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因果応報 前

 この世界の神様は名前を夕陽という。別に誰かがつけたわけではない、夕陽の自称である。

 この世界の人間が、西に沈みゆく夕陽を信仰する原始宗教を遠い昔に信じていたので、その時に何となく思いついてつけた名前だ。

 むろん、この名前を他人に名乗ったことは一度もないのだが。

……

 夕陽は今日も早速面白そうな玩具を見つけてきた。

 地上にある国の一つ、紫の国の都、その中央にある宮殿でふんぞり返っている皇帝陛下である。

 この馬鹿皇帝陛下、にへらにへらと顔面の筋肉が溶けたような笑いを浮かべている中年オヤジであるが、その柔和そうな外見に騙されてか、国民からの支持率は六割は超えているそうで、しかしその実、まともに政治もしないで無駄飯ばかり喰っているごくつぶしである。

 夕陽としては、人間社会に階級というものが存在するだけで不幸が大量に生産されるので、皇帝陛下万歳なわけだから、今までは放置しておいたのだが、今日はなんとなくこのにへらにへらとした顔面をつぶしてやりたい気分なので、玩具にすることに決めたのだ。

 しかし、ただこいつを嬲り殺すだけでは感情力回収効率はあまりよくならない。ということで、夕陽はもう一工夫を用意していた。

 名づけて「入れ替わり大作戦」である。

 何のことはない、この皇帝陛下と、皇帝陛下に虐げられていた民を入れ替えて遊ぶのである。

 入れ替わり相手は、皇帝陛下が領土欲しさに起こした戦争で恋人を亡くしたあやめさん(18)に決めた。このあやめさん、かわいい顔をして思想は過激で、期待できそうである。入れ替わりの詳細を話したところ二つ返事で承諾してくれた。

 虐げられた弱者の復讐に手を貸すなんて、なんとすばらしい神様でしょう、夕陽様は?

 入れ替わりの詳細はこうだ。明日目を覚ましたら、二人の地位だけが入れ替わる。姿形はそのままだが、周りの人間の認識は夕陽が改変するので問題ない。あやめさんは一夜にして皇帝に、皇帝陛下は一夜にして貧農になるというわけだ。

 その後の展開はあやめさんに任せてあるから、夕陽は覗き穴からゆっくりと鑑賞しつつ、適度に干渉するだけだ。

……

 そして翌朝、皇帝陛下あらためてバカ殿は、今にも崩れそうなあばら家の中で、夕陽のプレゼントしたボロ布の服に包まれて、蚤にかまれながら目を覚ました。

 いくらボンクラの脳なしでもすぐに異常に気がついたようで、にへらにへらした顔が凍りつき、あたりを見回し始めた。

「誰か、誰かおらぬか!」

 威勢だけは誠に皇帝の名に恥じない。当然だが、誰も来ない。まだ朝四時なので、あたりの農家の農民もまだ寝ている。

 さてと、ここら辺で少しからかってやろう。

 夕陽は下界に降りて、バカ殿の背後に立った。

「呼んだ?」

 バカ殿は驚いたようだったが、すぐに[皇帝の威厳]を取り戻して、まるで自分がその血統だけで他人より貴いということが天から与えられた法則であると確信しているような自信に満ちた声で話しだした。

「ここはどこだ?お前は誰だ?」

「ここはどこって、君の国の中だよ。そんなこともわからないのかい?僕は誰かだって?君が勝手にご先祖様だと主張している、君に王権を授けたと君が主張しているその存在だよ。僕には子供すらいないのに、子孫がいるなんておかしいねえ。」

「無礼者!その口のきき方はなんだね?」

 ボロをまとって凄まれても、笑えるだけである。

「無礼者はそちらだよ。まあいい、とりあえず警告しておいてあげよう。早く逃げなさい。逃げないと、三日後には君は生きたまま内臓をえぐられて肉団子にされることになる。」

