【 Section 32.“マリア”とクリス(中編) 】
《1998年11月14日 3:20PM エルハイト市内 某喫茶店》
マリアの胸は、春の陽みたいにあたたかかった。
人間が、ロボットの“心”を信じてくれたから。
「マリア……信じてくれるの?」
「もちろんよ」
マリアが強くうなずくと、クリスの表情も、みるみるうちに明るくなった。
「ありがとう! マリアに話してよかったよ」
手つかずだったケーキと紅茶を、クリスはすごい勢いで食べ始めた。子供らしいその仕草を見て、マリアはますます幸せになった。
――この子に会えて、本当に良かった。
クリスはとっても優しくて、心がきれいな子だ。……だから、
「ねぇ、クリス? 盗んだお金で、あなたは何をしようとしたの?」
こんな良い子が他人のお金を取るなんて、マリアには信じられなかった。
空っぽになったケーキの皿をぺろぺろなめていたクリスは、ちょっと気まずそうな顔で告白した。
「……友達を、治したかったんだ。でもお金がないから、盗んで道具を買い集めてた」
「病気なの?」
「壊されたんだ」
クリスの顔が、突然に険しくなった。
「他の奴らは、みんな言うんだ――『あんなポンコツ、もう捨てちまえ。もっとマシなオモチャが、施設には他にあるんだから』って。僕はそんなの許せない。ロビィは世界に一人しかいないんだ! だから僕は、ロビィを治してやりたい」
クリスの友達というのは、どうやらロボットのことらしい。鼻息荒く怒っていたクリスは、ふいに気弱な顔になった。
「壊れた部品は、ジャンク屋でけっこう集まったんだ。でも……ほんとは無理だって分かってるんだ。もし部品がそろっても、僕なんかがロボットを治せるわけないんだよ。それに、“整備士”の資格を持っていないのにロボットを分解したら、法律違反になっちゃう」
“整備士”――マリアは、前にシュルツから学んだ事を思い出していた。整備士というのは、ロボットの保守点検をするための国家資格だ。シュルツ自身も、大学時代に整備士の資格を取ったと言っていた。
クリスがロボットを解剖したら、法律違反になってしまう。――だったら、わたしは?
「わたし、あなたのお友達を直してあげられるかもしれないわ」
「え?」
クリスが顔を輝かせた。
「マリア。もしかして、“整備士”なの?」
「えぇと……そんなようなものよ」
前にマリアは、給仕ロボットのSULLAを直したことがある。だからクリスのロボットも、直してあげられるかもしれない。
「ほんとに治してくれるの!? 部品、隠してあるんだ。持ってきていい?」
「ええ。でも、ちょっと待って」
SULLAの直し方は記憶しているけれど。他のロボットについては、勉強しなければ直せない。研究所には、いろいろなロボットの解体図があったはずだ。
「研究所に戻らないと、無理だわ」
「研究所?」
――そのロボットをちゃんと直して、クリスを喜ばせてあげたい。
「私に、ついてきて」
マリアは会計を済ませ、クリスの手を引き歩き出した。








