れる予定。」
「おっけー。そしたらチュートリアルみたいなの進めてもらって、最初のデミアっていう街の門の所で待ってるよ。」
「わかった。じゃ、また後で。」
さて、21時までは小一時間ある。
デミアの街でログアウトしているから移動の必要はないので、軽くSSSOの情報チェックをしておくことにする。
特に目新しい情報は無さそうだ。そういえば龍哉はSSSOでどういうプレイをする予定なのか聞き忘れていた。
合流してから色々聞けば良いかと、21時を回ったのでこちらもログインする。
デミアの東門へ向かう。確か門をくぐって街中に入ると機械的な音声が流れたなという事で、街中で待機しておく。
まだ新規プレイヤーと思われる人が、ちらほら門をくぐってくる。
待つこと15分程、一際存在感のあるキャラクターが門をくぐってきた。
身長180㎝くらい。がっしりとした体躯で髪は紫寄りのピンク、ツーブロックで短めの髪をツンツン立たせている。肌は程よく日焼けした感じ。
目は赤く、顎髭をちょっと生やしている。長年の付き合いから、龍哉だろうと直感し、軽く手を挙げて気付かせる。
「お疲れ。とりあえずパーティ組んじゃおっか?」
「うぃ。・・・それ腹出過ぎじゃない?」
「現実世界でちょっとだけ大きくなってね・・・。」
痛い所を突っ込まれつつも、メニューウィンドウを操作してパーティを申請する。
「これでいいのかな?」
「えっと・・・大丈夫っぽい。チャットはデフォルトでパーティになってるね。」
ついでにフレンド申請をし、フレンド登録も済ませてしまう。
「じゃぁ、まず確認だけど、たーちゃんは普通の冒険者プレイだよね?」
「うぃ。生産はしないかな。釣りはしてもいいけど、戦い専門で。」
「おっけー。まずは訓練場で武器選びだね。魔法はどうする?」
「せっかくのVRだから身体使った戦闘をしたいかな。」
どんな感じかを確認しながら歩いているうちに訓練場に到着した。
「アイバン教官こんにちは。こちら友人のタツヤです。」
「おう、雑巾か。よく来たな。そっちは友人か。
俺はアイバン、元騎士で今はここの教官をしている。よろしくな。」
「・・・よろしくお願いします?」
いきなりAIのNPCとの会話は吃驚するかとほくそ笑みながら、たーちゃんを紹介してみた。
「ここでは奥にある訓練人形を好きなだけ叩いて良い。武器はここ専用のやつを俺が貸し出す。
普通の武器を使っても構わないが、耐久は減るし、矢等は消耗するから気をつけろよ。
貸し出す武器は1種類ずつだ。別の武器を使いたい時は、俺から借りなおしてくれ。」
ふと、パーティチャットのままだけど、NPCとの会話が成立していることに気付く。便利ということで深くは考えないが。
「たーちゃんは何か使いたい武器ある?」
「えっと、殴りとかってある?」
「拳術と蹴術があるよ。貸出武器ないからそのまま殴る蹴るする感じ。」
「なるほど。ちょっと試してみる。」
「あとは適当に使いたい武器あったら教官に言って借りて試してみて、武器決まったら声かけて。」
「ほい。」
たーちゃんは最初は殴り蹴りを試してみるようだ。俺は短剣を借りて、左手での練習をしてみる。
右利きということもあって投擲は右手の方が良さそうなので、短剣を左手で扱えるようにと考えていた。
左手短剣を試行錯誤していくと、左手の逆手持ち・・・ちょっと忍者っぽい構えがしっくりきた。
一応この持ち方も正しい扱い方に入るようで、ガシュッという良い音で斬ることが出来ている。
順手持ちよりリーチは短くなるが、扱えているならこれで良いかなと練習していると、たーちゃんの武器が決まったようだ。
「雑巾、やっぱり殴りと蹴りにする。」
「おっけー。そしたらひたすら殴りと蹴りしてもらってもいい?回数的には70~80回ずつくらい。」
「ん?いいけどなんで?」
「その位訓練人形叩くと、教官が熟練者教えてくれてスキル習得出来るみたい。」