「な、何を言う?」

「たしか君の趣味だったね?反体制派を不敬罪でとらえて肉団子にして犬の餌にするのは。次は君がそれをされるってだけだ。まあ自業自得だよね。」

「おい、待て!」

 言いたいことだけを言って、夕陽はとっとと天上に戻った。

 のこされたバカ殿は呆然としていたが、やがて周りの状況を確かめるために外に出て、隣の家の戸を叩いた。

 叩き続けて三分余り、早朝にたたき起されて不機嫌な顔の壮年の農民が目をこすりながら戸をあけた。

「あんた誰だい?この朝早くに何の用だ?」

 相手の不機嫌そうな声をものともせず、バカ殿は相変わらず皇帝風を吹かせている。

「朕は皇帝である。」

「は?」

 農民は眠そうな目で皇帝の顔を眺めてから、戸を閉じて鍵をかけた。

「おい、皇帝を無視するとは不敬罪に当たるぞ。」

「うるせぇ、俺は眠いんだ。失せろ。失せねえと殺すぞ。」

 まあ予想通りの展開ではある。ここで頭を下げて、助けてくださいと言えば少しはましだったろうに。僕の警告を聞いて逃げる様子もなさそうだ。

……

 そして時も場所も変わって、三日後の宮殿。

 あやめ皇帝は入れ替わってすぐに人相書を各地に回してバカ殿を指名手配し、バカ殿をあっさりとつかまえた。目を覚ましたあのあばらやから動いていなかったというのでなんともあきれる。

 バカ殿は狼藉をはたらくなだの、国恩を忘れたかだのわめいていたが、喉をつぶす薬を飲まされてからはすっかりおとなしくなり、今は地下牢につながれている。

 ちなみにバカ殿の罪状は不敬罪と国家反逆罪らしい。

 政治もまともにしなかった飾り物ごくつぶしにはいささかもったいない罪状ではあるが、こんなものは口実なのでどうでもいいのだとはあやめ皇帝のお言葉。

 さて、バカ殿は今日、僕の予言通り肉団子になることになる。

 あやめ皇帝が直々に色白の如何にも虚弱そうな皇太子を連れて地下牢に降り、天井からつるされるように拘束されたバカ殿の前に立つ。

「ほら、教えた通りにやりなさい。」

 あやめ皇帝が皇太子に割牛刀をわたし、命令する。

「で、でも、……」

「でもではありません。やらなければ皇太子の位を弟にあげてしまいますよ。」

「は、はい。」

 この皇太子、気弱そうに見えてなかなかのものだ。そんなに皇太子の位を失うのが恐ろしいのか?

「では、始めます。」

 皇太子の持つ刀が、バカ殿の腹に近づいていく。

 バカ殿はうめき声をあげながらジタバタしていたが、刀は容赦なく腹に入っていった。

「まずは内臓を傷つけないように、表面だけ取るのよ。」

 バカ殿の恐れの感情と、あやめさんの喜びの感情がどんどんと感情力値を上昇させていく。

 バカ殿は表面からどんどん削り取られ、刀が内臓に達したころにようやく絶命した。

 夕陽はバカ殿の魂を捕まえて、話しかけた。

 死後の魂というのは神を見ると神であるとすぐに認識できるようになっているので、今回はバカ殿も横柄な態度はとらなかった。

「因果応報だよ。君は民から取り上げた税金で無駄飯を食べ、無意味な戦争を起こしては無謀な作戦や自爆強要で人を殺してきたんだから。それだけ楽しんだのなら、同じだけの苦しみがあって当然だよね。」

「神様、私は故意にしたわけではありません。あれは国家を守るために仕方がなくしたのです。」

「故意かどうかはされた側には関係ないよね?まあ、君のおかげで僕はずいぶんな量の不幸を感情値として収穫できたから、その点ではまあほめてあげるよ。あ、それと冥土の土産に教えておくけど、これから君の妃や皇子たちも酷い目にあうけど、あいつらも民の血を吸って生きてきたのだから、今から血を吸われ肉を食らわれるのは当然だよね。じゃあね。」

 夕陽はそう言い捨てて、バカ殿の魂を蹴って追い払った。

 あやめはというと、満足そうな笑みを浮かべつつ、皇太子が切り落とした肉を厨房に運ばせ、肉団子をつくらせている。

「もうよい。」

 バカ殿の内臓がほぼすべて床に落ち、血の池ができたあたりで、あやめは皇太子を下がらせた。

「神様、すこしいらしていただけますか。」

 あやめが夕陽を呼んだ。夕陽はすぐに下界に下り、あやめの傍に現れた。

「うわー、派手にやったねえ。」

 バカ殿の体はもはや原形をとどめていない。顔がなければ誰だかわからないだろう。

「見どころはこれからですよ。それで、次の段には神様にもご臨場とご協力をお願いしたいのですが。」

「うん、どんなことをするんだい?」

「次はですね……」

 計画を聞くと、夕陽は神様とは思えない悪魔的な笑いを浮かべ、二つ返事で了承した。

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