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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説

かやく戦争 マグロ編

作者: きらと

本作ジョークです。

 頭は生きている内に働かさないと意味がない。頭に必要なのはマグロのDHAだ。

 底辺と一般人の決定的な差はマグロを食べる事にある。学生時代にある程度、マグロを食べる努力を経験しなかった者は、大人になっても努力をしない。やれば出来ると言っても、普段からやらない人間はいざと言う時もやらない。成功するのは一握りのマグロを食べた者達だけだ。努力の証明や結晶と言う言葉が、努力は当然と言う一般常識を語っている。

 頭は使わなければ飾りだ。

 先進国から見ればドングリの背比べなのだが、それなりに国民がマグロを食べる努力をした結果、東南アジア随一の軍事力を誇るフィリピン。

 最大の島ルソン島に存在した在比米軍の基地、クラーク空軍基地はフィリピンに引き渡された後、経済特区となり一部は空港や空軍基地として再利用されていた。

 Keep outの看板が出た柵の中には昨晩、作戦前夜と言う事でマグロ酒を飲みマグロ女を抱いて鋭気を養った兵士達がフィリピン空軍のエプロンに集まっていた。蒸し暑さから自販機で飲み物を買おうと、兵士は上段のボタンを押しかけた。鈍い音と共に吐き出される缶はオレンジ餡カスタード。名前からして外れだ。

「畜生」

 勿論、そんなゲテ物を飲もうとした訳ではない。肘が下段のボタンに当たり違う物が出てきたのだった。今までこんな失敗は無い。今回の任務は不吉な予感がした。

 2015年7月、アメリカ陸軍第75レンジャー連隊第3大隊B中隊は第1特殊部隊D任務分遣隊C中隊を支援すべくフィリピンにやって来ていた。この国はかつてアメリカが米西戦争で獲得し、第二次世界大戦では日米の決戦場にもなった因縁深い土地だ。

 フィリピンでは中国によるマグロ乱獲の脅威が高まる中、再びアメリカ軍の駐留が求められていた。

  今回来たのは『かやく王』の(セルピエンテ)を追跡した結果、フィリピンの小島ファンド島に潜伏する事を確認したからだ。かやくとは依存性が高く第二の麻薬と論議され、神秘と芸者の島国日本では数世紀の歴史を有する食品添加物だ。アメリカはかやくの危険性を早期から危惧しており、(セルピエンテ)を逮捕する事で危険性を明るみに曝そうとした。

「ファンド島でかやくの取り引きがあるとの情報を入手した」その報告を受けたアメリカは島の位置を確認すると、軍事行動を即断した。

 ファンド島は個人所有地でフィリピン政府も中々介入しずらかった。何しろフィリピンの政財界に影響力を持つ相手ロナルド・サントスだった。

 サントスは出会い系サイトを多数運営しており、各界著名人の弱味を握っていた。だが島にかやく王が現れたとなれば捜査もしなければならない。

 情報提供者はアレクシア。ロナルドの一人娘だった。資料に添付された写真を見せた白人に比べて肌の色は濃いが健康的な魅力を持っている。CIA東アジア部長はアレクシアを、むしゃぶりつきたく成るような良い女だと評して部下から白い目でみられた。プロジェクターから証言の映像が流された。

「父はこの国を裏切っています。出会い系サイトの運営や広告収入によるアフィリエイトで稼ぐだけでは飽きたらず、かやく工場を島に作り、世界にかやくを売りさばく計画です」

 アレクシアの情報を受けてアメリカは部隊を送り込んだ。自国の利益を追求する事は国家としての正義だ。国の持つ真の強さとは、社会の枠組みを守るマグロパワーにある。枠組みの崩れた国に未来はない。

 作戦名マングース。草木も眠る深夜、島にはフィリピン海軍の協力でデルタが先行して上陸した。

 ニミッツ級空母を派遣するまでもない。レンジャーはヘリボーンで島を急襲する。統合特殊作戦コマンド(JSOC)に出向して作戦を立案したCIA担当者は「完璧な兵力、そして完璧な作戦だわ!」と自画自賛し、成功を確信していた。

