知洗麻女
作者:仮面
---その瞳に映るFemeieはだあれ?---
「っぁ……」
---Logodnicul以外あり得ない。あり得るわけがないじゃない---
「ぅぅ……」
---もうすぐもうすぐCăsătorieの刻ね---
「んぐぁ……」
---待ってて、私のFăt-Frumos---
「むぁ……」
---あとちょっとだから浮気はExecuțieよ?---
「ぃぃ……」
---いつでも|Monitorizareいるわ---
「……はっ!!」
時は深夜。草木も眠りし宵闇の中。
青年、東海林良郎は寝床から飛び起きる。
彼が思い浮かべるのは直前までに感じた異様な感覚。
まるで自身を溶かし、染め、変えてしまうような錯覚を起こす謎の感覚。
良郎は頭を振り、そして寝汗でぐっしょりと重くなったシャツを乱雑に脱ぎ捨てる。
涼しめな空気が肌に触れ、思わず身震いをしながら彼は新たなシャツを取り出し着る。
首を回すとゴキリと重めに音が鳴り、同時に先ほどまで苛まされていた異様な感覚への認識も薄れる。
すっかりと気が紛れたらしい良郎は、
先ほど脱ぎ捨てたシャツは二度寝から起きてからでいいか。と思いつつ再び床につくのであった。
首筋にチリチリとこびりつく違和感に気付けないまま……
「なぁ知ってるか良郎」
「いきなりなんだよ」
「原先輩、妙にここ最近浮ついてるんだってよ」
「……へぇ?」
ここは良郎の通う大学、朝一時限目の教室。
同じ授業を受ける学友にふいに話しかけられるいつもの光景。
しかし今日はいつもと何かが違っていた。
原美佳。良郎の通う大学のマドンナ的存在。
その立ち振る舞いと物腰の柔らかさ、男女問わずに同じように接する優しき人物としてミスコンに出場した際にはダントツトップをかっさらう存在である。
そのすべてが故に浮ついた噂が出たこともなく、異性の相手が出てくれば間違いなく大学挙げての騒動になること間違いなしの人物。
「相手ができたって……ことか?」
「そうかもしれないんだよ。あの原先輩だぜ? 俺たちファンクラブもある中ショックだよ……」
「証拠ってあったのか?」
良郎が問うと学友は急に押し黙る。
不安げに良郎が目を細めると、見られている彼は頭を弱く横に振って肩を落とす。
そしてただ一言つぶやいた。
「おかしいんだよ」
「……は?」
「証拠も何も存在しない。それなのに原先輩には男ができたって、なんでか知らねぇけどそう思えるんだ」
「……ふうん」
「嘘だと思うなら聞いてみろよ。俺以外にもこの大学のほとんどの奴らが同じことを言うと思うぜ」
その言葉に従い、良郎は同じ教室の学友たちに時間の限り問うてみる。
最初に聞いた通りの事実で、皆口をそろえ
「よくわからないけどそう思えるんだ」
と述べる。
彼はその後、その日の授業が全て終わるまでの間に様々な学友に話を聞いたのだが、
彼以外全員が
「原美佳に彼氏ができた」
と断言をした。
さらに不可解なのが、
これまで良郎と話したこともない学友たちがそろって、彼に言い聞かせるように教えてくれたことだ。
おめでたいという意味合いの強い、そんな話し方で……
ここまでくると良郎は一つの恐怖を感じた。
なぜ自分だけは原の浮ついた理由をほかに考えられるのか。
なぜ自分に対しておめでたいおめでたいと、まるで自分を祝福するかのように語りかけてくるのか。
なぜ話を聞くたび、自分は原に対し動悸を激しくするのか……
---それは君が彼女を愛してるからさ。Eu---
彼が思うに原美佳という人物は不可解なものが多い。
自身の入ったゲーム研究部という部活に、彼女は翌月入部した。
彼女は良郎の一つ上の年齢で、既にその時からミスコンなどで有名になっている。
そんな人物がまるでこれまで無縁だったような部活に急に入ることが一種の異質。
当然ゲーム研究部には入部希望が殺到したが、ある日から原目当てで入部希望を出しにくる者はぱったりといなくなった。
さらに原美佳がゲーム研究部に入った半年後、同じ部活に所属していた女子の七、八割が何らかの事情で退部届を出していた。
残った部員たちは当時口をそろえて
「原に慄いただけでは?」
といっていたがそれはおかしいと、良郎は今でも疑念を抱いている。
良郎は決意した。
これまでのことも含め、原に何かしら関連があると踏み、話を直に聴くことを選んだ。
---ようやくこの時がきたんだね、待ち遠しかったよ。Eu---
ここで一つの昔話でも語ろう。
12年前、良郎はある女性に出会った。
その女性は若き良郎が寝床で目を覚ますとベッドの脇に腰かけていた。
不思議なことに良郎は体を動かせず、首だけしか動かなかった。
女性は何を話すこともなく、ベッドの脇から良郎を眺めていただけで。
幼い良郎は体が動かないことに恐怖した。