「わかった。」
そしてたーちゃんは怒涛の勢いで訓練人形を叩きまくった。
現実世界で格闘技とかやっていないはずなのだが。
その後、教官から拳術と蹴術の熟練者を無事教えてもらい、スキルを習得することが出来た。
「これでスキルがLv10まで上がるから、面倒だけど叩きまくって。」
「うぃ。正しい攻撃の仕方を練習する。」
「こっちは、短剣スキル上げてるね。」
2人で各々の訓練人形を叩いていると、たーちゃんの方からドゴッガスッドゴッと痛そうな音が連続で聞こえ始めた。
「・・・格闘技やってたっけ?」
「ん?いや、真似事くらい・・・ちゃんとやったことはないよ。」
「そ、そう。あまりにも様になってるから。」
「そういえば雑巾はなんで左手で短剣持ってるの?右利きじゃ?」
「あぁ、今のところメイン武器を投擲にしようとしてるから。短剣はサブね。」
「投擲?・・・って忍者が投げる苦無とか?」
「そうそう。今は石ころしかないけどね。」
「ふぅん。それって強いの?」
「一応色々試してみて、正しい扱い方すると普通の武器くらいの与ダメは出てると思う。」
「へぇ。そうなんだ。」
「結果的に、たーちゃんと狩りするとき、こっちが中衛になれるからちょうどいいかもね。」
「なんとなく弓とか使うと思っていたけど。」
「弓ね。あれは難しすぎて諦めたよ。」
「そうなんだ。あっ、殴りも蹴りもLv10になった。」
「おお。おめでとう!早いね。こっちはもう少しでLv10になるからちょっと待ってて。」
「うぃ。・・・Lv10になってスキルみたいの覚えたけど?」
「あぁ。それは発動すると身体が勝手に動く必殺技みたいなのだと思う。
その動きから正しい扱い方を知る事も出来るみたい。
WP100消費するけど、試しに《武技》って言ってから、覚えたスキル名言ってみて。
訓練人形をターゲットと認識することも忘れないでね。」
たーちゃんが訓練人形の前に立ち、必殺技を試してみる。
「《武技》 ファストブロウ」
軽く構えた所から訓練人形との距離を一気に詰め、ボディブロウを放った。
「《武技》 ファストロー」
更に必殺技を発動し、素早いローキックを放った。
「おお!連続発動・・・そっか拳術と蹴術でWP100ずつあったんだ。」
WPとは武器の必殺技を使うために必要なポイントで、今の所100消費する。溜められる上限も100である。通常攻撃を当てているとWPが少しずつ溜まっていく。
WPを溜めるのは正しい扱いをした方が効率良く、例えばコツンスタイルで1、ゴンスタイルで10といった感じになっている。武器の種類によって一当てで溜まるポイントは変わるようだ。
「身体が勝手に動くのは、なんか変な感じがする。」
「慣れだとは思うけど、所見は動作もわからないから出来れば訓練人形で試しておく方がいいかも。」
俺も投擲Lv10になったときに、ファストスローを一度だけ試していた。
クイックモーションで投げるのだが、発動のための発声の時間がネックと感じている。
そうこうするうちに、俺の短剣もLv10を達成した。覚えた必殺技はファストカットという名前だった。
動作確認のために、一度試してみる。
「《武技》 ファストカット」
左手逆手持ちのままだったが、そのまま発動出来た。訓練人形の距離を一気に詰め、左中段から右下へ斬り下げる攻撃だった。
「おお。動きが機敏だね。」
「本当は通常攻撃でもこれくらいの動きが出来るようになるのが理想ってNPC熟練者が言ってたから、時間ある時に練習かな。」
「そんなこと言ってたね。それでこれからはどうする?」
「たーちゃんは狩りにいきたいだろうから、まずは防具一式買って門の外かな。」
教官にお礼を言ってから防具屋へ向かい、たーちゃんの防具一式を買う。
俺と同じく革防具一式にしたらしい。
街の外で防具を着ていれば防具スキルが上がる事等を説明しつつ、東門の外へ向かう。