 しかし相手も無防備では無かった。十分な装備で武装した警護を用意していた。

 海岸から内陸部に進んでいると暗視眼鏡の視界が爆発の閃光で光に覆われた。地雷だ。

 爆発を合図に射撃が始まった。機関銃と迫撃砲、個人の島を警備するには異常な装備だ。情報では、島の警備は小火器程度の装備しか持っていないと言う事だった。

『こそ泥どもめ、降伏しろ!』

 拡声器の声に銃弾で返答を返す。敵の攻撃が再び始まった。相手はただの民兵ではない。金持ちの道楽か、ベレッタのARX-160やガリルSARまで持っていた。違法コピーではなく純製品だ。

(畜生、ブラック・メアリーの呪いか。こんな所で死にたくねえ!)

 精鋭の部隊を送り込んだ。任務は簡単に成功すると考えられていた。だが生き残ったのは5名、敵に包囲され孤立していた。この様子は国防省(ペンタゴン)CIA(ラングレー)でも確認された。

 ISISとの戦いやウクライナ、シリアの内戦、中国との問題が続く中、フィリピンで作戦遂行中のアメリカ軍兵士が捕虜になったと言う報告がホワイトハウスに上がってきた。

 さらなる厄介事の追加に頭を痛めながら会議室の席に着いた大統領補佐官の口調がいささか詰問めいた物に成ったのも仕方がない事だ。

(セルピエンテ)の逮捕はどうなった」

「待ち伏せを食らいました。救出部隊を送ろうと思います」

 少なくとも100名以上が戦死したと報告されている。

「フィリピンに部隊を展開させて中国と事を構えると言う事態だけは避けたい。フィリピン軍に救出支援を求めるか?」

「いや退役軍人を使う。正規軍を送り込んでこれ以上、捕虜を出すわけにもいかん。傭兵として送り込むんだ。失敗しても国とは関係がない」



 南澤聖夜は1997年1月、神奈川県の港町に生まれた。父はアメリカの水兵で、基地のPXで働いていた母と出会った。その後、父はイラクで戦死。母は聖夜が中学校3年生の時にヤクザの車にひかれて死亡した。

 相手は横浜市を勢力圏とする暴力団須磨組の構成員、若頭の東岡慎一郎。聖夜は警察に訴えたが、当時は上層部がヤクザと癒着しており事件を揉み消しした。

(くそったれどもめ)

 復讐を誓った聖夜はアメリカの叔父を便りに渡米し、マフィアの一員と成った。ギャングからマフィアのボスにのし上がった生粋の犯罪者である叔父だが、家族への愛情は深かった。叔父から銃やナイフの使い方、喧嘩の仕方を教わった。

「聖夜、学校にも行け。俺達の仕事は喧嘩が出来るだけでは話にならん」

 アメリカは自由の国と呼ばれているが多民族の国なだけに人種差別も根強い物がある。保守的なレッドアメリカのディープサウス程でもないが、のし上がるには頭も必要だった。

「分かった」

 学校では英語が喋れないマイノリティと言う事で馬鹿にされたが、実力で黙らせた。腕っぷしの強さと言うのは力だけではない。殺す為に必要な手段を取ると言う行動力と断固とした意思だ。

 初めての殺しは対立組織の地区責任者で、用意された得物は確実に殺す為にデザートイーグルと言う化け物の様な銃だった。初弾さえ外さなければ相手に致命傷を与えられる。

 相手は車両で移動をする。狙うなら乗降する時だ。

 馬鹿みたいに燃料を喰うアメ車だが頑丈な車体は長持ちをする。防弾処置まですればちょっとした装甲車だ。

 確かに相手の脳髄を粉砕し頭蓋骨と脳細胞をシェイクした。だが聖夜は逃走まで考えていなかった。

 逃げ込んだ先は水産工場、手元には弾切れの銃しかない。目に写ったのは冷凍マグロだった。

(マグロ……これは、使えるか?)

 固い鈍器、鋭利な刃物が往々にして殺害の道具に使われる。冷凍マグロも十分に凶器になる。握ったマグロは聖夜の手にしっかりとフィットした。

(これなら殺れる!)

