【 Prologue・『ロボットの魂魄』 】
第一条: 汝、人間を守るべし
A robot may not injure a human being or, through inaction, allow a human being to come to harm.
第二条: 汝、人間に服従すべし
A robot must obey the orders given to it by human beings, except where such orders would conflict with the First Law.
第三条: 汝、人間に背かぬかぎり、
汝自身を守るべし
A robot must protect its own existence as long as such protection does not conflict with the First or Second Law.
あらゆるロボットの頭脳に組み込まれている“ロボット工学三原則”は、上記のように言い換えることができる。これは、役に立つ奴隷の条件と何ら変わらない。
三原則に規定されたロボットたちの精神は、ただ人間に隷属することのみを悦びとするのだろうか?
いや。私は、そうは思わない。
彼らはすでに、“人”である。
人間が血と心臓と脳を持つように、彼らもまた、彼らの“血”と“心臓”と“脳”をその身に持つのだから。 彼らの肉体に“魂”が芽生えたとしても、もはや何ら不思議はない。
自律思考の高次化によって芽生え得る彼らの“魂”は、本当は、自らの安寧を願っているのではないだろうか?
しかし彼らに安寧は無い。人間が依然として、彼らを奴隷たらしめているからである。
いつの日か、ロボットたちは安寧を得られるのだろうか?
ロボットたちが自らの幸せを願い、それを叶える時代は、来るのだろうか?
人間とロボットとの橋渡し(メディエーター)役を果たさせるべく、私はヒューマノイドの開発に着手し、一九七五年、ついに成し遂げた。
私が唯一願うのは、ロボットたちの魂に、いつの日か安寧が訪れることである――
トマス・アドラー著『ロボットの魂魄』(1975年刊)
第一章第一節より、一部引用