追い込まれた神が、悩んだ末に選んだ手段は異世界転生!
オルフィークは悩んでいた。
彼は二代目全能神。
初代全能神は神界史上最高傑作と賞賛される「地球」を創造した、全知全能の代名詞ゼウスである。
彼が第一線を退き、後を任せられたのが、その「地球」創造に尽力した功績を認められたオルフィークだった。
オルフィークの神としての能力は、いわゆるオリュンポス十二神よりも優れていたし、彼も十分に後を引き継いでやっていけると考えていた。
しかし甘かった。
確かに神々が鑑賞する最高のエンターテインメント「地球」をゼウスと共に作り上げたが、やはりそれは彼の物である。
何か新しい物を創り出さなければ、彼の求心力は早晩失われてしまう。
実際にゼウスに近かったものは、オルフィークを未だ認めていない。そうでない者も鑑賞、降臨を希望するのは「地球」ばかりだ。
「地球」が創り出されたのは四十五億年前の事だし、様々な改良を経て今があるのだから、しばらく様子を見るべきというオルフィーク擁護派に支えられ、何とか今の地位を保っているような状況だ。
しかし今はゼウスが第一線を退いたように、神全体の能力向上が著しい。四十五億年前とは違い、すぐにでもクオリティの高い物が求められる時代だ。
そして彼を脅かす存在が、オリュンポス十二神である。
彼らは一人一人はオルフィークに及ばないが、突出した特技を有しており、中にはゼウスの身内もいる。
妻であるヘラはゼウスとは仲が悪く、彼の身内ではないオルフィークが二代目に選ばれた事にあまり関心がなかった。
しかしゼウス派はせめて彼の子供たちが後を継ぐべきだ、と必ず議会にその話題を持ち上げる。
彼の子供たちというのが、オリュンポス十二神でもとりわけ創造性に富んだ、アポロンとアテナである。
オルフィークが創造した星よりも、彼らの作品の方が神界では高く評価されているのだ。しかしそれでもオルフィークが支持されているのは、彼らの作品が合作である点だった。
オルフィークは一人で全てを創造できるが、アポロンは芸能、芸術、アテナは知恵、工芸などに秀でているものの、二人で力を合わせなければ星を完成させる事は出来ない。
作品自体はやはりゼウスの血を引くだけあって、高いクオリティを示してはいるが、全能神を冠するのは一人と決まっている。
ーーーー今はまだ。
このままオルフィークが彼らの作品を超える物を創り出せない状況が続くようなら、アポロン、アテナのどちらかを暫定的に主神とする案も浮上している。
彼は追い込まれていた。
そこで、次の作品である賭けにでた。
自分の創造性には限界がある。だが、アポロンやアテナを超えるような支持者はいない。
ならば前任のゼウスの力を借りるしかない。
しかし合作では意味がないし、誰も認めはしないだろう。だが彼には秘策があった。
それは彼だけが持つ特殊能力ーーーー
ーーーー転生の秘術だ。
ゼウスが彼を第一の右腕とし、「地球創造」にオルフィークを求めた最大の理由のひとつである。
普通に星を創造した場合、最初のクオリティを保てるのは良くて一万年程度だ。あらゆる生命は「繁殖」だけでは、そのクオリティは下がる一方なのである。
しかし、そこに「転生」が加わることで、飛躍的に保存期間が延びるのだ。
だが、決して創造主の持つポテンシャルを超えるわけではない。ということはいくら自分の創造したものに転生術を施しても、駄作の保存期間を伸ばすだけだ。
そこでゼウスの力を借りるのだ。
そう、「地球」の創造物を、自分の創造物に転生させてしまうのである。
だが、やり過ぎれば合作と変わらないと判断されるか、悪ければ神界の法に触れる可能性もある。
数は極限まで絞らなければーーーー
オルフィークはその数を10体と定め、早速「その作業」に取り掛かることにした。
そう、禁断の秘策、「地球」から自らの作品への異世界転生にーーーー。