 この時、聖夜は冷凍マグロで相手の追跡者全員を始末し、冷凍マグロを愛用するようになった。

 そして現在。

 ロサンゼルスの港湾倉庫で取り引きが行われていた。ずらりと並んだ冷凍マグロ。2m近いサイズばかりだ。

「こいつは上物だ」

 以前、ホワイトツナと標記しながらエスカラーを売りつけてきた朝鮮人がいた。その時は太平洋に沈めて魚の餌にした。

 提示価格は1本13万ドル。今後の付き合いを考えて、聖夜は相手を信用し値引き交渉はしない。

「試し打ちがしたい」

 標的代わりに不法移民のメキシコ人が並べられた。

「せいやっ!」

 掛け声で投げたマグロがメキシコ人の頭を首からもぎ取って弾き飛ばした。マグロなだけに射つではなく打つだ。

 裏社会ではオムライスの弘子と言う殺し屋が居て、熱々のオムライスを顔面に当てて窒息死をさせている。事故に見せかける手間よりも、マグロで殺す方が早い。

「良い腕だな」

「このマグロが本物だからさ」

 聖夜は冷凍マグロを使い敵対する組織の者を葬って来た。マグロの聖夜と呼ばれる殺し屋だ。カスタムパーツを付ければマグロの威力はさらに増す。

 聖夜がマグロをクーラーボックスに入れて倉庫を出ると警官に取り囲まれた。FBIの特殊部隊まで出てきている。

『持ってる物を置き、腹這いになれ』

 向けられた銃口を平然と受け止めながら聖夜は答えた。

「おいおい、俺はマグロを買っただけだ」

 取り抑えられた聖夜は武装解除(マグロの没収)を受けて大型トレーラーの荷台を利用した指揮車に連れ込まれた。

「南澤君、君が我々に協力してくれるなら、我々も君に協力しよう」

 何を尋問されるのだろうと身構えていた聖夜だが、相手は政府の関係者である事を匂わすと日本のヤクザと汚職警官を抹殺すると言ってきた。

「そんな事が出来る訳」

「出来るさ。我々はビンラディンを殺し、サダムを殺し、カダフィを殺した。殺せない相手は居ない」

 帰りのタクシー代を貰うと解放された。「こちらから連絡する。それまで家で大人しくして居たまえ」

 家に帰るとタイミング良く携帯電話が鳴った。見覚えの無い電話番号だ。

『やあ南澤君』

 相手は先程の胡散臭い男だ。TVのチャンネル指定され、放送を見るよう言われた。

『死亡したのは神奈川県警の巡査部長で──』

 手始めに県警の松葉聡巡査部長が殺された。死んだ愛人の家で汚職の証拠も発見された。

『これで我々が本気だと知って貰えたと思う』

「俺に何をさせようと言うんだ」

 警察は威信をかけて犯人を追求しようとしたが、捜査の過程で松葉は外国工作員と接触していた事を確認した。警察内部に潜む左翼反動分子の協力者でもあった。この事件で警察幹部の大幅な入れ換えが行われ、警察組織の防諜が問われる問題に発展した。



 ハワイを経由してグァム島で訓練中の海兵隊に合流した聖夜は、揚陸艦に揺られフィリピン領海に近付いた。発艦するヘリコプターには聖夜の他に乗客が二人居た。どちらも米軍の兵士、プロの殺し屋だ。「おいグーク、作戦中にてめえのミスで面倒を背負い込む事はごめんだ。その時は殺すからな。覚えておけ」黒人の兵士はそう言うと目を閉じて目的地まで一言も話さなかった。

 もう一人は白人で、自己紹介を済ますと握手した手に力を込めて来た。

「ははは、お前は糞ジャップだな。この機会に俺が戦争を教えてやる。間違っても後ろからパールハーバーをするなよ。その時はお前のケツ穴にこいつをお見舞いしてやる」そう言うとAR-15自動小銃を軽く持ち上げた。それが今回、聖夜とチームを組む男達だった。

(どいつもこいつも糞ったれだ)

