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因果応報 後

 さて、ところかわってここは宮殿の大食堂である。

 皇帝が自らの権勢を誇示するために一族の者や有力貴族を招いて行う食事会が、今日も開催される。

 いつもと違うとすれば、今日の献立は皇族や貴族たちがいくら金を積んでも通常なら食べられないであろう極上のものであるというだけだ。

 このような機会に巡り合えたことを、彼らは夕陽に感謝すべきであろう。

 皇族たちや貴族たちがお互いの黒い腹を隠しながら談笑しているところに、あやめ皇帝陛下が現れると、彼らは一斉に静まって礼をした。

 夕陽はというと、皇帝の傍に仕える役人のなりをして、あやめ皇帝の

そばに控えている。

「神様、やってしまってください。」

 料理を運ばせ終わると、あやめ皇帝は夕陽に耳打ちした。

 夕陽はそれを受けて、大食堂全体を世界から切り離して密室にしたうえで、皇族たちや貴族たちの認識にかかっている靄を取り払い、バカ殿が皇帝であったことを思い出させた。

「あああああああ!う、ああああ!」

 とたんに、耳障りな叫び声が最前列から聞こえてきた。あの色白の虚弱そうな皇太子である。きっと自分が先ほど生きたまま肉を剥ぎ内臓を引きずり出した男が何者であったか気がついたのだろう。

「しずまれ、クズども。」

 あやめの一言とともに、発狂していた皇太子や、あやめや夕陽に斬りかかろうとしていた「忠臣」たちは体がしびれて動かなくなる。

「今日は最高級の肉が手に入ったから、皇族や貴族の皆さまにハンバーグを御馳走しますね。農民の血を吸って育った豚の肉ですから、普段からご自身も農民の血を吸って生活なさっている皇族や貴族の方々には気に入っていただけるかと思います。」

 あやめはそう言って、床に転がっている皇太子を引きずってきて、その口に皇帝肉ハンバーグを押しつけた。

 「そうそう、皆さまお食べにならなければ、今度はご自身が肉団子になることになりますよ。それでは今から痺れをとりますから、みなさま一斉に召し上がってくださいね。あ、もし私に斬りかかってくるような愚かな方がいらっしゃるなら、その時はこの皇太子さまと、その弟君が肉団子になりますよ。」

 皇族と貴族どもの痺れが解かれた。しかし、だれもハンバーグに手をつけようとしない。皆一様に様子をうかがっている。

「あら、食べていただけないようですね?では皇太子さまにまず手本を示していただきましょう。」

 あやめはハンバーグをフォークに刺すと、皇太子の首に刀を添わせつつその口にハンバーグをねじ込んだ。皇太子はハンバーグを吐きだそうとしたが、夕陽がすかさず皇太子の口を手でふさぎ、頭を掴みゆすってハンバーグをのみこませた。

「おいしかった?」

「うっ、ぐっ……」

 皇太子がハンバーグを吐きだそうとするのを、あやめは持っていたフォークを突き刺して上唇と下唇を縫合することによって防いだ。

 皇太子はしばらく痛みにもんどりうち、結局はハンバーグを完全に飲み込んでしまった。

「あらら、お父様を食べてしまうなんて、神様がご覧になったら、きっと

お怒りになってあなたを地獄に落としてしまいますね。」

 神の存在は確信しているが、全く信仰はしていないあやめが、うすら笑いを浮かべながら言った。実際のところ夕陽としては誰が誰を食べようとどうでもよいことなのだが。

「ほら、みなさん、早く食べてくださいな。」

 様子をうかがっている皇族貴族に、痺れを切らしたのかあやめがニヤニヤ笑いながらつぶやく。

「……、私が食べろと言ってから、もう五分以上経ちましたね。私は公明正大で信賞必罰を主義とする人間ですので、約束の通り、まずは皇太子の弟君からお亡くなりになることになります。」

 あやめは刀を振りかぶって、弟君に向かって振り下ろした。刀は弟君の顔に当たり、あたりに鮮血が飛び散った。床にたおれた弟君の腹に、あやめはさらに容赦なく刀を突き刺す。

「き、貴様っ!」

 忠臣気取りの小太りの皇族が、剣を抜いてあやめに斬りかかった。それに続いて様子を見ていた内の半分近くが剣を抜き、あやめと夕陽に殺到する。

「僕に任せて。」

 夕陽はあやめを守るように立ちはだかり、右手を挙げて小太りの皇族を指さした。そのとたん、小太りの皇族は風船のように膨れ上がり、鼓膜をつんざく大きな音をたてて爆発した。室内にあった調度品やもろもろも、爆風を受けて吹き飛び、あとに残ったのは小太り皇族の肉片と血を全身に受けた夕陽と、夕陽に守られたあやめだけだった。

「しまった。やりすぎたみたいだ。」

 爆発の威力はとてつもなく大きく、部屋にいた皇族と貴族は全員が死体となっていた。老若男女合わせて百人ほどの死体があたりに無造作に転がっている。

「ごめんね。君の楽しみを奪ってしまったみたいだ。」

 夕陽は少し困ったように頭を掻きながらあやめに言った。

「いえ、もう十分楽しめました。」

 あやめはそう言いつつも、近くに転がっていた皇太子の死体を踏みつけた。まるでまだ遊び足りないとでも言うように。

「さて、じゃあこの部屋の隔離状態を解消した後に、宮殿に火をつけて焼きつくそう。皇族も有力貴族もいなくなったこの国は、きっと分裂して大混乱に陥るだろうから、君は早く逃げたほうがいい。僕は気に入った人を依怙贔屓するのが好きだから、君が寿命を全うするまで平穏無事に暮らせるようにと祈っておくよ。」

「いえ、私は復讐を遂げたので、もう自決します。」

 あやめの答えは夕陽にとってはかなり意外なものだった。

「好きな人と一緒にいられない世界なんて、意味がありませんから。」

 夕陽の疑問を先読みするように、あやめはさらりと言ってのけた。そして、唖然としている夕陽の前で、手に持っていた刀を首にあて、何のためらいもなく自分で首を掻き切った。飛び散った血が夕陽のすでに血にまみれた白装束をさらに赤く染めた。

「人間は本当に不思議だな……」

 顔にかかった血を袖で拭きながら、夕陽はつぶやいた。あやめは自分と似た精神構造をしていると思ったのに、一番肝心な部分は自分とは違ったようだ。

 不思議に思うと同時に、夕陽はあやめにそこまで想われているあやめの恋人を少し羨ましいと思った。

「とりあえず片づけをしないとな。」

 夕陽は気をとりなおして、部屋の封鎖を解き、それから宮殿に火をつけた。火は瞬く間に燃え広がり、灰になった跡には皇族がため込んでいた金銀財宝が至る所に顔をのぞかせ、市民たちがそれを我先にと互いを押しのけあって奪っていった。

 天に戻った夕陽は、今日貯めた感情力でどのように世界を広げようか、これから始まる戦乱で増大する感情力でどんな世界をつくろうかとわくわくしながら、雲の布団をかぶり、玉の枕に頭をあずけて眠りに就くのだった。

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