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記憶

作者: 蒼久保
掲載日:2013/07/19

食卓にトレイが並び、そこへ色彩いろどり豊かな食材が並べられてゆく。



食材の香りが唾液だえきを刺激し、


濃厚な味を想像して舌が待ち受けている。


銀燭ぎんしょくの食器が光をいくつにも乱れさせ、


白い壁にカラフルな色をつけている。


遅く起きて来た私は、ゆっくりと新聞を広げ、


それを待ち受けていた犬が私の組まれた膝へ飛び乗ってくる。


座り心地の悪さが、なんとも愛らしいのである。


さらに視線をくゆらすと、カップに注がれたコーヒーが


その名前の全てである香りを周囲に撒き散らして味と一緒に消えてゆく。



私はゆっくりとコーヒーを口につける。



熱い。



下唇をかばいながら、それでも喉がほっする黒い液体をすする。



窓からは、朝とわかる光が斜めに差し込み、ちょうどその中に


スポットライトの様に昨晩ゆうべまで遊んでいたのだろうプラスチックの車が


タイヤを空へ広げて陽光ようこうを浴びていた。



外へ視線を向ける。


喧騒けんそうはここまで届いていない。窓で外の世界とを区切ってしまったかのように


車も、空気も、風も


その全てがここにあると眼球だけが語っている。


だのに、耳にはその存在はない。届いてこない。



でも、ここは幸せが詰まっている。






遠い視線を何度も行ったり来たりを繰り返し


土で出来た、恐らく皿のような泥をうっとりした様子でみている。


手にしたショベルを口元にもってゆくと、目を閉じ


鼻をならし、首を横へ微かに振りながら


口をつける。


砂が口へ運ばれている。砕石場さいせきじょうのベルトコンベヤのように。


ニッコリと音がする笑顔を此方こちらにむけて


隔壁かくへきされたガラスの向こう側の赤ん坊は


砂場で遊んでいる。





ふと、砂利の味が広がると


もう次には、赤ん坊もシャベルもコーヒーも犬も


シャボンの割れる時と同じに消えた。


日差しの暖かさが確かにそこにある。


でも、もうそれもながくとどまりはしなかった。

楽しんで頂けたら幸いです。

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