 痛みに顔を歪ませながら聖夜は白人に頷いた。

 海兵隊のヘリコプターが島の上空を通過すると射撃を浴びた。私有地で上空の飛行を制限されているとは言ってもやりすぎだ。F-35攻撃機とAH-1Z攻撃ヘリコプターが脅威となる敵の防空網を破壊する為、掃除にやって来てくれた。

「ははは、バーベキューだ」

 爆笑するアメリカ人を見て自分とは人種、人間性が違うと聖夜は実感した。

 冷めた眼差しの聖夜を視界の端に入れながら、アメリカ人の方でも聖夜を異質な存在だと感じていた。何しろ冷凍マグロを武器に戦う東洋人は理解を越えていた。

(マグロで戦うなんてカートゥンのキャラか、こいつは)

 答えはすぐにわかる。

 ヘリコプターで島に降りた聖夜達は民兵を排除しながら工場を目指した。

「空爆すれば簡単に済む話じゃないのか」

 会話をしながらも黒人兵士はスプリングフィールドのボルトアクションライフルで敵を倒していた。

「お偉いさんは証拠が欲しいんだとよ」

 走りながら白人兵士もAR-15で集団をなぎ倒して行く。

「それならなおのこと、もっと兵隊を送り込んで島を制圧すれば良いじゃないか」

 聖夜も確実にマグロで敵を葬っている。マグロのカブトアタックは強烈で、敵の顔面に当たると後頭部まで粉砕してぶち抜く威力だ。

 快調に進んでいた足が止まる。

「畜生!」

 工場の入り口に戦車の姿があった。骨董品と呼べるT-55戦車だが歩兵には脅威となる。随伴歩兵を伴っておりかなり自分達は不利だ。

「行け糞ジャップ、ここは俺達に任せて!」

「しかし」

「俺達はアメリカの軍人だ。戦って死ぬ事を恐れない」

「お前はまだ若い。工場をぶっ潰して生きろ」

 爆破のやり方を知らないし、爆薬なんて持ってないと答えようとしたが背中を押されて二人は此方を見ていない。

(どうしろって言うんだ?)

 とりあえず戦車を避けて工場の中に聖夜は走った。



 外で戦車が走り回る音と銃声が背中越しに聴こえた。二人が敵を撹乱してくれている。時間は限られている。破壊に必要な物を探した。

(日本語の注記が多いな。日本に工場の建設を依頼でもしたのか?)

 事務所の中をそっと覗くと、工場長の名札をつけた男が居た。バッサーノとカタカナで書かれている。

「手をあげろ」

「うわっ……」

 マグロを突きつけられてバッサーノは両手をあげて命乞いを始めた。

「助けてくれ、俺には妻と子供が居るんだ!」

「黙れ。この工場の警備は何だ。かやくとは何なんだ」

 マグロで頭を小突かれてバッサーノは生産ラインに案内する。

「かやくはかやく、これだよ」

 バッサーノに案内されて中を覗いた。

「ネギとニンジン?」

「ああ、ここではそいつを作る行程だ」

 聖夜の脳裏に即席麺のかやくが浮かんだ。

「ただのかやくじゃないか!」

「だからそうだって何度も言ったろ!」

 かやくは口に含む食品である。異物混入は死活問題だ。だから警備も強化していた。

「何でアメリカ人はかやくを危険視してるんだ?」

「アメリカ人が戦争を始める理由なんて俺達に分かるわけ無いだろう!」

 頭のおかしい人に刃物を持たせてはならない。それは世間の常識だ。

 そして頭のおかしい指導陣に率いられた国は、間違っている事でも突き進める。頭が足りない者は恐ろしいと言う事を知らされた。

 生還した聖夜の報告をCIAは揉み潰そうとした。だが、無実な民間人を襲った外道なアメリカの事件はネットで広められた。撃墜されたブラックホークの残骸、戦死したアメリカ兵士の遺体や装備が証拠だ。各国のジャーナリストは「アジア版のグラディオ作戦だ」と、こぞってこの事件を報道した。

 ここまで広まれば、聖夜の口風じをする必要も無くなっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんというか、アメちゃんバカでえ!な話ですね。
2015/08/31 00:47 退会済み
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