涙が出そうになるころ、女性はただ良郎の髪を優しく梳き、撫で。
その後、女性がベッドに入り、寄り添う形でともに眠りにつく。
次に目が覚めた時、良郎のそばに誰がいるわけでもなく、良郎はそのこと自体を記憶からいつしか忘却していた……
ここまでがその昔話の内容である。
ただ一つ、その昔話の中でうっすらとだけ、彼が覚えているものがある。
原美佳を見た時、彼はデジャヴを感じた。
どこかで見たことのあるような、しかし初めてみるような、懐かしいようで懐かしくない不思議な感覚。
この夜、良郎はチリチリとひりつく首の痛みを増しながら、眠りにつくこととなった。
翌日。今日はゲーム研究部の活動がない。
部長に、ゲーム制作の自主活動をしたいと旨を伝え使用許可をもらった彼は原に連絡を取って呼び出す。
---とうとう|Confesiunile《伝えるの》かい?---
時間は放課後を指定。
最後の授業の時間は原のほうが早いため、部長にカギを受け取ってもらうように頼み、待ってもらうように伝える。
---相手を待たせるなんて、いけないSirだね---
ふと教室を見渡すと周りの雰囲気が何やらおかしい。
---いや、いつも通りのTimpだ---
変わらないように見えていつも通りには見えない。
---まったく違わない、皆思い思いのAerじゃないか---
なぜ良郎に対し学友たちは祝いを送るのか、羨望を向けるのか。
---当然だろう? 皆知ってる。君のAniversareを---
先ほどから何やら語りかけてくる不思議なナニカを意識に入れないようにして、良郎は放課後まで過ごすことを選んだ。
その間に見える自然な空気を楽しむように……
まるでそれを受け入れるように……
「あら、思ったよりも早く来たのね」
「呼び出した手前、悠長に遅れてくるつもりはありませんからね」
「そんなに私を想ってくれるなんて、顔が熱くなっちゃうわね」
「茶化さないでください。反応に困りますから」
「んもぅ、つれない人。待っててね、ココア用意するから」
原を待たせる一抹の罪悪感に駆られ急いできた良郎。
待ち人である原はゆったりと部室の椅子に腰かけ、好物であるココアを嗜んでいた。
しかしいつもと今日は様子が違う。
普段の原は「清純、清廉潔白、優等生」な女性だ。
しかし今現在良郎の前にいる彼女はその印象とは程遠く、とても艶めかしく、瑞々しい。
細やかな動作一つ一つが良郎というDolarを誘うFemeieのよう。
彼は視えない何かに引っ張られるように原から目を離すことができない。
「ねぇ」
「……はっ、はい」
「大丈夫?はい、落ち着くわよ」
「あっ……ありがとうございます……」
「上の空だし、どこか辛そうだったし、何があったのかしら?」
「えっ……と、その……」
「……私に、関係のあること?」
良郎は言葉に詰まる。
言わなければ。
---伝えなくちゃ---
現状の異質さを。
---僕らの想いを---
聴かなければ。
---返事をもらわなきゃ---
彼女が何者か。
---彼女の返答を---
言葉に出したいものと、
先日から、その前からもずっとにじり寄ってくる自分のようで自分ではないナニカの声。
頭の中がぐちゃぐちゃになり、混ぜられる意識の中。
良郎は絞り出すように、彼女へと言葉を向けた。
---そう、そこまで逆らうんだ。じゃあ、どうなっても……知らないよ---
「あなたは……誰なんですか、何なんですか!」
良郎が顔を苦痛にゆがめながら、原に問いただす言葉を突き付ける。
突き付けられた彼女は……
先ほどまでの美しさとは打って変わり、氷柱を差し込むが如き眼光を湛えながら良郎を睨んでいた。
彼はまさしく慄いた。
ちがう、この人は、いや、コレは、原美佳ではない。
自身の知っている原美佳という先輩ではない。
足がすくむ。身体の震えが増していく。
逃げ出さなければ。
何処へ?
逃げても追いつかれない可能性は?
……限りなく低い
そうこう震えるうちに原……らしき存在は良郎に近づく。
彼女は、あまりの恐怖にへたり込んだ彼を見下ろし、いつものような笑みを浮かべ……
その胸を、突いた。
「もうすぐだから浮気はダメよって言ったのに」
「あなたの目には最期まで私を映してくれなかった」
「悲しい、悲しいわ。でも、それでも……あなたを」
「アイシテル」
Moarte
初めまして、お久しぶりです。仮面と申します。
本作にて取り組みましたは≪吸血鬼関連のオマージュ≫でございます。
タイトルから本文の終わりまで、さまざまに私ができうる限りの仕込みをしてございます。
暇さえございますれば、是非こちらの謎解き、いかがでしょうか?
この後まだまだ、吸血鬼を題材にしました作品が多く御座います。
最後まで是非に、お楽しみくださいませ。
それでは、また会う日まで。




