オルフィーク、ゼウスの魂ダッシュで奪取に大成功!
オルフィークはまず転生させる魂を手に入れるため、地球管理センターに来ていた。
ゼウスの最高傑作である地球は他の星と違い、常に観衆や降臨希望の非階級神が訪れる。
しかも地球上の生命はオルフィークの能力で繰り返し転生するが、地球そのものだけは管理が必要だ。
だからセンターが作られ、監視や案内を行う神がかなりの数常駐している
「選別している余裕はないな。まとめて10体持っていくとしよう」
ゼウスが創った魂だ。しかもオルフィークの施した転生術で、どれも最高のクオリティを保っている。特に選別の必要はないだろう。
オルフィークは転生が必要な魂を管理する部屋に足を踏み入れた。ここは彼が創り出した部屋であり、また現全能神でもあるオルフィークならば簡単に入る事が出来る。
だが、出る事は容易ではない。何せゼウスの創造物を持って出るのだ。いかに全能神といえど何をしてもいいわけではない。
「これはこれは、オルフィーク様ではありませんか。ご自身の施した秘術を点検にいらしたのですか?」
「テミスか……、まあそんな所だ。秘術は順調にその機能を果たしておるかね?」
これはラッキーだ。テミスが当番なら何とか誤魔化せるかもしれない。オルフィークは内心ほくそ笑んだ。
テミスは初代全能神をゼウスと争ったウラノスの娘で、その争いでウラノスを退けたゼウスの事をよく思っていない。
だからゼウスの身内ではないオルフィーク擁護派として、転生の秘術を管理している。
たしか一億年ごとの当番制だったはずだが、たまたま今はテミスの時期に当たった。
「ええ、順調ですわ。さすがは二代目だけが使う事の出来る秘術。魂が転生する瞬間は何度見てもウットリしますわ」
「そうか、それならいいんだ。だが地球誕生からすでに四十五億年、そろそろ秘術も錆びついているかもしれん。少し力を注ぎたいのだが、席を外してもらえるかな?」
我ながら上手い言い訳だ。この術は秘術と言うだけに、手を加えるときは誰にも見せたくないという理由が、自然な人払いの根拠になる。
「かしこまりました、オルフィーク様。それでは終わりましたら、お呼びくださいませ」
そう言ってテミスは姿を消した。
「さて……、ここからここまでの10体にするか」
オルフィークはあらかじめ用意した、感知無効化した瓶に魂を詰め懐に仕舞った。
そして念のため自分自身にあらゆる感知魔法をかけ、反応を伺った。
「大丈夫そうだな」
問題ない事が分かり、オルフィークはテミスを呼び戻すと、一声労をねぎらい部屋を出ようとした。
しかしーーーー
「オルフィーク様!」
「⁉︎………な、何かな?」
「私は地球ではなく、オルフィーク様の作品で秘術を管理したいですわ。でも今はそれだけの価値があるものがお出来にならないとか……」
「滅多な事を言うものではない、テミス。地球は誰もが認める最高傑作だ。お前の父、ウラノス様さえもな。まあ気持ちは分かるが、しばし待つのだ。いい報告はそう遠い日ではない」
これさえ上手くいけば、だが。しかしオルフィークは懐の瓶に手を当て、その言葉を胸臆に納めた。
「ふー、テミスめ。焦らせおって」
自室に戻り瓶を取り出し眺めながら、オルフィークは深くため息をついた。
だが、これで半分は成功したようなものだ。後は仕上げを行うだけである。もちろんゼウスの創造物だから、多少は手強いかもしれないが、所詮は一個の魂に過ぎない。説き伏せるのは容易いはずだ。
というのも、地球から地球への転生は最初に術を施せば、後は勝手に繰り返してくれるが、異世界転生となるとそうはいかない。
転生者とオルフィークが異世界へ転生するという、共通の認識が必要なのだ。
「さて、魂の今の意識を呼び出すとしよう」
オルフィークは異世界転生の最初の行程に取り掛かった。