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短編集

砂時計の砂はまた廻る

作者: 璃桜





時間とは、限りあるものであり決して取り戻す事の叶わないものでもある。


何故そうなのか。

誰もが一度は考える。

けれど、考えても理解などできぬもの。


かたん、


嗚呼、今日も時は流れゆく。




「カティー!!!」

「うわっ!?」


楽しげな青年の声はあっという間に近づいて飛びついてきた。


「何すんのよ…」

「ふふ、カティに会いたかったんだよー」

楽しそうに笑う青年の名前は、ティノ

「…はぁ」

「カティが管理人になってからぜんっぜん会えないんだから、寂しいに決まってるよ!」


管理人、それは職を示しているようで、私を示すものでもある。


この世界では、時は管理されるものである。

ヒトの手により、完璧に。


大きな大きな砂時計

ソレが、私が管理すべき“時”


「ーー…ティノ、もう…会えないって言ったでしょう…?」


この言葉を口にするのはとても辛い。

私だって嫌だ。

寂しいし、辛い。会いたくなるもの。


「……それは、管理人になったから?」

「…そうよ」


管理人は、なろうと思ってなるものではない

選ばれてしまうのだ。

本人の意思なんて関係なく。


そして、その管理人は人とは違う時を生きる事になる。


“砂時計”の砂が、全て落ちるまで。

それが、私の時間の終わりになる。


「ねぇ、カティ

俺は君が大切なんだよ」

「…ティノ

もう、」


やめて。

その言葉は口には出せなかった。


「君の時間が終わってしまったら、俺はきっとまた始めてしまう

だって、砂時計なんだよ?

終わりそうになったら、ひっくり返す事だって出来るんだ」



砂時計をひっくり返す。

ソレは許されないこと。

終わった時が巻き戻る。

そうしてしまったら、“時”というものが無くなってしまう。

所詮は人の定めたものだから。

ソレはとても危ういものだから。


だから、決して手を出してはいけないもの

ティノはわかっていて、言っている。


「だめよ、ティノ…そんなの、だめ」


…私が、ソレを許さない事もわかってる。

管理人は、そういったことをさせない為にいるのだから。


「…うん、ごめんね

カティ

でも…管理人だという事で、俺を遠ざけないで

俺は、カティがいないと嫌なんだ」


泣きそうな顔でそう言う大切なひと。

そんな顔を見てしまったら、ポツポツと想いが溢れてしまう。


ごめん、なさい。

一緒にいられなくて。

突き離すようなことしか言えなくて。


時は流れる

砂のように

サラサラ、サラサラと

流れ落ちてゆく

私のいのち


「どうして、君が管理人なのだろうね」


ティノは哀しそうにそう笑って言った。


本当に、


「どうして、私なんだろうね…」


その声は、小さく小さく響いた。


どうして、時は砂時計なのか。

どうして、私が管理人になったのか。

どうして、普通の人と共に生きられぬのか。


考えても考えてもわからない。

けど、それでいいのかもしれない。

わかってしまっても、きっと変わらない。

何も出来ないのだから。


「ーーねぇ、ティノ…私ね、とっても短い間だったけれど、短すぎる間だったけれど、とても、とっても、幸せだったわ」


まるで最後の時のようにそう言う私に、ティノはわかりやすく顔を歪めた。


「カ、ティ」

「管理人になってしまってから、私は貴方にあまり会えなくなったわ

けど、貴方は私を忘れなかった

変わらず私を大切にしてくれた」

「カティ…」

「私は、幸せ者ね

私は、私の為に、この世界の時になる」

「カティっ!!!」


私は今、笑えているだろうか。

ちゃんと、笑っているだろうか。


沢山の砂の中のひとつ

それになる事

管理人の終わりはそんなもの

皆がみんな、愛しい人を。

愛しい世界を。

終わらせたくなくて、壊したくなくて。

少しでも長く流れて欲しくて、たった一つのちっぽけな砂粒になっていったのだろう。

その気持ちは、もう、痛いほどわかる。

わかってしまうから。


ねぇ、ティノ

ごめんね。

置いていく事を許してね。

大切で、大好きな、私の幼馴染

今までありがとう。

ごめん、なさい。

さようなら


そんな言葉は心の中で。


私は、今までで1番の笑みを彼に浮かべた。



どうか、彼の時が

終わりませんように。








さらり、と。

今日も砂は落ちてゆく。

そして、誰かの時は終わりまた誰かの時は始まる。

そうして回る

砂時計




「今日も、

俺は生きてるよ」





君の願いの通り



「管理人さん!こんにちは!」

「…あぁ、こんにちは」




また時は終わるのだ。

砂時計の砂粒は

音を立てて、落ちてゆく。




時間とは限りあるものだから。



かたん、



砂時計は

人知れず廻ってゆく。


まるで

ヒトのいのちのように。




さら、さら


静かに時は刻まれてゆく。






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